

モリブデングリスをブレーキ周りに塗ると、部品が削れて修理代3万円超えになることがあります。
収納情報
バイクのメンテナンスをしていると、グリスの種類の多さに戸惑うことがあります。リチウムグリス、ウレアグリス、シリコングリス……そしてモリブデングリス。名前は知っているけれど、具体的にどう違うのかはっきりしない、という方も少なくないでしょう。
モリブデングリスの最大の特徴は、「二硫化モリブデン(MoS₂)」という成分が配合されている点です。この二硫化モリブデンの極小粒子が、金属面の間でコロのような役割を果たし、高い圧力がかかる箇所でも油膜が切れにくい「極圧性能」を発揮します。これが、他のグリスとの決定的な違いです。
一般的に市販されているモリブデングリスのベースには、リチウムグリスが使われているものが多い傾向にあります。つまり「リチウムグリスに極圧添加剤としてモリブデンを加えたもの」と理解すると分かりやすいです。色は黒っぽく、触るとすべすべとした質感があります。
また、モリブデングリスには大きく2種類あることを覚えておくと便利です。
| 種類 | 特徴 | 価格 |
|------|------|------|
| 二硫化モリブデングリス | ゴム・樹脂には使用不可、黒色 | 比較的安価 |
| 有機モリブデングリス | ゴム・樹脂への攻撃性が低い、黄色 | 二硫化モリブデングリスの約10倍 |
結論は二種類あるということですね。DIYメンテナンスで手軽に使えるのは二硫化モリブデングリスですが、使用できる場所に制限があります。有機モリブデングリスはゴム部品の近くでも使えるぶん、コストが大幅に上がります。価格差が10倍というのは、財布へのインパクトが大きいですね。
呉工業(KURE)のモリブデングリースは使用温度範囲が−20℃〜180℃と幅広く、耐熱・耐水・耐寒性のバランスが優れた市販品の代表格です。バイク整備の入門として購入しやすい製品のひとつとして知られています。
バイク用グリス全般の基礎知識については、呉工業の製品ページも参考になります。
モリブデングリスは「どこにでも使える万能グリス」ではありません。極圧性能と耐熱性を活かした、特定の場所に絞って使うのが基本です。
マフラーボルト・スタッドボルトへの使用
バイク整備でモリブデングリスが最も効果を発揮するのが、マフラーのエキゾーストフランジに使われているスタッドボルトやナットです。エンジン排気熱に常にさらされるこの部位は、熱によってボルトが焼き付いて固着する「かじり」が発生しやすい箇所です。
かじりが起きると、ボルトがいくら力を入れても回らなくなり、最悪の場合はボルトが折れます。折れたボルトをエンジンから抜き取るにはバイクショップでの修理が必要になり、工賃だけでも1万円以上かかることがあります。マフラーを外す前にスタッドボルトにモリブデングリスを薄く塗っておくだけで、こうした出費を防ぐことができます。これは使えそうです。
エンジン組み付け時の初期かじり防止
エンジンのオーバーホールやミッション交換をする際、各種シャフトの軸受け部分にモリブデングリスを薄く塗るよう、メーカーの整備マニュアルに指定されているケースがあります。これは「初期なじみ出し」と呼ばれる目的で、エンジン始動直後にオイルが行き渡るまでの間の金属同士の摩擦を防ぐためです。
この用途では、粒子のない有機モリブデンタイプを使う方が理想的とされています。ただし、エンジンの組み上げは上級者向けの作業でもあるため、初心者の方は専門ショップへの相談を優先することをおすすめします。
スクーターのプーリー・駆動系への使用
スクーターのプーリーボス部分(スライドプーリーの根元)にも、モリブデングリスは活躍します。ナップスのメンテナンス記事でも「ウエイトローラーに薄く髪の毛一本くらいの厚さで塗ることで初期なじみと作動を助ける」とされており、プーリーへの高い極圧荷重に対応できるモリブデングリスが適しています。
ただし、ウエイトローラー自体は無給油樹脂製であることが多く、グリスを塗ると逆にVベルトへの飛散が起きて滑りの原因になります。プーリーボスのみへの塗布が原則です。
スイングアームピボット・ミッション軸受けへの使用
オフロードバイクや旧車の整備では、スイングアームピボットシャフトの軸受け部分にモリブデングリスを使うケースもあります。ただし、露出した部分には耐水性の高いウレアグリスや防水グリスの方が長持ちするため、使用状況に応じた選択が大切です。
以下の表に、主な使用箇所をまとめます。
| 使用箇所 | 効果 |
|----------|------|
| マフラースタッドボルト | 焼き付き・かじり防止 |
| エンジン組み付け時のシャフト軸受け | 初期なじみ出し |
| スクーター・プーリーボス | 極圧摩耗防止 |
| ミッションの軸受け | 高荷重下での潤滑 |
バイクのグリスアップ全般については、Webikeのメンテナンス解説が分かりやすくまとめられています。
バイクのグリスアップ入門編!グリスを塗る場所、種類、頻度|Webike
モリブデングリスで最も注意が必要なのが、「使ってはいけない場所」です。知らずに塗ってしまうと、パーツにダメージを与えて修理が必要になることがあります。
ブレーキ・クラッチレバーの軸受け部分
ブレーキレバーやクラッチレバーを支えているピンやボルト周辺の軸受けには、二硫化モリブデングリスは使えません。理由は、二硫化モリブデンの粒子が非常に硬く、アルミや真鍮といった柔らかい金属素材を少しずつ削ってしまうからです。
「高性能グリスだから万能だろう」という思い込みが、かえって部品の摩耗を早めることになります。これらの箇所には万能グリス(リチウムまたはウレアグリス)を使うのが原則です。
ゴム製シール・パッキン類
ブレーキキャリパーのピストンシールやフロントフォークのオイルシールなど、ゴム製のシール部分には二硫化モリブデングリスは使用不可です。ゴムへの攻撃性があり、シールを傷めて液漏れの原因になります。ブレーキフルードが漏れた場合、制動力の大幅な低下につながり、安全上の重大な問題を引き起こします。これは厳しいところですね。
ゴム部品の近くに使う場合は、シリコングリスかラバーグリスが基本です。
チェーンへの使用
「極圧性能があるなら」とモリブデングリスをチェーンに塗る方がいますが、これはNGです。チェーンには専用のチェーンルーブを使うのが基本で、ペースト状のグリスでは粘度が高すぎてチェーンの動きを妨げ、かえって摩耗が進むことがあります。また、砂やほこりを吸着しやすくなり、研磨材として働いてしまいます。チェーンにはチェーンルーブが条件です。
耐水性の低さにも注意
二硫化モリブデングリスは一般的に耐水性が低いグリスとして知られています。雨にさらされる外装部分や、洗車の際に水がかかりやすい箇所に使うと、グリスが流れ落ちて早期にメンテナンスが必要になります。雨天走行が多い方や、頻繁に洗車をする方は、耐水性の高いウレアグリスや防水グリスと使い分けることをおすすめします。
使ってはいけない場所を整理するとこのようになります。
| 使用不可箇所 | 理由 |
|-------------|------|
| ブレーキ・クラッチレバー軸受け | アルミ・真鍮を削る |
| ゴム製シール・パッキン | ゴムを侵食・液漏れの原因 |
| チェーン | 粘度過多・ごみ吸着 |
| 雨ざらしの外装部品 | 耐水性が低く流れ落ちる |
バイク用グリスの種類と使い分けについて、より詳細な解説はこちらで確認できます。
メンテナンスに使うグリス。どこにどんなグリスを使うのがいいのか|RIDE HI
モリブデングリスを含めたグリスの使い分けは、バイクのセルフメンテナンスをする上で最重要のポイントです。グリスは多ければいいわけでも、高性能なものを全部に使えばいいわけでもありません。
基本的な考え方は「素材と場所に合ったグリスを選ぶ」というシンプルなルールです。
リチウムグリス・ウレアグリスが基本
バイク整備で最も多く使うのは、リチウムグリスまたはウレアグリスです。これらはベアリング、アクスルシャフト、ステアリングヘッドのベアリング、スイングアームピボット、ブレーキレバー・クラッチレバーの軸受けなど、幅広い場所に対応しています。まずはこれを揃えることが基本です。
ウレアグリスはリチウムグリスよりも耐熱性(約180℃)と機械安定性がやや高く、長持ちする傾向があります。ただし価格もやや上がります。迷ったらウレアグリスを選ぶと応用が利きます。
シリコングリスはゴム・樹脂用として必須
ゴム製のシール類やプラスチック素材に触れる箇所には、シリコングリスを使います。ブレーキキャリパーのオーバーホール時やフロントフォークのシール組み付け時など、ゴムが関わる場面で活躍します。フロントフォークのインナーチューブにシリコングリスを薄く塗ってストロークさせると、ダストシールへの馴染みが良くなりフォークの動きが改善されるという使い方もあります。
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