

公差を「とりあえず厳しくしておけば安心」と思っているあなた、それが製品コストを数倍に膨らませる最大の原因です。
標準公差(IT:International Tolerance)とは、JIS B 0401-1(ISO 286-1対応)に基づいて定められた、寸法の大きさに応じた許容されるサイズ公差の体系です。IT01からIT18まで合計20段階の等級が規定されており、数字が小さいほど精度が高く(公差が小さく)、数字が大きいほど許容誤差が広がります。
大切なのは「絶対値」ではなく「比率」という考え方です。たとえばΦ10mmで±0.01mmを実現するのと、Φ100mmで±0.01mmを実現するのとでは、加工の難しさが桁違いに変わります。IT基本サイズ公差は、寸法が大きくなるほど許容できる誤差の幅も自動的に広がるよう設計されており、「大きな部品には大きな公差」という合理的な発想が根底にあります。
つまり精度等級と寸法サイズの組み合わせで公差値が決まります。
実務での用途別の目安を整理すると、以下のようになります。
| IT等級 | 精度レベル | 主な用途例 |
|---|---|---|
| IT01〜IT3 | 超精密 | ゲージ類、測定器の基準部品 |
| IT4〜IT7 | 精密 | 軸受、精密スピンドル、はめあい部品 |
| IT8〜IT11 | 一般的な機械加工 | 一般機械部品、キー溝、フランジ |
| IT12〜IT18 | 粗加工・板金など | 構造部材、鋳造・鍛造品、板金加工品 |
一般的に設計現場でよく使われるのはIT4〜IT11の範囲です。それ以上の高精度領域(IT01〜IT3)は、測定器や標準器などの特殊用途に限られます。IT等級の選択ひとつで加工コストは大きく変わるため、「機能を満たす範囲で最も緩い等級を選ぶ」というのが設計の原則です。コストが条件です。
参考:JIS B 0401-1の詳細は日本産業標準調査会(JISC)の検索ページで無料閲覧できます。
標準公差を実際の図面で使う際に必ず理解しておきたいのが、「上の許容差」と「下の許容差」という概念です。公差はただ「±いくつ」という対称な数値で表されるだけではありません。JIS B 0401の体系では、図示サイズ(旧称:基準寸法)を基準として、許容される上限と下限のズレ量をそれぞれ個別に指定します。
具体的には以下の定義になります。
例を出すと理解しやすいです。「Φ30+0.021/0」という図面記号は、「直径30mmの穴で、上の許容差がES=+0.021mm、下の許容差がEI=0mm」を意味します。つまり実際の穴径は30.000mm〜30.021mmの範囲に収まれば合格ということです。これがH7(穴基準)の典型的な表現です。
はめあい公差の記号も同じ考え方に基づきます。たとえば「H7/g6」という組み合わせ記号では、Hが穴の基礎となる許容差の位置(下の許容差=ゼロ)、7がIT公差等級(IT7)を意味し、小文字gが軸の許容差の位置、6がIT6等級を意味します。記号の意味が整理できれば、公差表を見るだけで許容値が導き出せます。
この仕組みがわかると、図面を見たとたんに部品のキツさ・ゆるさが直感的にわかるようになります。これは使えそうです。
参考:はめあい公差の用語と概念を体系的に解説しているページです。
JIS B0401(ISO 286-1)規格で学ぶはめ合いの基礎 | 図研エルミック
JIS B 0401が最も実務で活用される場面は「はめあい」の設計です。はめあいとは、穴(内側)と軸(外側)の2つの部品が組み合わさるときの寸法関係のことで、どれだけ「ゆるく」あるいは「きつく」組み合わさるかを規定します。
はめあいには大きく3種類があり、目的によって使い分けます。
| 種類 | 状態 | 代表的な組み合わせ | 用途例 |
|---|---|---|---|
| ✅ すきまばめ | 常にすきまがある | H7/g6・H7/h6 | 回転軸、スライド部品 |
| 🔁 中間ばめ | すきままたはしめしろが生じる | H7/k6・H7/n6 | 位置決めピン、着脱が必要な箇所 |
| 🔒 しまりばめ | 常にしめしろがある | H7/p6・H7/s6 | 圧入固定、分解不要の箇所 |
設計を始める際の定石は「穴基準(H7基準)で考える」ことです。穴は加工後の測定や修正が軸に比べて難しいため、穴側の公差を「H7」に固定しておき、求めるキツさ・ゆるさに応じて軸側の記号(g6、k6、p6 など)を変えていくのが現場の標準的なやり方です。穴基準が原則です。
一方、「軸基準」は軸側を基準(h:上の許容差=ゼロ)に固定し、穴側の記号を変えて調整する方式です。市販の軸(シャフト)をそのまま使いたい場合や、複数の穴に同じ軸を組み合わせる設計など、特定の事情がある場合に採用されます。
注意すべきは「H7が万能ではない」という点です。穴基準で最もよく使われるH7はIT7等級に対応しますが、高精度が必要な転がり軸受では「H5」や「H6」、逆に非精密な固定部ならH8以上が使われます。機能に対して等級が不必要に厳しければ、コストが跳ね上がります。いずれにせよH7が最初の基準点となります。
参考:すきまばめ・中間ばめ・しまりばめの判断基準と代表的な組み合わせが一覧で確認できます。
はめあい公差記号の種類と使い分けを図解を用いてわかりやすく解説 | Protrude
標準公差にはもうひとつ重要な仕組みがあります。それが「普通公差(一般公差)」です。図面上のすべての寸法に個別の許容値を書き込もうとすると、図面が非常に読みにくくなります。そこでJIS B 0405(切削加工品の長さ・角度寸法)や JIS B 0419(幾何公差の普通公差)が、個別指示のない寸法を一括管理するための規格として定められています。
JIS B 0405では、普通公差を4つの等級に分類しています。
| 記号 | 等級名 | 適用の目安 | 例(30mm超〜120mm以下の場合) |
|---|---|---|---|
| f | 精級 | 精密機械部品、金属加工品 | ±0.1mm |
| m | 中級 | 一般的な機械部品(最もよく使われる) | ±0.2mm |
| c | 粗級 | 一般的な樹脂成形品、鋳造品 | ±0.5mm |
| v | 極粗級 | 粗加工品、板金外装部品 | ±1mm |
図面への適用方法は非常にシンプルです。図面の表題欄(注記欄)に「指示なき寸法公差:JIS B 0405-m」と記載するだけで、個別に公差が書かれていない全寸法に「中級」の許容差が自動的に適用されます。これで重要寸法だけに個別の厳しい公差を指示すれば良く、図面が格段に読みやすくなります。
ただし、見落としがちな注意点が2点あります。第一に、JIS B 0405はあくまで「切削加工」を前提とした規格であることです。プレス加工にはJIS B 0408、プラスチック成形にはJIS K 7109やISO 20457がより適切です。材料と加工方法を無視して機械的にJIS B 0405を当てはめると、現場で「達成不可能な精度」を要求してしまうことがあります。厳しいところですね。
第二の注意点は、JIS B 0405は寸法(長さ・角度)の普通公差であり、形状・姿勢・位置の精度は別規格のJIS B 0419(幾何公差の普通公差)で管理される点です。たとえば平面度や直角度の普通公差が必要な場合は、B 0405とB 0419をセットで図面に指示する必要があります。
参考:切削加工品の普通公差(JIS B 0405)の等級表と角度公差の数値が確認できるページです。
普通公差(JIS B 0405-1991/JIS B 0419-1991 抜粋)| 三木プーリ
標準公差の解説で意外と取り上げられないのが、「公差の数値がある境界を超えると、加工コストが急激に跳ね上がる」という事実です。これは収納棚やDIY家具のサイズ取りだけでなく、あらゆる部品設計において「見えないコスト」を生み出す落とし穴になっています。
具体的に言うと、一般的な切削加工(NC旋盤・フライス盤)では±0.05mm前後の公差は比較的扱いやすく、標準的な工程内で対応できます。しかし、これが±0.02mm以下になると測定・段取りの手間が急増し始め、±0.01mm(10μm)以下の世界では研削加工やラップ加工といった専用工程が必要になります。つまり±0.1mmと±0.01mmでは、精度がたった10倍違うだけなのに、加工コストが数倍〜数十倍にもなるケースがあるのです。
この「急変点」を知らずにとりあえず厳しい公差を指定することは、製品全体のコスト構造を歪めます。実際、「機能上は±0.2mmで十分なのに図面にIT7を指示してしまった」というケースは設計現場でよく起きる問題です。IT等級が1段階厳しくなるごとに、加工難易度と検査工数が段階的に増加することを念頭に置く必要があります。
では、どう判断するのか。シンプルな考え方は「その公差が機能に本当に必要かどうかを1箇所ずつ問い直す」ことです。一般加工品には中級(m)のJIS B 0405普通公差を使い、特別な要求がある箇所だけ個別にIT等級を設定するという「メリハリ設計」が、コストと品質を両立させるための基本です。
加えて、累積公差という概念も実務では重要です。複数の部品を組み合わせる設計では、個々の公差が積み重なります。単純な足し算(ワーストケース法)で計算すると部品点数が増えるほど累積公差が巨大になり、「全部品を高精度に作らないと組み立てられない」という問題が起きます。この場合、RSS法(二乗和平方根法)と呼ばれる統計的な手法を使うと、全体の累積公差を合理的に小さく見積もることができ、各部品の公差を適度に緩めてコスト削減につなげられます。
結論として、コストを抑えるなら「緩くできる公差は意識的に緩める」という姿勢が設計の基本です。
参考:公差とコストの関係、累積公差の計算方法を詳しく解説しているページです。
公差とは?種類別の特徴から計算方法までわかりやすく解説 | 株式会社ニチダイ