

まとめ買いをするほど在庫コストが下がると思っている人は、実は年間で数万円単位の損をしていることがあります。
発注量の計算問題で最もよく登場するのが、EOQ(Economic Order Quantity)、つまり「経済的発注量」という考え方です。一言で言うと、「発注費用」と「在庫維持費用」の合計が最小になる、1回あたりのちょうどいい発注量のことを指します。
この2つの費用は、発注量を増やすほど逆方向に動くという特性があります。具体的には、1回あたりの発注量を増やせば1年間の発注回数が減り、発注にかかる手間やコストは下がります。しかし今度は保管している在庫の量が増えるので、倉庫代・電気代・保険料などの維持費用が上がるのです。
つまり2つが正反対に動くということですね。この「クロスポイント」を数式で求めたものがEOQです。
EOQの計算式は以下のとおりです。
$$EOQ = \sqrt{\frac{2 \times D \times S}{H}}$$
- D:年間総需要量(1年間に使う個数)
- S:1回あたりの発注費用(発注業務の人件費・送料など)
- H:1個あたりの年間在庫維持費用(保管費・保険料など)
具体的な例で計算してみましょう。
- 年間需要量(D)= 1,200個
- 1回の発注費用(S)= 500円
- 1個あたりの年間在庫維持費用(H)= 100円
$$EOQ = \sqrt{\frac{2 \times 1200 \times 500}{100}} = \sqrt{12000} \approx 109個$$
この結果、1回あたり約109個ずつ発注するのが、コスト合計が最も低くなる発注量だということがわかります。これが基本です。
ここで1つ大事な注意点があります。EOQはあくまで「費用を最小化する発注量」を示すものであり、「適正在庫量」とは別物です。欠品を防ぐための安全在庫や、発注のタイミング(発注点)を別途設定しないと、EOQだけでは実務や試験の問題は解けません。EOQ単体では不十分だということです。
参考リンク(EOQ・経済的発注量の詳しい計算方法と発注方式への応用について)。
経済的発注量(EOQ)の計算方法と実用的な適用方法と注意点 | 在庫管理110番
発注量と並んでよく問われるのが、「いつ発注するか(=発注点)」と「最低限いくつ持つべきか(=安全在庫)」の計算です。
安全在庫とは、需要の急増や納期遅延など、予期せぬトラブルに備えて持つ「最低ラインの在庫」のことです。これを下回ると欠品になります。安全在庫の計算式は次のとおりです。
$$安全在庫 = 安全係数 \times 使用量の標準偏差 \times \sqrt{発注リードタイム + 発注間隔}$$
ただし試験や実務の入門レベルでは、簡易計算式として次の式がよく使われます。
$$安全在庫 = (1日あたりの最大使用量 - 平均使用量) \times リードタイム$$
続いて発注点の計算式です。
$$発注点 = 1日あたりの平均出荷量 \times 調達リードタイム + 安全在庫$$
例として整理すると以下のようになります。
| 条件 | 数値 |
|------|------|
| 1日の平均出荷量 | 20個 |
| 調達リードタイム | 5日 |
| 安全在庫(計算済み) | 30個 |
$$発注点 = 20 \times 5 + 30 = 130個$$
在庫が130個まで減ったときに発注をかけることで、リードタイム中に欠品しないように設計できるということです。
ここで多くの人が混乱するのが「発注点」と「安全在庫」の違いです。安全在庫は「絶対に割ってはいけない下限の量」であり、発注点は「発注アクションを起こすタイミングの基準値」です。発注点に到達してから発注し、リードタイムをくぐり抜けたあとに残っているのが安全在庫になります。両方を別物として管理することが条件です。
参考リンク(発注点・安全在庫・適正在庫の計算方法と違いの詳細解説)。
発注量を計算するには?EOQや食材の廃棄率までわかりやすく解説 | マネーフォワード クラウド
発注量の計算問題では、「どの発注方式を使うか」によって計算式が変わります。これが解き方のポイントで、方式の違いを押さえておけば問題の8割はスムーズに解けます。
定量発注方式(発注点方式)は、在庫が事前に設定した「発注点」を下回ったときに、毎回同じ量を発注する方式です。発注量は固定されますが、発注タイミングは在庫の消費ペースによって変動します。需要が比較的安定していて、単価が安い日用品・消耗品に向いています。
$$発注量(定量)= 一定(EOQなどで事前計算した値)$$
一方、定期発注方式は、毎週・毎月といった決まった周期で在庫を確認し、そのたびに「必要な量を計算して発注する」方式です。発注タイミングは固定されますが、発注量は毎回変わります。
$$発注量(定期)= 最大在庫量 - 現在の在庫量$$
計算問題でよく出る定期発注方式の発注量は次の計算式で求めます。
$$発注量 = 平均出庫量 \times (発注間隔 + 調達期間) + 安全在庫 - 現在在庫数 - 発注残数$$
たとえば、最大在庫量が500個で現在の在庫が150個であれば、発注量は350個です。
2つの方式の選び方をまとめると、以下のようになります。
| 比較項目 | 定量発注方式 | 定期発注方式 |
|----------|-------------|-------------|
| 発注タイミング | 在庫が発注点を下回ったとき(変動) | 決まった周期(固定) |
| 発注量 | 固定 | 毎回変動 |
| 向いている商品 | 安価・需要が安定 | 高価・需要が変動 |
| 管理の手間 | 在庫監視が必要 | ルーティン化しやすい |
これは使えそうですね。発注方式を先に特定してから計算式に数字を当てはめる、という手順で解くと計算問題のミスが減ります。
参考リンク(定量発注・定期発注の発注量計算と在庫管理への実践応用)。
発注量の求め方を計算式から詳細解説!在庫管理導入#08 | minizaiko
計算問題でミスが起きやすいポイントが「リードタイム」と「発注残数(発注済みで未着の在庫)」の扱いです。痛いところですね。
リードタイムとは、発注してから商品が実際に届くまでの日数です。この間も在庫は消費され続けるため、リードタイムを発注点の計算に組み込まないと、商品が届く前に在庫がゼロになります。たとえばリードタイムが7日、1日の平均出荷量が50個であれば、発注をかけた時点では最低350個(+安全在庫)の在庫が必要です。
さらに多くの初心者が見落とすのが「発注残数」の考慮です。発注残数とは、すでに発注済みだがまだ届いていない商品の数量のことです。この数が大きければ、現時点での在庫は少なくても「近々届く分がある」ので、過剰発注になりかねません。
$$発注量 = 最大在庫量 - 現在在庫数 - 発注残数$$
この式のように、現在在庫数だけでなく発注残数も差し引くことが原則です。
計算問題の落とし穴パターンとしてよく出るのが以下の2つです。
- ✅ リードタイムを「日数」ではなく「週数」や「月数」で与えられているのに、単位を変換せずに計算する
- ✅ 発注残数の有無を問題文で見落として、最大在庫から現在在庫だけを引いてしまう
単位の統一が条件です。問題を読む前に「時間の単位は何か」「発注残の記載はあるか」を確認する癖をつけると、計算ミスが大幅に減ります。
参考リンク(発注点・発注残数・リードタイムを含む在庫管理計算の詳細)。
発注点の計算・求め方と発注方式との関係 | SmartMat Cloud
ビジネスで使う発注量の計算理論は、実は家庭の日用品ストック収納にもそのまま応用できます。収納に悩む多くの人が「なくなってから買う」か「セールで大量にまとめ買いする」かの両極端になりがちです。しかしこの2つには、それぞれ見えにくいコストが存在します。
「なくなってから買う」の問題点は欠品リスクです。トイレットペーパーやシャンプーを切らしてしまうと、急な買い物が発生します。これは在庫管理で言う「発注リードタイム中の欠品」と同じ状態です。
「まとめ買い」の問題点は保管コストと置き場所の圧迫です。たとえば月に1本消費するシャンプーを10本まとめ買いすると、約10ヶ月分のストックを保管するスペースと手間が発生します。家庭の収納スペースは有限で、過剰なストックは収納の圧迫・賞味期限切れ・ダブり買いにつながります。
家庭への応用として、在庫管理プロの整理収納アドバイザーが実践しているのは以下の考え方です。
| ビジネス用語 | 家庭での意味 | 具体的な行動 |
|---|---|---|
| 安全在庫 | 最低ストック数 | 「残り1個になったら買う」ルール |
| 発注点 | 補充タイミング | ストックが1個になったらメモに書く |
| 最大在庫量 | 収納スペースの上限 | 棚に入る分だけしか持たない |
| 一括管理 | ストック置き場を1か所に | 家中に散らばらせない |
「残り1個になったら買い足す」というシンプルなルールは、まさに「発注点に達したら発注する」という定量発注方式の家庭版です。ビジネスと同じ考え方ということですね。
整理収納の専門家・5Sインストラクターの研究によれば、日用品のストック場所を家の中の1か所に集約し、透明ケースで見える化することで、ダブり買いや買い忘れをほぼゼロにできるとされています。収納スペースを確保することより、自分のライフスタイルに合った「最適発注量(どれだけ持つべきか)」を先に決めることが重要です。スペースより量が先というのが原則です。
参考リンク(整理収納アドバイザーによる日用品ストック管理の実践法)。
日用品のストックの買いすぎや買い忘れを防ぐ収納管理法 | リンナイスタイル