

公差記号を「目安」で決めると、加工コストが数倍に膨れ上がることがあります。
収納棚の引き出しを例に挙げてみましょう。引き出しがスムーズに動くのはレールとの間にわずかな「すきま」があるからです。一方、きつくはまって抜けないキャップや圧入された金具は「しめしろ」によって固定されています。この「すきま」と「しめしろ」を意図的に設計するための考え方が、はめあい公差です。
機械設計においてはめあい公差とは、穴(内径部品)と軸(外径部品)を組み合わせたときの「ゆるさ」や「きつさ」の度合いを数値化し、規格化したものです。JIS B 0401という規格がこの考え方の基礎になっており、ISO 286とも整合する国際標準として広く使われています。
公差とは、指示した寸法に対して「どのくらいのバラつきまで許容できるか」を示す範囲です。穴の直径をぴったり10mmに仕上げることは現実的には不可能であり、加工には必ずバラつきが発生します。その許される範囲が「上の寸法許容差」と「下の寸法許容差」で定められ、その2つの合計を公差といいます。つまり公差が原則です。
はめあい公差では、穴と軸それぞれの公差を組み合わせることで「すきまばめ」「しまりばめ」「中間ばめ」という3種類の関係を作り出します。目的に応じた3種類の使い分けが設計の要です。穴が軸より大きければすきまが生まれ、軸が穴より大きければしめしろが発生します。その境界をどこに設定するかが、はめあい公差設計の核心です。
実際に収納家具や棚の引き出しレールを製造するような場面では、スライド部分が滑らかに動くために「適度なすきま」が設計されています。このような考え方は工業製品だけでなく、DIYレベルの精密加工にも応用できます。これは使えそうです。
はめあいとは(すきまばめ・しまりばめ・中間ばめの図解を含む基礎解説)- MONOWEB
はめあいには大きく3つの種類があります。それぞれの違いを正確に理解しておくことが、設計ミスを防ぐ第一歩です。
すきまばめ(clearance fit)は、穴が軸よりも確実に大きく、常にすきまが生じる組み合わせです。穴の最小許容寸法から軸の最大許容寸法を引いた値を「最小すきま」といい、逆を「最大すきま」といいます。どのようなバラつきが生じても軸と穴が干渉しないため、スライドや回転といった動きが必要な部位に適しています。自転車のペダル軸やドアの蝶番など、何度も組み立て・分解を繰り返す箇所にも使われます。
しまりばめ(interference fit)は、軸が穴よりも確実に大きく、常にしめしろが発生する組み合わせです。組み立てには圧入や焼きばめ(穴を加熱して膨張させる方法)が必要で、一度組み付けると原則として分解できません。ベアリングの外輪をハウジングに固定する場面や、歯車を軸に強固に取り付ける場合がこれにあたります。しめしろが大きすぎると圧入時に部品を破損するリスクがあり、一般的には直径にもよりますが数十μm(マイクロメートル)程度のしめしろで十分な固定力が得られます。
中間ばめ(transition fit)は、すきまばめとしまりばめの中間に位置する組み合わせです。穴と軸の寸法がほぼ同じになるため、製造上のバラつきによって実際にはすきまになったりしめしろになったりします。ノックピン(位置決め用の円柱状のピン)のはめあいなど、ガタなく固定したいが頻繁な取り外しを想定しないケースに使われます。「組んでみないとわからない」という側面があり、厳しいところですね。
それぞれの用途をまとめると以下のとおりです。
| 種類 | 状態 | 主な用途 | 組み立て方 |
|---|---|---|---|
| すきまばめ | 常にすきまあり | スライド・回転部品、着脱頻度が高い箇所 | 手や軽い力で挿入可能 |
| しまりばめ | 常にしめしろあり | ベアリング固定、歯車の圧入など | 圧入・焼きばめが必要 |
| 中間ばめ | すきままたはしめしろ | ノックピン、高精度な位置決め | 軽い力または手打ちで挿入 |
はめあい公差の図解(しまりばめ・すきまばめの概念図つき)- 精密金属加工VA/VE技術ナビ
はめあい公差の一覧表を見るとき、「H7/g6」といった記号が並んでいます。この記号体系を理解するだけで、設計の意図が一目でわかるようになります。
記号は「アルファベット(大文字または小文字)+数字」で構成されています。大文字は穴の公差域クラス、小文字は軸の公差域クラスを表します。例えば「H7」は穴を示し、「g6」は軸を示します。穴が大文字というルールだけ覚えておけばOKです。
アルファベットの意味について詳しく解説します。穴の場合、Aから始まり穴径が最も大きく、アルファベットが進むにつれて穴が小さくなっていきます。そしてHの時点で「下の寸法許容差がゼロ」、つまり基準寸法と一致します。HよりもZC側(アルファベット後半)になると穴はさらに小さくなり、しめしろが生まれやすくなります。軸の場合は逆に、小文字aが最も細く、zc側に向かって軸径が大きくなります。hが「上の寸法許容差ゼロ」の基準点です。
数字の部分(6、7、8など)はIT等級(International Tolerance、基本サイズ公差等級)と呼ばれ、公差の幅の大きさを示します。数字が小さいほど許容される誤差が少なく(高精度)、数字が大きいほど誤差の幅が広く(低精度)なります。一般的な目安は以下のとおりです。
| IT等級 | 精度レベル | 主な用途 |
|---|---|---|
| IT5 | 非常に高精度 | ゲージ・測定器・精密スピンドル |
| IT6〜IT7 | 高精度(標準) | 一般的なはめあい(H7など最多使用) |
| IT8〜IT11 | 中精度 | 一般機械部品の組み付け |
| IT12〜IT14 | 低精度(粗加工) | 粗削り品・板金など |
例えば「Φ40 H7」という指示を図面で見かけた場合、「直径40mmの穴で、H7の公差域クラスを適用する」という意味です。JIS B 0401の一覧表から引くと、直径30〜50mmのH7公差は「上の寸法許容差:+0.025mm、下の寸法許容差:0」とわかります。つまり39.975mm〜40.025mmの範囲内であれば合格、ということです。
この一覧表はJIS B 0401-2に詳細が収録されており、三木プーリやミスミなど複数のメーカーが無料で公開しています。設計時は手元に一覧表を置いておくのが基本です。
はめあい公差一覧表(JIS B 0401抜粋・PDFダウンロード可)- 三木プーリ
実務では、無数の公差の組み合わせから「よく使われるもの」に絞って覚えることが設計効率を上げる近道です。JIS B 0401-2では「常用するはめあい」として代表的な組み合わせが推奨されています。
穴基準(穴をH7に固定)での代表的な組み合わせを以下に示します。
| 組み合わせ | はめあいの種類 | 特徴と用途 |
|---|---|---|
| H7/g6 | すきまばめ | 精密摺動部・スライド機構。最小すきまは数μm程度 |
| H7/h6 | すきまばめ(ゼロすきま基準) | 位置決め・ゆっくりした動きの軸 |
| H8/f7 | すきまばめ(やや大きめ) | 一般的な軸受けや回転軸 |
| H7/js6 | 中間ばめ | わずかなすきまor しめしろ |
| H7/k6 | 中間ばめ | ノックピンなど位置決め固定 |
| H7/m6 | 中間ばめ〜しまりばめ | やや強めの固定 |
| H7/p6 | しまりばめ | 圧入固定・ベアリング内輪など |
| H7/s6 | しまりばめ(強固) | 強力固定が必要な箇所・焼きばめ推奨 |
最も使用頻度が高いのはH7/g6とH7/p6の2つです。設計者がこの2つをまず押さえると実務に入りやすくなります。H7/g6はスライドや回転のすきまばめの代表であり、H7/p6は圧入によるしまりばめの代表です。
選び方の基準は「部品がどう動くか」を最初に確認することです。回転・スライドなら「すきまばめ」、完全固定なら「しまりばめ」、ほぼ動かないが取り外し可能性があるなら「中間ばめ」というのが原則です。その後、どれだけの力や精度が必要かによってIT等級(数字部分)を決めます。
なお、H9/d9やH10/h9のように数字が大きい組み合わせは「一般的な可動部や荒削り後の中間組み付け」などに使われ、精密ではありませんが加工コストを抑えられます。収納家具のスライドレールや蝶番の嵌め込み部分のように「精密すぎないが機能する」組み付けには、こうした緩めの公差が実は適している場面もあります。
常用するはめあいの寸法公差(JIS B 0401-2 抜粋・穴基準・軸基準の推奨組み合わせ一覧)- ミスミ
はめあいを設計する際、「穴を基準にするか、軸を基準にするか」という選択があります。穴基準が原則です。この理由を理解することで、設計の効率と加工コストの両方を最適化できます。
穴基準方式では、穴の公差を標準(多くはH7やH8)に固定し、そこに組み合わせる軸の公差を変えることではめあいの種類を切り替えます。同一の穴(例:Φ50 H7)に対して、g6を選べばすきまばめ、k6を選べば中間ばめ、s6を選べばしまりばめと、軸側だけを変えることで機能が変えられます。これは部品表のシンプル化にも直結します。
一方で軸基準方式は穴側を変えて調整する方法で、既製品のシャフト(市販の磨き丸棒など、寸法が固定された軸)に対して複数の穴を合わせる場面で使われます。
穴加工と軸加工の難しさに大きな差があります。穴(内径)の加工はドリルで下穴を開けてリーマで仕上げる2工程が基本ですが、過剰な精度を求めるとボーリングやホーニングといった追加工程が必要になり、加工コストと不良率が跳ね上がります。軸(外径)の加工は旋盤で0.01mm単位の切り込み調整が比較的容易であり、高精度な仕上げを一度の工程でこなせます。つまり「穴は標準公差に固定し、軸で微調整する」方が全体的に低コストかつ安定した品質につながるのです。
具体的な数字で見てみましょう。例えばΦ50のH7穴の場合、上の寸法許容差は+0.025mm(0.025mm=髪の毛の直径の約4分の1)で、加工には一般的なリーマ加工で対応可能です。これを仮にH5(±数μm)に設定すると、ボーリングマシンやホーニング加工が必要になり、加工費が2〜3倍になることもあります。痛いですね。
設計段階で公差を厳しく設定しすぎると、後工程での加工難易度が増し、不良品の発生率も上がります。この「コストと精度のバランス」こそが、はめあい公差の設計で最も重要な視点です。必要以上の精度は求めないことが条件です。
はめあい公差の決め方と穴の公差を先に決める理由(図解・具体例あり)- MONOWEB