

割り出し加工を「複雑で高コストな方法」と思い込んでいると、じつは3軸加工より約20%も割安になるチャンスを見逃しています。
割り出し加工とは、加工する前に2つの回転軸(回転軸・傾斜軸)でワーク(加工物)の角度をあらかじめ固定し、その状態でX軸・Y軸・Z軸の3軸だけを動かして削る加工方法です。正式には「割り出し5軸加工」とも呼ばれ、5軸加工機の2大手法の一つに数えられます。
「5軸全部を同時に動かすのが5軸加工では?」と思う方も多いでしょう。それは「同時5軸加工」と呼ばれる別の手法です。割り出し加工は、2軸をあらかじめ止めてから残り3軸で加工を行う点が大きく異なります。つまり、5軸の機械を持っていても、使い方によって「同時5軸」と「割り出し5軸」に分かれるわけです。
割り出しという言葉のイメージとしては、時計の文字盤を思い浮かべると理解しやすいです。12時・3時・6時・9時のように、ワークを必要な角度へ「割り出して」固定し、その面を正確に加工します。一面が終わったら次の角度に回転させて固定し、また3軸で削る——この繰り返しが割り出し加工の基本的な流れです。
つまり割り出し=「角度の割り付け固定加工」です。
加工前の準備として、オペレーターはCAMソフト(加工プログラム作成ソフト)でどの角度で何を削るかを設定します。Autodesk FusionのようなCAMソフトであれば、3D形状から穴の位置を自動認識し、短時間で加工プログラムを作成できるため、段取り作業が大幅に効率化されます。
| 比較項目 | 割り出し5軸加工 | 同時5軸加工 |
|---|---|---|
| 加工中の軸動作 | 2軸固定+3軸のみ稼働 | 5軸すべて同時稼働 |
| プログラムの難度 | 比較的容易 | 高度な技術が必要 |
| 3D曲面加工 | 対応困難 | 対応可能 |
| 機械・導入コスト | 比較的低い | 高い |
| 多面加工(1段取り) | 可能 | |
| 加工精度の安定性 | 非常に高い(角度ごとに補正可) | 高いが微小誤差が生じやすい |
割り出し加工の実務で最初につまずくポイントは「NC原点の決め方」です。これが理解できるかどうかで、作業効率が劇的に変わります。
段取り替え(ワークの向きを変える操作)をするたびに原点座標が変わってしまうのが「苦労するタイプ(Aタイプ)」の加工機です。この場合、段取りのたびにNCプログラムを作り直す必要があり、時間と手間が膨大にかかります。一方、ファナック社の「傾斜面加工指令(G68.2)」や各機械メーカーのマクロ機能を使える「楽々タイプ(B/Cタイプ)」では、G54などのワーク座標系が常にモデルの一点に固定されるため、段取りが変わってもNCデータは同じものを使い続けられます。
「段取りが変わっても原点は変わらない」ことが5軸割り出し加工のキモです。
具体的な加工手順は次のとおりです。
この流れを見てわかるように、割り出し加工の「準備(段取り)」はCAMソフトの品質に大きく左右されます。とくにAutodesk FusionやSolidMillFXのようなCAMソフトでは、傾斜面加工指令に必要な「オイラー角」を自動計算してくれるため、手計算や試行錯誤によるミスをほぼゼロにできます。これは非常に大きなメリットです。
なお、機械の仕様によっては1つの割り出し角度に対して「2パターンの機械姿勢」が存在する場合があります。この場合は、オペレーターが加工箇所を目視確認しやすい姿勢を選ぶことが推奨されています。
参考:割り出し加工の原点の考え方と座標系設定の詳細技術資料(ヨシカワメイプル株式会社)
4軸、5軸割り出し加工の考え方(PDF)|ヨシカワメイプル株式会社
割り出し加工のメリットは「段取りを減らせること」だけではありません。精度向上・工具費削減・放電加工の代替という3方向で同時に恩恵を受けられます。これは使えそうです。
① 段取り削減によるコスト約20%ダウン
実際の試算事例(株式会社関東製作所)では、3軸加工で5工程(段取り5回)かかっていた部品を、5軸加工(割り出し含む)で3工程に圧縮しました。マンチャージ(人件費相当)とマシンチャージ(設備費相当)を合算して比較すると、3軸加工のコスト指数「4.07」に対し、5軸加工は「3.29」と約20%のコストダウンを実現しています。5軸加工機は3軸より初期費用が約1,500万円高いにもかかわらず、段取り削減の効果がそれを上回るのです。
日本ではマンチャージ(人件費)がマシンチャージ(設備費)を上回るため、段取り回数を減らすことが最もダイレクトにコストへ影響します。コスト削減が原則です。
② 各角度ごとの補正で「数ミクロン単位」の高精度を維持
同時5軸加工では、5軸すべてを同時に動かすため、部材の温度変化・振動・バックラッシュなどによって数ミクロン単位の誤差が生じます。割り出し加工では各割り出し角度ごとに個別補正ができるため、精密機械部品や航空宇宙部品のような「数ミクロンが命取り」になる加工でこそ真価を発揮します。
③ 特殊工具・専用治具が不要になり、工具費も削減
R1.5のボールエンドミルで比較した場合、全長50mmの工具は全長30mmのものと比べて加工スピードが20%遅くなります。しかも長い工具の方が価格は高い。割り出し加工ではワークを傾けて固定するため、深い場所でも短い工具でアクセスでき、工具費と加工時間の両方を節約できます。
参考:5軸加工機の段取り削減とコスト削減効果の実例(MFG Hack)
5軸加工機の基本メリットを解説:工程短縮・コスト削減|MFG Hack
「割り出し加工」と「同時5軸加工」は、同じ5軸加工機を使っていても性格がまったく異なります。どちらが優れているという話ではなく、「どんな製品・目的に向いているか」で選ぶものです。
同時5軸加工が向いているのは、滑らかな3次元曲面(タービンブレードや自動車ボディ金型など)が必要なケースです。工具とワークの角度をリアルタイムで変えながら削るため、曲線の滑らかさが段違いです。ただし、プログラム作成の難度が高く、機械本体のコストも大幅に高くなります。
割り出し加工が向いているのは、多面加工・穴あけ・アンダーカット加工など「角度を変えれば届く面が複数ある」製品です。
収納家具や建具パーツの製造においても、割り出し加工の考え方は応用されています。例えば、扉の丁番取り付け部分やスライドレールのアンダーカット溝、収納ユニットの側板に開けるダボ穴列など、複数方向からのアプローチが必要な加工で、1回の段取りで効率よく仕上げるために活用されています。
迷ったら割り出しから始めるのが基本です。同時5軸加工は「割り出しでは対応できない曲面が出てきたとき」に検討するのが合理的な順番です。初期投資・習熟コスト・プログラム難易度のいずれも割り出し加工の方が低いため、現場への導入ハードルが低いのが大きな利点です。
参考:割り出し5軸と同時5軸の違いの詳細解説(NCネットワーク系専門サイト)
同時5軸マシニングセンタと割り出し5軸マシニングセンタの違いは?|5axis-susume.com
「割り出し加工は工場や製造業の話」と思っている方も多いはずです。しかし収納専門の家具製造・オーダー建具の世界でも、この技術は静かに使われています。
オーダー収納家具(壁面収納・システム収納・造作棚など)は、寸法が現場ごとに異なる一品一様の製品です。しかもパーツは、側板・棚板・底板・背板・扉・レールなど多岐にわたり、それぞれに「斜め穴」「埋め込みナット用アンダーカット」「蝶番用ザグリ穴」などの複雑な加工が求められます。
こうした加工を3軸加工機で行うと、面ごとにワークをセットし直す「段取り替え」が何度も発生します。1パーツで3〜4回の段取り替えが必要なケースも珍しくありません。
しかし5軸の割り出し加工機(または木工用5軸CNCルーター)を活用すれば、1回の固定でほぼ全ての面の加工を完結できます。大川家具などの産地では、CAD/CAMの導入とCNCの高度化によってこの効率化が進んでいます。
収納パーツの精度が上がると、引き出しの開閉がスムーズになります。棚板のダボ穴位置がズレない、扉の隙間が均等になる——これらはすべて、段取り替えを減らして加工精度を高めた結果です。収納の使いやすさは、実は加工工程の品質に直結しているのです。
さらに、割り出し加工の考え方を知っておくと「なぜオーダー家具は価格が高いのか」「既製品と造作品で精度が違うのはなぜか」という疑問にも答えられるようになります。収納を選ぶ・発注する側の知識として持っておくと、業者との会話でも役立ちます。
また別の知識として、家具製造に5軸CNCを導入する際は「ものづくり補助金」や「省力化投資補助金」の対象になるケースがあります。現在製造側にいる方や、家具メーカーへの発注を検討している方は、補助金活用の可能性も調べてみる価値があります。
参考:収納家具製造におけるCNC・CAM活用事例(別注家具製作所)
五軸制御による三次元切削加工の活用|別注家具製作所 工場紹介