

JIS H4000で板厚が決まっているから、どれを買っても同じ厚さが届く、と思っていませんか? 実は同じ板厚でも、メーカーによって±0.45mm以上の誤差が生じることがあり、棚板として組み込んだときに収まらないケースが起きています。
A2017は「ジュラルミン」とも呼ばれるAl-Cu系アルミニウム合金で、その板厚の標準寸法はJIS H4000(アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条)で規定されています。収納用途でよく使われるアタッシュケースの外板やDIY棚板、仕切りパーツに使われるのも、この規格に準拠した板材がほとんどです。
JIS H4000では、まず素材の形状を3種類に分けています。「板(sheet)」とは厚さが0.20mm以上6mm以下の圧延材、「厚板(plate)」とは厚さが6mmを超えるもの、という定義です。つまり、6mmを境に名称と分類が変わります。これが基本です。
板の標準寸法として定められている幅×長さの組み合わせは、400×1200mm、1000×2000mm、1250×2500mmなど複数あります。市場でよく流通しているA2017板は1000×2000mm(通称「メーター板」)や1250×2500mm(通称「5×10」)が主流です。定尺サイズを知っておけば、カット注文時に歩留まりよく発注できます。
一般的に入手しやすいA2017の板厚は、下記のラインナップが多く見られます。
| 板厚(mm) | A2017での流通 | 備考 |
|---|---|---|
| 1.0〜2.0 | 薄板として流通(一部業者のみ) | 切り売り対応あり |
| 3 | ● | 最薄の定番板厚 |
| 4・5・6 | ● | 薄板〜厚板の境界帯 |
| 8・10・12 | ● | 汎用厚みとして人気 |
| 15・20・25 | ● | 剛性が必要な棚板・構造材向け |
| 30〜100 | ●(業者在庫あり) | 厚板・ブロック材として使用 |
| 110〜150 | △(JIS規格非該当) | 一部メーカーのみ対応 |
注目したいのは、板厚110mm以上はJIS H4000の適用対象外になる点です。つまり110mm超は、JIS非該当品として扱われます。収納用途では通常そこまでの厚さは不要ですが、加工用の素板として厚板を検討するときは覚えておくとよいでしょう。
また、A2017はA5052と比べると取り扱い板厚の種類がやや少ない傾向があります。たとえば2mm・7mm・16mm・18mmはA5052なら流通しているものの、A2017では在庫を持っていないメーカーが多いです。欲しい板厚をメーカーのカタログで確認する作業が必須です。
参考:JIS H4000の板の標準寸法・調質・化学成分の詳細はこちらで確認できます。
JISH4000:2017 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条 – 規格ルイ(kikakurui.com)
規格に書いてある板厚と、実際に届く板の厚さは必ずしも一致しません。JIS H4000では、板厚ごとに「許容差(公差)」が定められており、この公差の範囲内であれば正規品として扱われます。
具体的な公差の例を見てみましょう。
| 板厚(mm) | JIS板厚公差(±mm) | 高精度品(白銅規格) |
|---|---|---|
| 3 | ±0.20前後 | ±0.10 |
| 6 | ±0.25前後 | ±0.13 |
| 10 | ±0.55前後 | ±0.30 |
| 20 | ±0.80前後 | ±0.40 |
| 25 | ±0.90前後 | ±0.45 |
たとえば10mm厚の板を注文した場合、JIS規格内でも9.45mm〜10.55mmの範囲で届く可能性があります。1mm以上のズレがある場合も想定内、ということです。厳しいところですね。
収納棚の枠にぴったりはめ込む構造を想定しているなら、この公差が無視できません。たとえば「内寸30mmの溝に10mm板を3枚重ねて入れる」設計だと、板3枚の合計が最大で31.65mmになり、物理的に入らないケースが起こります。DIYで収納棚を自作するとき、こういった計算ミスが寸法誤差の原因になることがよくあります。
解決策は2つあります。1つ目は「高精度圧延材(ハイスペック品)」を選ぶことです。白銅株式会社の「ハイスペック2017」のような商品は、板厚公差がJIS規格の約55%に抑えられており、10mm厚の公差が±0.30mmまで絞られています。2つ目は、届いた素材の実寸をノギスで測ってから設計に反映させる方法です。コストを抑えたいなら、この手順が現実的です。
さらに注意が必要なのが「平面度(平坦度)」です。A2017の一般材は熱処理型合金のため、板が若干反りやすい特性があります。1000mm×1000mmの面積に対して、一般的なA2017の場合、板厚10mmで平面度が2.5mm程度あることも珍しくありません。はがき(148mm×100mm)の厚さが約0.1mmと考えると、1mの板で25枚分ほどのうねりがあるイメージです。これが組み込み時のガタツキや隙間の原因になります。
平面度が問題になる場合は、6面フライス加工(6F加工)で面を切削仕上げするか、最初から高精度圧延材を選ぶ必要があります。平面度を後から改善するのは追加コストがかかります。
参考:A2017の一般材・ハイスペック材・YH17(超高精度品)での平面度比較はこちらが詳しいです。
アルミ板の平坦度・平面度 反り返り具合 高精度圧延材と一般材 – 山洞金物店(ht.sandoh.net)
A2017をどの板厚で使うかは、用途によって大きく変わります。軽量さと強度を両立できるのがA2017の魅力ですが、薄すぎれば変形、厚すぎれば重量と加工コストが増します。用途に合った板厚選びが重要です。
アタッシュケース・収納ボックスの外板に使う場合
A2017は軽量ながら硬さがあり、ブリネル硬さ(HB)105という数値は、純アルミニウム(65HB)の約1.6倍です。この硬さが、外板にぶつけたときの傷つきにくさや、変形しにくさに直結します。重量は鉄の約3分の1(比重2.79)なので、持ち運ぶケースとして優秀です。
外板として使う場合の推奨板厚は1.0〜2.0mmが一般的で、アタッシュケースやペリカンケースのような業務用ケースのパネルも、この薄さの板で成形されることが多いです。ただし1.0〜2.0mmのA2017は流通量が少なく、一般の金属材料店やモノタロウのようなECサイトで切り売りしている業者を探す必要があります。これは使えそうです。
棚板・仕切りとして使う場合
棚板の場合、たわみに強い板厚が求められます。目安として、スパン(棚の支点間距離)が500mm程度なら板厚3〜5mm、1000mm程度なら8〜12mmが適切です。10mmの板は名刺の横幅(約91mm)の約9分の1の厚さで、それでも金属製のため木製棚板より高い剛性が得られます。
DIYで収納棚を作る場合、板厚5mmのA2017板を1000×500mmにカットして使う例があります。重量は約7.5kg(5mm×1000mm×500mm×2.79g/cm³)となり、棚板としては十分な強度を持ちながらも持ち運べる重さです。なお、A2017は溶接加工に向かないため、接合にはボルト・リベット・接着剤の組み合わせが推奨されます。溶接前提の設計は向かない点だけ注意が必要です。
精密パーツ・仕切りトレイとして使う場合
工具箱や機材ケース内部の仕切りトレイなど、精密な寸法が求められる部品には板厚3〜6mmがよく選ばれます。A2017は切削加工性が非常に高く、NC旋盤やマシニングセンタでの加工で綺麗な仕上げ面が得られます。カットした切断面の仕上がりも美しいため、加工後に面取りするだけでそのまま使用できるケースも多いです。
加工を外注する場合は、板厚の選択と合わせて「質別(調質)」も指定する必要があります。T3またはT4(焼入れ後、自然時効)が流通の主流で、一般的な収納部品に使うならT3・T4で十分な強度(引張強さ約390〜425N/mm²)が得られます。
同じアルミ合金でも、A5052やA7075は板厚ラインナップや入手性がA2017とは異なります。素材選択を間違えると、入手できる板厚の選択肢が減ったり、コストが跳ね上がることがあります。整理しておきましょう。
A5052との比較
A5052は「汎用アルミ」とも呼ばれる最も流通量の多いアルミ合金です。板厚の種類はA2017より豊富で、2mm・7mm・16mm・18mm・22mmなど、A2017では入手しにくい板厚もカバーしています。耐食性が高く溶接も可能なため、屋外の収納ボックスや台所周りの棚板にはA5052の方が向いています。
ただし、強度はA2017のほうが明確に高いです。A5052-H34の引張強さが約265N/mm²なのに対し、A2017-T4では約425N/mm²あります。つまりA2017はA5052の約1.6倍の強さがあります。重い荷物を乗せる棚板や、衝撃が加わる場面ではA2017の優位性が出ます。
A7075との比較
A7075(超々ジュラルミン)はアルミ合金中で最高クラスの強度を持ちますが、板厚の種類はA2017と同程度かやや少ない傾向があります。また価格がA2017より大幅に高く、一般的な収納部品への使用ではコストが合わないことがほとんどです。A7075は6面フライス加工が推奨されるほど平面度にばらつきがあり、棚板として素材のまま使うには難しい面があります。収納用途ならA2017が現実的です。
比較をまとめると、次のようになります。
| 材質 | 引張強さ | 耐食性 | 溶接性 | 板厚の種類 | コスト | 収納用途との相性 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A2017 | ◎(425N/mm²) | △ | × | 中 | 中 | ◎(強度重視) |
| A5052 | ○(265N/mm²) | ◎ | ◎ | 多 | 低〜中 | ◎(汎用) |
| A7075 | ◎◎(570N/mm²) | △ | × | 中 | 高 | △(コスト高) |
A5052なら問題ありません。耐食性と溶接性を優先するなら迷わずA5052を選びましょう。一方、アタッシュケースの外板や高荷重の棚板など「軽くて強い」が最優先ならA2017が条件です。
参考:A2017・A5052・A7075の板材規格表(板厚ラインナップ対比)はこちら。
A2017板、A5052板、A7075板材規格表 – アルミプラス(al-plus.jp)
A2017を収納素材として長く使い続けるうえで、見落としやすい落とし穴が耐食性です。見た目がアルミなのに、なぜ錆びる?という疑問を持つ方もいるかもしれません。その答えは成分にあります。
A2017には銅(Cu)が3.5〜4.5%含まれています。この銅がアルミニウムと共存することで「ガルバニック腐食(異種金属間腐食)」が生じやすくなります。湿気や汗、海沿いの塩分を含む環境では、表面が白く粉を吹いたり、点状の腐食(ピッティング)が進んだりします。意外ですね。
特にアタッシュケースを屋外や海沿いで使う場合、表面処理なしのA2017板は短期間で腐食が進みます。一般的なアルミA5052なら表面処理なしでも問題ないケースが多いですが、A2017はそうはいきません。
代表的な防食処理の方法は3つです。
- アルマイト処理(陽極酸化処理):表面に酸化皮膜(Al₂O₃)を形成し、耐食性と耐摩耗性を高める。ただしA2017は銅の影響で処理ムラが出やすく、均一な皮膜を作るには専門業者への依頼が必要。費用は加工面積・業者によって異なりますが、小物パーツなら1000〜3000円程度から対応している業者もあります。
- クロメート処理:薄い化成皮膜を形成する方法。導電性を保ちつつ耐食性を向上できるが、環境規制に対応した三価クロム系が現在の主流。
- 塗装・粉体塗装:耐候性を求める場合に有効。屋外収納ボックスのパネルとして使うならアルマイト後に塗装する複合処理が理想的。
室内の収納棚や、ケース内部の仕切りパーツとして使うだけなら、アルマイト処理で十分な耐久性が確保できます。腐食を防ぐ表面処理が条件です。
もう一点、異種金属との接触にも注意が必要です。ステンレスのボルトとA2017板を直接接触させると、電位差腐食(ガルバニック腐食)が進みやすくなります。接触面には絶縁ワッシャーやシールテープを挟む対策が有効です。確認して設置するだけで、長期的な腐食リスクを大幅に下げられます。
参考:A2017の材質特性・耐食性・表面処理の詳細解説はこちら。
A2017(ジュラルミン)とは?その特徴や類似素材との違いを解説 – ミスミ meviy(misumi-ec.com)
実際にA2017の板材を買う場面で、どのように確認すればよいかを整理します。知識はあっても手順を間違えると、追加の出費や納期の遅れにつながります。
ステップ1:板厚と定尺サイズをメーカーカタログで確認する
前述のとおり、A2017はメーカーによって取り扱う板厚の種類が異なります。JISの標準寸法にある板厚でも、在庫がないメーカーがあります。購入前にメーカーのウェブサイトや在庫カタログで確認する作業が必須です。滑川軽銅(Namekawa)、萬世興業、白銅、アルミテック、井田商店など、複数のメーカーが切り売りやカット販売に対応しています。
ステップ2:調質(質別)を指定する
A2017の板材には「質別」があり、T3・T4・T351などが一般的な流通品です。収納用途の棚板や外板として使うなら、T3またはT4で十分です。T4は焼入れ後に自然時効させたもので、強度と加工性のバランスが良い状態です。切削加工や穴あけをするつもりなら、T4材が扱いやすいです。
ステップ3:板厚公差の許容範囲を設計に組み込む
設計図を引く前に、購入予定の板材の板厚公差をカタログ値で確認しましょう。公差を含めた最大・最小の寸法で設計のクリアランスを確保しておくのが基本です。精密な寸法が必要な場合は、ハイスペック品(高精度圧延材)を選ぶか、入荷後に実寸をノギスで測って設計値に反映させましょう。
ステップ4:カットサービスを活用する
A2017の板材は、多くの販売業者でレーザーカット・ウォータージェット・鋸切断などのカットサービスに対応しています。薄板(〜5mm程度)はシャーリング(直線切断)で1mm単位の指定が可能なことが多く、厚板は丸鋸(ランニングソー)での切断が一般的です。寸法公差はカット方法によっても変わるため、注文時に確認するのが一番です。
モノタロウや楽天市場でも「A2017切板」として小口購入が可能です。価格は板厚3mm・250×350mmのサイズで2000円前後(2026年3月時点)が目安となっています。板厚が増えるほど当然コストも上がります。
参考:A2017板のカット規格・販売サイズ一覧はこちら。
A2017板切断販売規格 – アルミテック(alumitech.co.jp)