熱処理の種類と記号を目的別に正しく使いこなす方法

熱処理の種類と記号を目的別に正しく使いこなす方法

熱処理の種類と記号の基本から選び方まで完全解説

熱処理記号を「なんとなく」で使うと、部品1個のやり直しコストが数万円を超えることがあります。


🔥 この記事で3分でわかること
📋
熱処理の基本4種類と記号

焼入れ(HQ)・焼もどし(HT)・焼なまし(HA)・焼ならし(HNR)の違いと使い分けを一覧で整理します。

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表面硬化処理の種類と記号

高周波焼入れ(HQI)・浸炭処理(HC)・窒化処理(HNT)など、目的別の表面処理を詳しく解説します。

記号の読み方と図面への正しい指示方法

JIS規格に基づいた熱処理記号の体系と、図面指示での注意点・よくある失敗を解説します。


熱処理の種類と記号の基礎:JIS規格における体系の全体像


熱処理とは、金属を加熱・冷却することで内部組織を変化させ、硬さ・強度・靭性・耐摩耗性などの性質を意図的に調整する技術です。形を変えずに性質だけを変えられる点が、他の加工法と根本的に異なる特徴です。


JIS規格では、熱処理の種類を記号で体系的に表せるよう定めており、すべての記号は「H(Heat treatment)」から始まります。この「H」が頭文字として機能し、続く英字が処理の種類を示す仕組みになっています。たとえば焼入れなら英語の "Quenching" の頭文字 "Q" を組み合わせて 「HQ」、焼なまし(Annealing)なら 「HA」、焼ならし(Normalizing)なら 「HNR」 という具合です。


この体系を先に頭に入れておくと、見慣れない記号でも意味の推測がしやすくなります。


熱処理は大きく「全体熱処理」と「表面熱処理(表面硬化処理)」の2つに分類されます。全体熱処理は部品全体を均一に加熱・冷却する方法で、焼入れ・焼もどし・焼なまし・焼ならしが該当します。一方、表面熱処理は表面層だけを硬化させる手法で、高周波焼入れ・浸炭処理窒化処理などが含まれます。












熱処理の大分類と主な記号
分類 処理名 JIS記号 目的
全体熱処理 焼入れ HQ 硬化
焼もどし HT 靭性付与
焼なまし HA 軟化・応力除去
焼ならし HNR 組織均一化
表面熱処理 高周波焼入れ HQI 表面のみ硬化
浸炭焼入れ HC+HQ 表面炭素量増加+硬化
窒化 HNT 超硬表面層の形成


つまり「何の目的で何をしたいか」が明確なら、自然と記号も絞られてきます。


加工現場では図面に記号を正しく記載することで、熱処理業者との認識のズレを防ぐことができます。記号を曖昧に書いたり、記載を省略してしまうと、意図した硬さや深さが得られず、製品のやり直しや部品交換という余分なコストが発生します。記号の意味をきちんと理解しておくことが原則です。


参考:熱処理記号一覧(ダイネツ社による詳細な記号対応表)
熱処理記号一覧|株式会社ダイネツ


熱処理の種類と記号①:焼入れ(HQ)と焼もどし(HT)の違いと使い方

焼入れ(Quenching)は、鋼を変態点以上の高温(炭素鋼のS45Cであれば820〜870℃程度)まで加熱し、その後水・油・ガスなどで急冷することで、硬いマルテンサイト組織を得る熱処理です。JIS記号は HQ で表されます。


急冷すればするほど硬くなりますが、同時に「もろさ(脆性)」も増します。焼入れ直後のマルテンサイト組織は非常に不安定な状態で、そのまま使用すると割れや欠けのリスクが大きいです。


そこで必ずセットで行うのが焼もどし(Tempering)で、JIS記号は HT です。焼入れ後に再び加熱(低温:150〜200℃程度、または高温:550〜650℃程度)してゆっくり冷却することで、硬さを維持しつつ靭性を回復させます。焼入れ+焼もどしをセットにした記号は HQT と表記されます。


🔎 低温焼もどしと高温焼もどしの違い






種類 温度 得られる性質 主な用途
低温焼もどし 150〜200℃ 高硬度・耐摩耗性 工具・刃物・ゲージ
高温焼もどし 550〜650℃ 強靭性・粘り強さ シャフト・歯・ボルト


高温焼もどしによる調質材(調質=HQT処理済み材)は、S45CやSCM440など多くの機械部品材料でよく利用されています。硬さはHRC30〜40程度と切削加工が可能な範囲に調整されており、「調質材(プリハードン鋼)」として材料メーカーから販売されているものもあります。これは使えそうです。


重要なのは、焼入れ単体では実用に耐えないという点です。必ず焼もどしとセットで考えることが条件です。


また、鋼種によって焼入れ性は大きく異なります。炭素量が0.3%以下の低炭素鋼は焼入れの効果が得られにくく、逆に0.6%以上になると硬度はほぼ頭打ちになります。さらに、部品の断面が大きくなると表面は硬化しても内部に焼きが入りにくくなる「質量効果」も無視できません。大型部品には合金鋼や特殊鋼を選定することが重要です。


参考:焼入れ・焼もどし・焼なまし・焼ならしの基礎(キーエンス公式)
焼入れ・焼もどし・焼なまし・焼ならし|熱処理の基礎|キーエンス


熱処理の種類と記号②:焼なまし(HA)・焼ならし(HNR)の特徴と使い分け

「焼なまし」と「焼ならし」は名前が似ているため混同されやすいですが、目的も冷却方法も結果も異なります。この違いを理解しておくと、図面指示の判断が格段に楽になります。


焼なまし(HA) とは、鋼を適切な温度まで加熱した後、炉の中でゆっくりと冷却(炉冷)する処理です。英語ではアニーリング(Annealing)と呼ばれます。主な目的は「軟化」と「内部応力の除去」で、切削・プレス・溶接などの加工前に組織を均一化して加工しやすくする役割を担います。


焼なましにはさらにいくつかの種類があり、それぞれJIS記号が異なります。










焼なましの種類と記号
種類 JIS記号 主な目的
完全焼なまし HAF 最も軟化が必要な場合・内部応力除去
軟化焼なまし HASF 切削性の向上
応力除去焼なまし HAR 鍛造・溶接後の残留応力除去
球状化焼なまし HAS 高炭素鋼・工具鋼の冷間加工前処理
等温焼なまし HAI 切削性の安定化


特に注目したいのが球状化焼なまし(HAS)です。高炭素鋼や工具鋼でよく使われ、セメンタイト(鉄の炭化物)を球状化することで加工性を大幅に改善します。焼入れ前の前処理としても有効で、最終的な焼入れ後の均質な硬さを得るためには欠かせません。


焼ならし(HNR) は、鋼を変態点より少し高い温度で加熱した後、炉から取り出して大気中で空冷する処理です。英語ではノーマライジング(Normalizing)。焼なましが「軟化」を主目的とするのに対し、焼ならしは「組織の均一化・微細化」を主目的としています。


鋳造や鍛造・圧延で製造された鋼材は、内部に粗大な組織や偏析(成分の不均一分布)が生じています。焼ならしによって結晶粒が微細化されることで、機械的性質が向上します。焼なましよりも冷却が速い(空冷)ため、得られる組織はより細かいパーライト組織となり、強度も焼なましより高くなります。


つまり、「軟らかくしたい→焼なまし(HA)」「組織を整えて強くしたい→焼ならし(HNR)」と覚えておけば大丈夫です。


熱処理の種類と記号③:高周波焼入れ(HQI)・浸炭(HC)・窒化(HNT)の表面硬化処理

表面硬化処理とは、部品の内部は靭性を保ちながら、表面だけを硬化させる熱処理のカテゴリです。「表面は硬く・内部は粘り強く」というニーズに対応できるため、シャフト・歯車・カムなど摺動部品に広く使われています。


高周波焼入れ(HQI:Induction Hardening) は、高周波電流を流したコイルを部品に近接させ、電磁誘導による発熱で表面だけを急速加熱・急冷する方法です。特徴は「部分的に焼入れできる」「処理が短時間で環境負荷が少ない」「変形が比較的小さい」の3点です。表面硬度はHV500以下が目安で、浸炭に比べると硬度はやや低めになります。


浸炭焼入れ(HCG-HQ-HT など) は、低炭素鋼(炭素量0.3%以下、例:SCM415やSNCM220)の表面に炭素を浸透させた後、焼入れして硬化させる方法です。表面には高炭素層が形成されるためHV750以下の高硬度が得られ、内部は低炭素のままで靭性が維持されます。処理方法によってガス浸炭(HCG-HQ-HT)・真空浸炭(HCV-HQ-HT)・プラズマ浸炭(HCP-HQ-HT)に分かれます。


窒化処理(HNT) は、鋼の表面に窒素(N)を浸透させることで表面硬化させる方法です。浸炭や高周波焼入れとは根本的に違う点があります。窒化はマルテンサイト変態を利用しないため、処理温度が500〜550℃程度と低く、焼入れ操作が不要で変形が非常に少ないという大きなメリットがあります。表面硬度はHV1000以下と非常に高く、表面処理の中で最も硬い層が得られる方法の一つです。









🔍 表面硬化処理の比較
処理名 JIS記号 表面硬さ(HV) 変形量 主な適用材
高周波焼入れ HQI 500以下 S45C・SCM440など
浸炭焼入れ HCG-HQ-HT 750以下 中〜大 SCM415・SNCM220など
窒化処理 HNT-G 1000以下 極小 SACM645など窒化鋼
軟窒化処理 HNC-G 〜600 極小 一般炭素鋼・鋳鉄など


意外なことを一つ付け加えると、窒化処理は精密部品に特に向いています。変形がほぼないため、仕上げ加工後に処理できるというメリットがあります。一方、浸炭焼入れは処理後に変形が生じやすいため、研削工程を後に設けることが一般的です。厳しいところですね。


参考:表面硬化処理の詳細(ミスミmeviy公式解説)
全体熱処理・表面熱処理の種類と使い分け|ミスミmeviy


熱処理の種類と記号④:JIS記号の全体一覧と複合記号の読み方

熱処理記号の中には、複数の処理をハイフンでつないだ「複合記号」があります。たとえば 「HCG-HQ-HT」 は「ガス浸炭(HCG)→焼入れ(HQ)→焼もどし(HT)」の順番を示した記号です。この順番通りに処理が行われることを意味しており、読む方向は左から右です。複合記号が基本です。


以下に、よく使われる熱処理記号をまとめます。























📌 熱処理JIS記号 主要一覧
処理名 JIS記号 英語
焼入れ焼もどし HQT Quench & Temper
油焼入れ焼もどし HQO-HT Oil Quench
水焼入れ焼もどし HQW-HT Water Quench
高周波焼入れ焼もどし HQI-HT Induction Hardening
完全焼なまし HAF Full Annealing
応力除去焼なまし HAR Stress Relieving
球状化焼なまし HAS Spheroidizing
焼ならし HNR Normalizing
ガス浸炭焼入れ焼もどし HCG-HQ-HT Gas Carburizing
真空浸炭焼入れ焼もどし HCV-HQ-HT Vacuum Carburizing
ガス窒化 HNT-G Gas Nitriding
プラズマ窒化 HNT-P Plasma Nitriding
塩浴軟窒化 HNC-S Salt Bath Soft Nitriding
固溶化処理 HQST Solution Treatment
サブゼロ処理 HSZ Subzero Treatment
析出硬化処理 HAG Age Hardening
オーステンパ HQAU Austempering
マルテンパ HQM Martempering


「サブゼロ処理(HSZ)」はあまり知られていない処理で、焼入れ後に0℃以下(−70〜−100℃程度)まで冷却することで残留オーステナイトをマルテンサイトに変換し、寸法安定性や硬さをさらに高める方法です。ゲージ類や精密工具に使われます。これは意外ですね。


また「オーステンパ(HQAU)」は、通常の急冷焼入れとは異なり、オーステナイト化後に中間温度の塩浴に浸漬して等温変態させる処理です。通常の焼入れ焼もどし材よりも靭性に優れ、変形・割れが少ないという特徴があります。ばね鋼や薄板部品に有効です。


複合記号の読み方さえ覚えれば、見慣れない記号でもおおよその処理内容が推測できます。


参考:熱処理加工記号の詳細一覧
熱処理加工方法記号一覧|永井技研


熱処理の種類と記号⑤:目的別の選び方ガイド&図面指示の注意点

熱処理の選定で迷ったときは、「どんな性質がほしいか」から逆算するのがもっとも効率的です。たとえば「全体を硬くして強度を上げたい」なら焼入れ焼もどし(HQT)、「加工前に軟らかくしたい」なら焼なまし(HA)、「表面だけ硬くして内部の粘りを保ちたい」なら高周波焼入れ(HQI)または浸炭(HC系)というように、目的が絞れれば処理種類も自然と決まります。


選び方のポイントを整理します。


- 硬さを全体に出したい:HQT(調質)。S45C・SCM440など炭素鋼・合金鋼が対象。


- 表面のみ硬化・変形を抑えたい:HQI(高周波焼入れ)。シャフト・ギアに多用。


- 薄い表面硬化層・低炭素鋼に対応:HC系(浸炭焼入れ)。SCM415やSNCM220に有効。


- 超硬表面・変形ゼロに近い処理が必要:HNT(窒化)。精密部品・射出成形型に最適。


- 溶接や鍛造後の残留応力を取りたい:HAR(応力除去焼なまし)。


- ステンレスの加工応力を除去したい:HQST(固溶化処理)。SUS304などに適用。


図面に熱処理を指示するときは、記号だけでなく以下の情報もセットで記載することが重要です。


| 指示項目 | 記載例 |
|---|---|
| 処理記号 | HQI-HT |
| 処理部位 | 破線で範囲を図示 |
| 目標硬さ | HRC 50〜55 |
| 有効硬化層深さ | 0.5〜1.0mm |
| 材質 | S45C |


記号の記載だけでは、硬さの目標値や硬化深さが業者に伝わらず、仕上がりにバラつきが出ることがあります。記号+数値指示がセットで初めて完成した図面指示です。


特に浸炭焼入れを使う場合は、「有効硬化層深さ」の指示が品質管理上の重要項目になります。深さが足りなければ耐摩耗性が確保できず、深すぎると全体が脆くなるリスクがあります。設計者と加工業者が密に情報を共有することが欠かせません。


また、熱処理後に研削や仕上げ加工を行う場合は、「仕上げ代」を見込んで硬化深さを指示する必要があります。たとえば最終的な有効硬化層深さを0.5mmにしたいなら、研削代の0.1mmを見込んで0.6mm以上で処理するよう指示します。この点は現場の経験者のアドバイスを仰ぐのが一番です。


参考:焼入れ種類と図面指示の詳細解説
焼き入れとは?設計者が知るべき種類と図面指示




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