機械指令と機械規則の違いを正確に理解する方法

機械指令と機械規則の違いを正確に理解する方法

機械指令と機械規則の違いを正確に理解する

機械指令と機械規則は「同じようなもの」だと思っていると、対応コストが数百万円単位で増える可能性があります。


この記事のポイント3選
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機械指令(MD)とは何か

EUの旧来の法的枠組みで、加盟国が国内法として転換する必要がある「指令」形式の規制です。2006/42/ECとして知られ、現在も多くの企業が対応しています。

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機械規則(MR)とは何か

2023年に公布された新しい「規則」形式の規制(EU 2023/1230)で、加盟国の国内法転換なしに直接適用されます。2027年1月20日から完全適用開始予定です。

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違いを知らないと生じるリスク

適用時期・対象機械・サイバーセキュリティ要件など、多くの点で内容が異なります。旧指令のままでは2027年以降にEU市場へ出荷できなくなるリスクがあります。


機械指令(2006/42/EC)の基本的な仕組みと対象範囲

機械指令(Machinery Directive、通称MD)は、EU域内で販売・使用される機械の安全性を確保するために2006年に制定された法的枠組みです。正式名称は「指令2006/42/EC」であり、これまで20年近くにわたってEUの機械安全規制の中核を担ってきました。


指令(Directive)という形式が重要なポイントです。指令はEU加盟国に対して「達成すべき目標」を示すものであり、各国政府がそれぞれ国内法に転換する必要があります。ドイツであればProdSG(製品安全法)、フランスであれば対応する国内規定として実施されます。つまり、加盟国によって細部の規定に微妙な差異が生じる余地があるということです。


機械指令の適用対象は非常に広く、以下のような製品が含まれます。



一方、航空機・船舶・鉄道両、医療機器(MDR対象)、家庭用電気製品(低電圧指令対象のもの)などは原則として除外されています。対象かどうかを確認するのが第一歩です。


機械指令への適合を示すためには、CEマーキングを製品に貼付するとともに、適合宣言書(DoC:Declaration of Conformity)を作成し、技術文書(Technical File)を10年間保管する義務があります。これらの書類整備を怠ると、EU市場での販売が法的に不可能になります。


なお、機械指令に基づく整合規格(EN規格)は3段階に分類されています。Aタイプ規格(基本安全原則)、Bタイプ規格(特定の安全側面)、Cタイプ規格(特定の機械カテゴリ)という構造です。Cタイプ規格が存在する場合はそちらを優先適用するのが原則です。


機械規則(EU 2023/1230)の主な変更点と施行スケジュール

機械規則(Machinery Regulation、通称MR)は、2023年6月29日にEU官報で公布された新しい規制であり、正式名称は「規則(EU)2023/1230」です。旧来の機械指令に代わる法的枠組みとして位置づけられています。


最大の違いは「規則(Regulation)」という法形式にあります。規則は加盟国への転換作業を必要とせず、公布後に定められた期日からEU全域で直接・一律に適用されます。加盟国間での実施のばらつきがなくなる点で、企業にとって予測可能性が高まるともいえます。


施行スケジュールは段階的に設定されています。


  • 2023年7月19日:発効(公布から20日後)
  • 2024年1月20日:デジタルインストラクション(EU言語での電子的取扱説明書)に関する条文の適用開始
  • 2027年1月20日:規則の完全適用開始(機械指令の廃止)


2027年1月20日という日付が重要です。この日以降、機械指令(2006/42/EC)は廃止され、新たにEU向けに出荷される機械はすべて機械規則への適合が必要になります。ただし、2027年1月20日以前にEU市場に出荷済みの製品については、旧指令の適合宣言が引き続き有効です。


機械規則で特に注目すべき変更点のひとつが、サイバーセキュリティ要件の追加です。機械指令にはサイバーセキュリティに関する明示的な要件がありませんでしたが、機械規則ではソフトウェア・デジタル接続を持つ機械に対してサイバーセキュリティリスクへの対処が求められるようになりました。IoT対応機械や産業用ネットワーク接続機器を製造する企業は、とくに注意が必要です。


また、リスクアセスメントの文書化要件が強化され、本質的安全設計(inherently safe design)の優先順位がより明確に規定されています。これが対応コスト増加の主な要因の一つです。


欧州委員会による機械規則の公式テキストは以下で確認できます。


EUR-Lex:規則(EU)2023/1230(機械規則)の公式テキスト(欧州連合公式サイト)


機械指令と機械規則の具体的な相違点を比較する

機械指令と機械規則は、名称こそ似ていますが、実務上の対応が異なる点が複数あります。整理して把握しておくことが大切です。


まず最も根本的な違いは先述の「法形式」です。指令は加盟国が国内法化するものであるのに対し、規則はEU全域で直接適用される点が異なります。これにより、ドイツ・フランス・イタリアなど複数の加盟国向けに販売する際の規制対応の均一性が高まります。


比較項目 機械指令(MD) 機械規則(MR)
法形式 指令(Directive) 規則(Regulation)
根拠番号 2006/42/EC EU 2023/1230
国内法転換 必要 不要(直接適用)
完全適用時期 2006年(廃止予定:2027年1月) 2027年1月20日〜
サイバーセキュリティ要件 なし あり(新設)
AIシステム対応 規定なし AI法との整合を考慮
電子的取扱説明書 限定的な対応 明確な要件あり
適合宣言書(DoC) 紙媒体が主流 デジタルDoC対応


次に、適用対象の変更も見逃せません。機械規則では、「部分的に完成した機械(partly completed machinery)」に関する要件が整理されており、複数の機械メーカーが連携して一つのシステムを構成する場合のそれぞれの責任範囲がより明確に定義されています。サプライヤーとシステムインテグレーターの両方にとって影響があります。


また、AIや自律型システムへの対応が機械規則の大きな特徴のひとつです。EUのAI法(AI Act)との整合を念頭に置いた規定が盛り込まれており、学習型AIを内蔵した機械については追加的な安全要件が求められることになります。これは機械指令には存在しなかった視点です。


重要なのは、旧指令に基づく整合規格(EN規格)が機械規則のもとでも当面は使用可能である点です。ただし、新規則に対応したEN規格への更新作業が欧州規格化機関(CEN/CENELEC)で進んでいるため、今後は段階的に規格が置き換わっていきます。今の時点から整合規格の動向を追うことをおすすめします。


機械規則への移行で実務担当者が特に注意すべき手続きの変化

実務担当者の視点から見ると、機械規則への移行に伴う手続き上の変化はいくつかの点に集中しています。知っておくだけで対応コストを大きく下げられます。


まず、技術文書(Technical Documentation)の要件が強化されています。機械規則では、リスクアセスメントの実施記録に求められる詳細度が上がっており、単に「安全基準を満たしている」と記述するだけでは不十分です。どのリスクをどのような設計変更・保護措置・警告によって低減したかを体系的に示す必要があります。


適合宣言書(DoC)のデジタル化も重要な変化です。機械規則のもとでは、紙の適合宣言書だけでなく、デジタル形式での発行・管理が認められます。製品にQRコードなどを貼付してデジタルDoCへのアクセスを提供する形式が、実務上の標準になっていく見通しです。これは書類管理の効率化につながります。


第三者認証機関(ノーティファイドボディ)の関与が必要になるケースも拡大しています。機械指令では自己適合宣言(Self-Declaration)が可能な製品が多くありましたが、機械規則では付属書I(旧付属書IV相当)に列挙されたリスクの高い機械については、ノーティファイドボディによる審査が必須となる範囲が整理されています。


  • 鋸盤(電動チェーンソー・帯鋸など)
  • プレス機・折り曲げ機
  • 射出成形機・圧縮成形機
  • 建設用昇降機・可搬型荷役機械
  • 爆発性雰囲気で使用される機械


これらに該当する製品を扱っている場合は、2027年の施行前にノーティファイドボディとの契約・審査スケジュールを確保しておかないと、施行後すぐに出荷できない状況に陥るリスクがあります。ノーティファイドボディの審査枠は需要集中で逼迫することが予想されるためです。


日本の製造業向けに機械規則の移行支援情報を提供している資料として、以下も参考になります。


JETRO(日本貿易振興機構):EU機械規則に関する解説ページ(EUの規制動向と日本企業への影響を解説)


機械指令・機械規則の違いが収納・搬送設備の設計にも影響する理由

「収納」という文脈でも、実はこれらの規制は無縁ではありません。これは意外に見落とされがちな視点です。


工場・倉庫・物流センターなどで使用される自動倉庫システム(AS/RS)や自動搬送ロボット(AMR/AGV)、自動棚搬送システム(Goods-to-Person方式)は、すべて機械指令・機械規則の適用対象となりえます。Amazonの物流センターで採用されているKiva(現Amazon Robotics)型の棚搬送ロボットも同様の規制枠組みの下に置かれています。


機械規則において特に収納・搬送設備に影響するのは、自律型システムに関する追加安全要件です。機械規則では、機械が学習・適応する機能を持つ場合(機械学習を活用した動的経路計画など)、設計段階からそのリスクをアセスメントに組み込む必要があります。旧指令のもとで設計・申請済みのシステムを機械規則に切り替える際、この点が設計変更を要求される可能性があります。


また、機械同士のインターフェース(接続部分)の安全性も問われます。例えば、自動搬送ロボットと自動ラック・棚設備を組み合わせたシステムでは、各コンポーネントのメーカーがそれぞれの技術文書と適合宣言を準備しつつ、システム全体としての安全性評価も必要になります。これが「部分的に完成した機械」の規定が整理された背景にあります。


さらに、機械規則ではサイバーセキュリティ要件が追加されたことで、ネットワーク接続型の自動倉庫システムに対して新たな対応が求められます。WMS(倉庫管理システム)と連携する搬送ロボットがサイバー攻撃を受けた場合の安全側への制御(フェイルセーフ)の考え方を、設計・技術文書に反映させる必要があります。


物流・倉庫向けの機械安全に特化したコンサルティング会社や認証機関(TÜV Rheinland、SGSなど)では、機械規則への移行に向けたギャップ分析サービスを提供しています。既存の自動倉庫設備を機械規則に適合させるためのロードマップ作成を早期に検討することが、2027年の施行に向けた現実的なアプローチです。


日本機械工業連合会(日機連)でも、EU機械規則に関する情報収集と会員企業向けの情報提供を行っています。


日本機械工業連合会(日機連):EU機械規則を含む国際規制動向に関する情報提供(会員企業向け資料あり)