

エア抜きを「何となく終わらせた」だけで、油圧シリンダーが3か月以内に故障した事例が報告されています。
油圧ポンプの回路内に空気が混入すると、動作が不安定になるだけでなく、機器そのものに深刻なダメージを与えることがあります。空気は液体と違って圧縮性が高いため、回路内に残っていると油圧シリンダーの動きがガクガクとしたものになり、精密な制御ができなくなります。これを「スポンジ現象」と呼び、建設機械や工作機械の現場では特に警戒されています。
具体的には、油圧システムの出力が設計値の最大30〜40%低下するケースも確認されています。たとえば定格出力10トンの油圧プレスが6〜7トン程度の力しか発揮できなくなるイメージです。これは見えないロスです。
さらに、エアが混入した状態でポンプを高圧運転し続けると「キャビテーション」と呼ばれる現象が起きます。これは気泡が潰れるときに局所的に非常に高い衝撃圧が発生する現象で、ポンプ内部のシールやバルブシートを傷め、最終的にはポンプ本体の交換が必要になります。ポンプ交換のコストは機種によりますが、一般的な産業用油圧ポンプで5万〜30万円以上かかることも珍しくありません。痛いですね。
また、エアが混入した油圧油は酸化しやすくなるという点も見落とされがちです。酸化した油は粘度が変化し、バルブの動作不良や配管内のスラッジ(汚泥状の堆積物)生成を促進します。つまり、エア抜きの不徹底は「今だけの問題」ではなく、油圧システム全体の寿命を縮める行為です。
エア抜き作業を始める前に、必要な道具と安全確認を済ませておくことが重要です。準備不足のまま作業を始めると、作業中に油が噴出したり、エアが抜けきらないまま終わってしまうリスクがあります。準備が成功の9割を決めます。
まず揃えるべき基本的な工具と材料は以下のとおりです。
油圧油の規格は必ず確認してください。異なる粘度グレードの油を混ぜると、バルブの動作不良や劣化を招きます。一般的な産業用機械では「ISO VG46」が使われることが多いですが、機種の取扱説明書で確認するのが原則です。
安全面では、必ずシステムの電源を落とし、圧力がゼロになっていることを圧力計で確認してから作業を開始してください。油圧システムはエンジンを切っても回路内に残圧が残っている場合があります。残圧が残ったまま配管を外すと、高圧の油が噴出して重大な怪我につながります。これは必須の確認事項です。
エア抜きの手順は機種や回路構成によって細部が異なりますが、基本的な流れは共通しています。ここでは最も一般的な「低圧・無負荷でのエア抜き手順」を解説します。
ステップ1:タンクの油量を確認・補充する
作業前にタンクの油面をオイルレベルゲージで確認します。油面が下限ライン付近にある場合は、まず油を補充してください。エア抜き作業中にさらに油面が下がる可能性があり、ポンプが空気を吸い込む「空吸い」状態になると、ポンプ自体を傷める原因になります。
ステップ2:システムを無負荷状態で短時間起動する
圧力をかけない状態(無負荷・低速)でポンプを短時間だけ起動します。目安は30秒〜1分程度です。この段階では負荷をかけず、油を回路内に循環させてエアを浮上させることが目的です。ポンプが唸るような音を立てる場合は、まだ多量のエアが混入しているサインです。
ステップ3:エア抜きニップルまたはドレンボルトを緩める
油圧シリンダーや配管の最上部、または専用のエア抜きニップルが設置されている箇所を特定します。エアは上に溜まる性質があるため、回路の最も高い位置がエア抜きのポイントになります。ニップルまたはプラグを1/4〜1/2回転程度緩め、気泡を含んだ油が出てくることを確認します。
継続的に気泡のない油だけが出るようになったら、ニップルを締め直します。このとき締めすぎに注意が必要で、推奨トルクを超えると部品を破損します。
ステップ4:シリンダーをフルストロークで動作させる
シリンダーを伸縮方向にゆっくりとフルストロークで5〜10回動作させます。この操作でシリンダー内に残っているエアを回路全体に分散・上昇させ、エア抜きポイントから排出させます。急激な動作はNGです。
ステップ5:油量の再確認と仕上げ確認
全工程が終わったらタンクの油量を再確認します。エアが抜けた分、油が回路に充填されるため油面が下がることがあります。必要に応じて補充してください。その後、通常負荷で動作させて異音や振動がないかを確認します。スムーズに動けば完了です。
エア抜き作業でミスが起きやすいポイントは、実は特定のパターンに集中しています。現場での失敗事例をもとに、代表的なものを紹介します。
失敗1:高い場所のエア抜きポイントを見落とす
配管が複雑に取り回されているシステムでは、回路の「最高点」が複数存在することがあります。1か所だけエアを抜いても、別の高所にエアが残ったままになるケースが多いです。これは意外ですね。
対策としては、配管の系統図(回路図)を手元に置きながら作業し、すべての高所ポイントを順番に抜いていくことが有効です。機器に回路図がない場合は、メーカーのサービスマニュアルを取り寄せるのが確実です。
失敗2:ポンプを高負荷で即運転する
エア抜き直後にいきなり定格の高圧で運転を開始すると、まだ残っているエアがキャビテーションを引き起こします。少なくとも最初の5〜10分は無負荷または軽負荷で慣らし運転することが基本です。焦りは禁物です。
失敗3:油圧油の油種や粘度グレードを確認せずに補充する
エア抜き作業中に油を補充する際、在庫にあった別グレードの油をそのまま入れてしまう失敗が現場では意外と多いです。VG32とVG46を混ぜた場合、粘度が中間値に変化し、高温時の粘度不足や低温時の流動性悪化につながります。油の混合は原則NGです。
失敗4:残圧確認をしないまま作業開始
前述の通り、システムを停止しても回路内に圧力が残っていることがあります。圧力計がゼロを示すまで待つか、リリーフバルブを使って意図的に圧力を逃がしてから作業を開始することが安全の基本です。
機械の保管や長期収納の後に油圧機器を再稼働させる場面では、エア抜きが特に重要になります。これが見落とされがちな理由は、「動いているから問題ない」と判断してしまうためです。しかし実際には、長期間停止した機器の油圧回路内では油が沈降・分離し、上部に空気層が形成されることがあります。
たとえば3か月以上使用しなかった油圧機器を再稼働させる場合、最低でも「無負荷での試運転とエア抜き確認」を行うことを推奨するメーカーが多いです。これが条件です。
また、収納・保管中に油温が大きく変化する環境(屋外倉庫や温度変化の激しい工場内)では、油圧タンクのブリーザー(呼吸口)から外気を吸い込み、水分や塵が混入するリスクもあります。この水分が油中で気化すると、擬似的なエア混入と同様の影響を与えます。
長期保管後の再稼働チェックリストとして、以下の手順を参考にしてください。
長期保管後の初回起動でいきなり高圧・高負荷運転をすると、シールへの過負荷やキャビテーションが重なり、起動直後に重大な不具合が発生するケースも報告されています。「収納から出した=すぐ使える」ではないということですね。
油圧機器の保管・再稼働に関して、より詳しいメーカー推奨の手順については、各機器のサービスマニュアルを参照するのが最も確実です。たとえば油圧機器の信頼性の高い技術情報源として、日本油圧工業会(JFPA)の技術資料も参考になります。
日本フルードパワー工業会(JFPA)公式サイト:油圧・空圧機器の技術規格や保守に関する情報が掲載されています。エア抜きや保守基準の参考資料として活用できます。