

ポジチップのほうが切れ味がよいので、外径加工でも常にポジチップを選ぶと、1枚あたりのコストがネガチップの約2倍以上かかる上に刃先欠損リスクが跳ね上がります。
収納情報
旋盤加工のチップを選ぶとき、まず確認すべきなのが「逃げ角」の有無です。チップを横から見たとき、先端形状が90°のものを「ネガチップ(ネガティブチップ)」、90°より小さい角度になっているものを「ポジチップ(ポジティブチップ)」と呼びます。これがネガチップとポジチップの違いの本質です。
ネガチップは逃げ角が0°、つまりチップ自体には逃げが存在しません。代わりにバイトホルダー(スローアウェイバイト)の傾きで逃げ角をつくる構造になっています。この設計のおかげで、チップの表面と裏面の両方に切れ刃を設けることが可能です。つまり一枚で表裏を使い回せるということですね。
一方のポジチップは、チップ自体に7°や11°の逃げ角がついています。そのためバイト側で逃げ角を追加する必要がなく、チップ単体で「逃げ」の機能を果たします。ただし逃げ角があるぶん、チップ側面が斜めになるため、反対面を切れ刃として使うことができません。つまりポジチップは片面のみが条件です。
この違いを図にすると非常に明快ですが、言葉で整理するなら「ネガ=両面使用・剛性重視」「ポジ=片面のみ・切削抵抗の低減重視」という理解でほぼ正解です。
なお、国内の工具カタログ(三菱マテリアル・京セラ・タンガロイなど)では、チップのページがネガとポジに大別されていることがほとんどです。カタログで工具を探す際にも、最初にネガかポジかを絞り込むことが選定の出発点になります。
逃げ角とセットで理解しておきたいのが「すくい角」です。少し混乱しやすい部分なので、ていねいに説明します。
ネガチップをバイトホルダーに取り付けると、ホルダーが傾いて逃げ角を形成します。この傾きの結果、チップのすくい面(切りくずが流れ出る面)の角度は「ネガ(マイナス)方向」になります。すくい角がマイナスになると刃先の強度は増しますが、切削抵抗は大きくなります。剛性に強い特性はここに由来します。
ポジチップの場合は反対で、チップ自体に逃げ角がついているため、ホルダーにセットした状態でもすくい角は「ポジ(プラス)方向」になります。すくい角がプラスになると刃先は鋭くなり、切削抵抗が小さくなります。これは加工中の発熱を抑え、薄い材料や柔らかい素材への切り込みをスムーズにする効果につながります。
切削中の力のかかり方にも明確な違いがあります。ポジチップは切削時に「刃が前進する方向」に力がかかります。ネガチップは逆に「刃が後退する方向」に力がかかる設計です。これが断続切削(材料に穴や溝があり、刃先が断続的に材料に当たる加工)への耐性の違いに直結しています。
この情報を知っておくだけで、断続切削でチップが欠けやすい場合に「ネガチップに切り替える」という判断ができるようになります。これは使えそうです。
「どちらを使えばいいのか?」という疑問には、加工の種類(外径か内径か)で答えが出るケースがほとんどです。
外径加工では、ネガチップが第一推奨とされています。外径加工は一般的に深い切込みや高い送り速度を伴う重切削が多く、刃先の強度が求められます。ネガチップは逃げ角0°であるため刃先断面積が大きく、物理的に欠けにくい構造です。また、両面使用可能なことで1枚あたりのコーナー数が増え、工具コストを抑える効果も期待できます。外径加工が多い工場でネガチップが主流になっているのは、この経済性と剛性が理由です。
内径加工では、ポジチップが推奨されます。ここが少し直感に反するかもしれません。なぜ内径加工にはポジなのかというと、ボーリングバー(内径バイト)は細いシャンクの先端にチップが付く構造のため、バイト側面と加工穴の内壁との間のクリアランスが非常に狭くなります。ネガチップをそのまま使うと逃げ角がゼロのため、バイト側面が穴の内壁に接触してしまう「二番あたり」が発生します。二番あたりが出ると加工面が荒れるだけでなく、バイト破損の原因にもなるため注意が必要です。
特に小径の内径加工(直径が小さい穴の加工)では、この問題が顕著に現れます。ポジチップは7〜11°の逃げ角がチップ自体についているため、バイト側面と穴壁のクリアランスを確保しやすく、内径加工の精度向上にも貢献します。ポジが条件です。
サンドビック・コロマントの選定ガイドでも、内径旋削加工および細物ワークの外径旋削加工においてポジチップを第一推奨としています。このような大手メーカーの技術資料を参考にすることも、選定精度を上げる有効な方法です。
適切な旋削チップの選定方法(ネガ・ポジの型の解説付き):Sandvik Coromant
ネガチップとポジチップを比較するうえで、見落とされがちなのがコストと寿命の観点です。
ネガチップの最大のコスト優位性は「両面使用による多コーナー化」にあります。たとえば正方形(S型)のネガチップなら、4コーナー×2面=最大8コーナーが使用可能です。これがポジチップだと4コーナー×1面=4コーナーにとどまります。1枚あたりの単価が同程度であれば、単純にネガチップのほうがコーナーあたりのコストが約半分になります。外径の粗加工工程でネガチップが選ばれるのは、このコストパフォーマンスの差が大きいためです。
一方でポジチップにも、チップの交換頻度が下がる場面があります。ポジチップは切削抵抗が低いため、切削熱の発生が抑えられ、工具摩耗のペースが緩やかになるケースがあります。特に柔らかい材料(アルミニウムや低硬度の鋼材)を仕上げ加工する場面では、ポジチップのほうがチップ寿命が延びる場合もあります。厳しいところですね。
また、チップの強度という観点では明確な差があります。ネガチップは刃先断面積が大きいため断続切削(たとえばT字型の部品や穴空き材の加工など)でも欠けにくいです。ポジチップは刃先が薄くなるぶん欠けやすく、断続切削での使用は慎重に検討する必要があります。断続切削の可能性が高い加工ではネガチップを選ぶのが安全側の判断です。
コスト面でネガチップのほうが有利に見える場面でも、仕上げ精度や加工面品質が求められる工程ではポジチップを採用するという「使い分け」が現場での正解になります。つまり一概にどちらが良いとは言えないということですね。
ネガチップ・ポジチップのコスト・強度についてのQ&A:京セラ機械工具
旋盤チップを実際に選ぶ際には、メーカーカタログを使うことになります。ここでの「読み方の誤解」がミス選定につながる落とし穴です。
カタログを開くと、まずネガかポジかでページが分かれています。次に材種記号(P=鋼、M=ステンレス、K=鋳鉄、N=非鉄金属など)が並んでいます。この先によく見かけるのが「安定切削」「一般切削」「不安定切削」という3種類のマークです。
ここで多くの初心者が「安定切削マークが一番性能が良いチップだ」と誤解します。これは逆で、汎用性が最も高いのは「不安定切削(強断続切削)対応のチップ」です。不安定切削用のチップは柔らかく欠けにくい材質でできているため、連続切削にも断続切削にも使えます。対して安定切削用のチップは硬くて摩耗に強い反面、断続切削では欠けやすくなります。意外ですね。
安定切削用チップのメリットは「切削速度を高く設定できる」点にあります。例えば三菱マテリアルのカタログでは、安定切削用のMC6015と不安定切削用のMC6035を比べると、MC6015のほうが許容切削速度の上限が約1.5倍高い設定になっています。加工時間の短縮や生産性向上が目的なら安定切削用チップを選ぶ意味が出てきます。
選定に迷ったときの現実的な解決策として、工具メーカーのフリーダイヤルへの問い合わせが有効です。三菱マテリアル、京セラ、タンガロイ、サンドビックなどの主要メーカーはカタログ末尾に技術相談窓口の番号を掲載しています。加工材質・切込み量・送り速度・機械剛性などの条件を伝えるだけで、最適チップを提案してもらえます。これが条件です。
チップ選定は「とりあえずネガかポジか」→「材種(P/M/K/N)」→「加工状態(断続か連続か)」→「ブレーカ形状」の順で絞り込むのが基本です。一度このフローを自分の作業環境に当てはめて確認しておくことで、ミス選定のリスクを大きく下げることができます。
旋盤チップのカタログの読み方(ネガポジの見方・材種・ブレーカ):キカイネット