

直流TIG溶接機だけ買っても、アルミは1ミリも溶かせません。
収納情報
TIG溶接機を購入してアルミを溶接しようとしたとき、最初にぶつかる壁が「直流か交流か」という問題です。結論から言うと、アルミの本格的なTIG溶接には「交流(AC)」モードが必ず必要になります。これはアルミという金属の特性に由来するもので、機種選びを間違えると溶接作業が一切できません。
アルミは空気に触れた瞬間に表面に酸化皮膜が形成されます。鉄の錆とは異なり、放置して徐々に形成されるのではなく、ほぼ瞬時に薄い膜ができます。この酸化皮膜はアルミ本体の融点(約660℃)よりはるかに高い約2,050℃まで溶けないため、そのまま直流TIGでアークを当てても下の母材が溶けずにプールが形成されません。つまり直流TIG溶接機だけではアルミは溶けないのです。
交流TIG溶接では、電流の方向が交互に切り替わることで「クリーニング作用」が生まれます。電流の半周期でアルミ側が陰極となり、電子がアルミ表面に衝突して酸化皮膜を破壊しながら溶接が進みます。これによりアルミ本体の融点まで加熱でき、きれいなビードが形成される仕組みです。
つまり重要なのは、AC/DC切り替えが可能な機種を選ぶことです。
| 電流の種類 | 対応材料 | アルミ溶接の可否 |
|---|---|---|
| 直流(DC)のみ | 鉄・ステンレス・チタン | ❌ 不可 |
| 交流(AC)切り替え可能 | アルミ・マグネシウムを含むほぼ全金属 | ✅ 可能 |
100V対応でAC/DC切り替えができる代表的な機種として、WELDTOOL社の「WT-TIG200K」があります。従来、100V電源でアルミ溶接(交流)ができる機種は非常に数が少なく、「100Vで交流が使える機種はほぼほぼ見たことない」と専門店も認めるほど希少な存在でした。これは使える電力量が限られる100V電源でAC動作を安定させる設計が難しいためです。
家庭用の20Aブレーカー環境でも使用可能で、板厚3mm程度までのアルミ溶接ができます。これが条件です。板厚3mmというのは、はがきの厚み(約0.2mm)の約15枚分に相当し、一般的なDIY用途のアルミ板や補修作業では十分な厚みの範囲です。
参考:アルミ溶接に交流TIGが必要な理由(酸化皮膜とクリーニング作用の解説)
アルミ溶接に使用するTIG溶接は直流?交流? | アルミ溶接板金.com
TIG溶接機を購入した後、多くの人が「アルゴンガスって個人でも買えるの?」と悩みます。結論から言うと、個人でも購入できます。ただし、仕組みと費用を事前に把握していないと、予想以上の出費になることがあります。
アルゴンガスは地元の高圧ガスや溶接機を取り扱うガス屋さんで契約できます。個人での入手が難しいというイメージを持つ人がいますが、問い合わせれば対応してくれる会社がほとんどです。
費用の内訳は以下の通りです(2023年7月時点の実例)。
初期費用として保証金2万円がかかるのが見落とされがちです。保証金はあくまでボンベ返却時に戻ってくる預け金ですが、手元から一時的に出ていくお金です。
ガス代自体は7㎥で8,000円ですが、TIG溶接時のアルゴンガス流量は一般的に5〜12L/分程度かかります。仮に10L/分で流すと、7㎥(7,000L)は約700分、つまり11時間ほどで使い切る計算になります。DIYで週末に少し使う程度であれば半年〜1年は持ちますが、毎日長時間使うなら消費が早くなります。意外ですね。
ガス漏れには特に注意が必要です。接続部分からわずかに漏れているだけで、満タンのアルゴンガスが1日で空になるというトラブルも実際に起きています。ガスの節約のために、溶接機不使用時はボンベのバルブを必ず「閉」にする習慣をつけましょう。これは必須です。
また、ガスメーター(調整器)のネジ規格には「G5/8」と「W22」の2種類があります。ガスボンベに合わない規格のメーターを購入してしまうとそもそも接続できないので、ガス屋さんに確認してから購入する方が安全です。
参考:個人がアルゴンガスを入手する手順と費用の詳細
TIG溶接に必要なアルゴンガスの入手方法と値段 | 車とガレージの趣味生活
アルミのTIG溶接で失敗する原因の大半は、溶接技術の問題ではなく下準備の段階にあります。特にホームセンターで購入したアルミ材でよく起きる「アークが全く出ない」「溶接できない」というトラブルは、事前の確認と処理で防げます。
まず知っておきたいのが「アルマイト処理」の問題です。ホームセンターに並んでいるアルミのアングルやフラットバーのほとんどは、腐食防止のためにアルマイト加工(表面処理)が施されています。パッと見ると地肌のアルミに見えますが、通電しないため溶接できません。アルマイトがかかっているかどうかの見分けは難しく、端材を試しに使ってみるか、購入時に確認するのが確実です。
アルマイトが施されている場合は、グラインダーで表面を削って地肌を露出させる必要があります。ただし注意点が2つあります。
このため、溶接用のアルミ素材を選ぶなら、アルマイト加工なしの「A5052」(鋼材屋で購入可能)がおすすめです。A5052は溶接性が高く機械加工もしやすい材質で、DIYによる部品作りにも向いています。
次に、アルミ鋳物(エンジンカバー、ホイールなど)の場合は別の問題があります。鋳物の内部には極めて小さな「巣(気泡)」が存在することがあり、溶接しようとするとアークの熱で気泡が膨張してブクブクと湧いてくることがあります。油分が染み込んでいる場合も同様です。こうした場合は、溶接前にバーナーで軽く炙って油分を蒸発させると改善することがあります。
また、アルミ合金の番手によっては溶接に向かないものもあります。A7000番台は強度が高い反面、溶接するとクラックが発生しやすく、溶接は推奨されません。これが条件です。DIYで素材を選ぶときは、番手を確認することが大切です。
参考:アルミ素材の種類別の溶接性と注意点の解説
初心者向け!アルミ溶接の方法やコツを解説 | WELDTOOL
TIG溶接でアルミを溶接するとき、「タングステン電極を何にすればいいのか」と悩む人は少なくありません。電極の種類を間違えると、電極が溶けたり、アークが安定しなかったりと溶接品質が大きく下がります。
アルミの交流TIG溶接に適したタングステン電極は2種類あります。
反対に、アルミの交流溶接では「トリウム入りタングステン(赤色帯)」は避けてください。トリウム入りは直流用で、交流で使うと電極先端の形状が変化して溶接飛散しやすいという特性があります。これは必ず覚えておけばOKです。
交流TIG溶接でアルミを溶接するとタングステンの先端が丸くなりますが、これは異常ではありません。初めてアルミを溶接する人が「電極が溶けている!」と慌てるケースがありますが、交流の特性上、先端が球状になるのは正常な動作です。
パルス機能についても知っておくと損がありません。パルス溶接とは、高い電流(ピーク電流)と低い電流(ベース電流)を交互に切り替えながら溶接する機能です。板厚が1〜2mm程度の薄いアルミを溶接するとき、通常の溶接では熱が入りすぎて溶け落ちや歪みが起きやすくなります。パルス機能を使うと入熱量を周期的にコントロールできるため、薄板でも溶け落ちを大幅に抑えられます。
パルス周波数の目安としては5〜10Hz程度に設定するのが一般的な推奨値です。厚みのある板には低めのパルス周波数、薄板には高めの周波数が向いているとされています。これが原則です。
| 板厚の目安 | 電流の目安 | パルスの必要性 |
|---|---|---|
| 1mm以下 | 約20〜30A | パルスあり推奨 |
| 1〜2mm | 約30〜60A | パルスあり推奨 |
| 2〜3mm | 約60〜100A | パルスなしでも可 |
参考:TIG溶接用タングステン電極の種類と特徴の詳細解説
TIG溶接機を購入して自宅で使い始めたら「ブレーカーが落ちて溶接できない」というトラブルは非常によくあります。これはDIY溶接を始める人が最初に直面しやすい問題です。しかし原因を正しく理解すれば、ほとんどのケースは対策できます。
家庭の電気回路の基本として、コンセント1系統の許容電流は通常15〜20Aです。TIG溶接機のアルミ溶接では交流モードを使うため、直流モードよりも多くの電流が必要です。特に最大出力近くで溶接すると、30A以上の入力電流が発生する機種もあります。これがブレーカー落ちの直接原因になります。
対策として有効なのは3点です。
また、延長コードを使う場合も注意が必要です。溶接機の電流はコードに大きな負担をかけます。細い延長コードを使うと発熱し、最悪の場合は発火のリスクがあります。延長コードを使う際は定格15A以上の太いコードを選びましょう。
100V環境でのアルミTIG溶接は、電流設定と電源管理を正しく行えば十分実用的です。ブレーカーが落ちると「溶接中に突然電源が切れる」という状況が起き、仕上がりにも悪影響が出ます。事前の環境確認が仕上がりに直結します。これは使えそうです。
さらに、アルミTIG溶接の初期費用全体のイメージも整理しておきましょう。
合計で初期費用は概ね10〜15万円ほどになることが多く、プロの溶接屋に補修を頼むよりも長期的にコスパが良くなるのは、アルミ溶接作業を複数回行う場合です。アルミホイールのガリキズ補修を1カ所プロに依頼すると1〜2万円かかることもあるため、複数回行うなら自前で機材を揃えるメリットが出てきます。
参考:100V溶接機とブレーカー落ち問題の解説

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