

幾何公差の記号は、全部で16種類もあるのに、現場で実際に使われているのはそのうち8種類程度です。
幾何公差とは、部品の「形状・姿勢・位置・振れ」といった幾何学的な特性に対して、許容できる誤差の範囲を定めた規格です。従来の寸法公差が「長さ」や「直径」の許容範囲しか指定できないのに対し、幾何公差は「どれだけ真っ直ぐか」「どれだけ平行か」といった、より細かな形状精度まで規定できます。
JIS B 0021(ISO 1101に対応)に基づき、幾何公差の記号は現在16種類が定められています。これらは大きく4つの分類に整理されています。
| 分類 | 主な特徴 | データム | 含まれる幾何特性 |
|---|---|---|---|
| 形状公差 | 形体そのものの形状を規制 | ❌ 不要 | 真直度・平面度・真円度・円筒度・線の輪郭度・面の輪郭度 |
| 姿勢公差 | 基準に対する姿勢を規制 | ✅ 必要 | 平行度・直角度・傾斜度 |
| 位置公差 | 基準に対する位置を規制 | ✅ 必要 | 位置度・同軸度・同心度・対称度・線の輪郭度・面の輪郭度 |
| 振れ公差 | 回転時の振れを規制 | ✅ 必要 | 円周振れ・全振れ |
重要なポイントは「データムが必要かどうか」です。形状公差だけはデータム(基準となる面・線・点)なしに単独で指示できます。それ以外の公差はすべて、基準となるデータムとセットで使う必要があります。これが基本です。
「輪郭度(線・面)」は形状公差と位置公差の両方に登場する点も見逃せません。データムを使わない場合は形状公差、データムと組み合わせる場合は位置公差として機能します。一つの記号が使い方によって分類が変わるわけです。
参考:JIS B 0021に基づく幾何公差記号の分類と適用方法について、権威ある解説ページです。
形状公差は、部品単体の形状そのものを規制する幾何公差です。データムが不要なため、比較的シンプルに使えるのが特徴です。
まず 真直度(—) は「どれだけ真っ直ぐか」を指定します。直線や軸の曲がりの許容値を規制するもので、長尺シャフトや棒材の反りを管理する場面でよく使われます。面全体ではなく、直線要素に対して適用する点がポイントです。
次に 平面度(◇) は「面の凹凸の許容範囲」を指示します。最も凸の点と最も凹の点が、一定距離だけ離れた2つの平行平面の間に収まることを求めます。機械の取り付け面や接触面の精度管理に欠かせません。
| 幾何特性 | 記号イメージ | 規制する内容 | 主な使用場面 |
|---|---|---|---|
| 真直度 | — (一本線) | 直線・軸線のまっすぐさ | シャフト・長尺物の反り管理 |
| 平面度 | ◇(ひし形) | 面の凹凸の最大幅 | 取り付け面・摺動面の精度 |
| 真円度 | ○(円) | 断面が正円かどうか | 軸・穴の真円精度 |
| 円筒度 | ○/ (円+斜線) | 円形+直線(円筒全体) | 嵌合部・軸受け部の精度 |
| 線の輪郭度 | ⌒(半円弧) | 断面輪郭線のずれ | 曲面部品の断面管理 |
| 面の輪郭度 | ⌓(ハット型) | 曲面全体のずれ | 自由曲面の3D形状管理 |
真円度 は軸・穴の断面における「まんまるさ」を指定します。寸法公差の直径指示だけでは、断面が楕円や多角形になっても検出できません。真円度を使うことで、初めて「どれだけ正確な円か」を指示できます。
円筒度 は真円度と真直度を合わせたような公差です。「断面が正円で、かつ真っ直ぐな円筒である」ことを一度に指示できます。嵌合精度が重要なシャフトや軸受け部に使われることが多いです。
線の輪郭度 と 面の輪郭度 はやや上級の記号です。線の輪郭度は断面の輪郭線が意図した形状に収まっているかを規制し、面の輪郭度は曲面全体を対象にします。データムなし(形状公差)で使う場合は輪郭の「形状のずれ量」を規制し、データムと組み合わせた場合(位置公差)は「位置のずれ量」まで含めて規制します。つまり同じ記号でも意味が変わります。
参考:形状公差の記号と測定方法について、図解で丁寧に解説されています。
姿勢公差・位置公差・振れ公差はすべてデータム(基準)が必要です。データムとは、測定や加工の基準となる「理論的に正確な面・線・点」のことです。データムがあって初めて「どこに対して平行か」「どこを中心に振れているか」が定まります。
姿勢公差(3種類) について見ていきます。
- 平行度:データムに対して「どれだけ平行か」を指示します。2つの面や軸が平行であることを求める場面で使います。形状公差の「平面度」と混同しやすいですが、平面度にはデータムがなく、平行度にはデータムが必要という違いがあります。
- 直角度:データムに対して「どれだけ正確に90°であるか」を指定します。注意すべきは単位です。直角度の公差値は「°(度)」ではなく「mm」で指定します。「0.1mm以内の平行2平面内に収まること」というように、位置の幅で表現します。
- 傾斜度:データムに対して、平行でも直角でもない指定角度の形体を規制します。直角度と同様に単位はmmです。
位置公差(6種類) はもっとも種類が多く、使い方も幅広いです。
| 幾何特性 | 規制する内容 | 混同しやすい相手 |
|---|---|---|
| 位置度 | 点・線・面の正確な位置からのずれ | 寸法公差(位置を累積公差で指定しがち) |
| 同軸度 | 2つの円筒の「軸線」のずれ | 同心度(こちらは中心点が対象) |
| 同心度 | 2つの円の「中心点」のずれ | 同軸度(こちらは軸線が対象) |
| 対称度 | 基準に対して対称な形体の中心のずれ | 位置度(対称形体に特化した版) |
| 線の輪郭度(位置) | 基準位置からの輪郭線のずれ | 同記号・形状公差との使い分け |
| 面の輪郭度(位置) | 基準位置からの輪郭面のずれ | 同記号・形状公差との使い分け |
同軸度と同心度 は特に混同しやすい組み合わせです。同軸度は「3次元的な軸線(直線)のずれ」を規制するのに対し、同心度は「2次元断面上の中心点のずれ」を規制します。立体的な軸合わせには同軸度、断面内の中心確認には同心度を使うのが原則です。
振れ公差(2種類) は回転部品に特有の公差です。円周振れは任意の1断面における回転時の振れ幅を規制するのに対し、全振れは形体の表面全体が一つの公差域に収まることを求めます。全振れの方が厳しい要求であり、コストにも影響します。
参考:姿勢公差・位置公差・振れ公差の記号と指示方法の詳細はこちらを参照できます。
幾何公差の記号は単体で使うのではなく、必ず「公差記入枠(コントロールフレーム)」という長方形の枠の中に記入します。この枠の読み方を理解することが、図面を正確に読むための最大のポイントです。
公差記入枠には、左から順に次の情報が入ります。
例えば「◎|φ0.1|A」と書かれた公差記入枠であれば、「同軸度・公差域は直径0.1mmの円筒・データムはA面を基準とする」という意味になります。公差値の前に「φ」があれば公差域が円筒であることを示します。これだけ覚えておけばOKです。
データム記号は、正三角形を使った記号で図面に表示されます。アルファベット(A・B・Cなど)が入った四角い枠と三角形が組み合わさった形状です。このアルファベットが公差記入枠の⑤の欄に記入され、「どの面を基準にしているか」を示します。データムを設定することで、加工者・測定者が同じ基準で作業でき、図面の意図が正確に伝わります。
TED(理論的に正確な寸法) も図面でよく登場します。四角い枠(□)で囲まれた数値がTEDで、公差を持たない正確な位置・寸法を示します。位置度・輪郭度・傾斜度を指示するときは、TEDと組み合わせることで累積公差を発生させずに正確な位置を指定できます。通常の寸法公差だと複数の寸法が積み重なって誤差が累積しますが、TEDならその問題を回避できます。
参考:公差記入枠の読み方とデータム記号の使い方について詳しく解説されています。
幾何公差の記号を図面で使いこなすには、よくある「落とし穴」を知っておくことが大切です。
混同しやすい記号トップ3として、①平面度と平行度、②真円度と円筒度、③同軸度と同心度が挙げられます。
まず平面度と平行度の違いについてです。平面度はデータム不要で「その面自体の凹凸量」を規制します。一方、平行度はデータムが必要で「基準面に対してどれだけ平行かの偏差量」を規制します。さらに重要な関係として、「平行度0.1を満たす面は、必ず平面度も0.1以下でなければならない」というルールがあります。姿勢公差は形状公差を含む概念だからです。これは意外ですね。
次に直角度と傾斜度の単位についてです。どちらも「角度を指定するもの」と誤解されがちですが、公差値の単位は「mm」です。「直角度0.05」は「直角方向から0.05mmの幅の平行2平面内に収まること」を意味しており、0.05°ではありません。
実務では、次の手順で記号を選ぶと整理しやすくなります。
また、現場でよく指摘されるのが「幾何公差の記号は使っているが、測定方法が伴っていない」というケースです。例えば円周振れは「部品を基準軸で回転させながらダイヤルゲージを当てて測定する」という具体的な方法があります。記号の意味と測定方法をセットで理解することが、設計者・加工者・品質担当者全員にとって重要です。
幾何公差の記号の学習にあたり、キーエンスやミスミが提供している無料の学習資料は非常に実践的です。CADソフト(SolidWorksやCreoなど)では幾何公差の記入機能が標準搭載されており、JIS・ISO・ASMEそれぞれの規格に対応した記号を図面に自動で配置できます。記号の体系を一通り理解した後は、実際の図面を使って繰り返し確認するのが最も効果的な習得方法です。
参考:幾何公差の指示で間違いやすい事例を集めた実務向けの解説資料です。設計者の確認用に活用できます。