

エンコーダーを正しく選ぼうとして、スペック表だけを見比べていませんか?実は分解能の数字が高いほど精度が上がると思って選ぶと、ノイズ耐性の低さが原因で誤動作し、設備全体の停止コストが数十万円規模になるケースがあります。
エンコーダーとは、回転軸や可動部の「位置・角度・速度・方向」を電気信号に変換するセンサーデバイスです。日本語では「変換器」と訳されますが、製造現場ではそのままカタカナで呼ばれることがほとんどです。
仕組みの核心は「物理的な動き → パターン検出 → パルス信号」という3ステップにあります。たとえばロータリーエンコーダーの場合、シャフトに取り付けられた円盤(スリットディスク)が回転すると、光学センサーやホール素子がスリット(切れ目)の通過を検出し、1スリット通過ごとに1パルスの電気信号を出力します。このパルス数を数えることで「何度回転したか」「どの位置にいるか」がわかる仕組みです。
工場の搬送ラインやロボットアームがスムーズに動作できるのは、このエンコーダーが毎秒何千・何万回もパルスを出力し、モーター制御装置(サーボドライバー)にリアルタイムでフィードバックしているからです。これが基本です。
エンコーダーが使われている代表的な場面を整理すると。
- 🏭 産業用ロボット:関節軸の角度をリアルタイム検出してアームの位置を精密制御
- 🖨️ プリンター・CNC工作機械:送り軸の移動量をμm(マイクロメートル)単位で管理
- 🚗 自動車のステアリングシステム:ハンドルの回転角度・速度を検出してアシスト制御
- 🏠 収納家具の電動昇降システム:昇降ステージの位置をカウントして停止位置を制御
収納システムに搭載される電動昇降棚やスライドレールにも、エンコーダーが内蔵されているケースが増えています。位置制御が正確でないと棚が設定位置で止まらず、引き出しの衝突や荷重のかかりすぎによる故障につながるため、センサーの精度が耐久性に直結します。
エンコーダーが出力する信号の代表は「パルス列」です。ただし、単純に1チャンネルのパルスだけを出しているわけではありません。ほとんどのロータリーエンコーダーは3種類の信号チャンネルを持っています。つまりA相・B相・Z相の3系統が基本です。
A相(Aチャンネル) は基本となるパルス信号で、ディスクが1スリット分回転するごとに1パルスを出力します。B相 はA相と90度の位相差(クォードラチャー)を持つ信号で、A相とB相の「先行・遅延関係」を見ることで回転方向(正転・逆転)を判定できます。これは重要な点です。
具体的に言うと、A相がB相より先に立ち上がる(A→B)なら正転、B相が先に立ち上がる(B→A)なら逆転と判定します。位相差が90度であることを「直交エンコーダー信号」と呼び、英語では "quadrature signal" と表記します。分解能を4倍にカウント(エッジカウント×4)できるため、実際の機器では「4逓倍回路」と組み合わせて使うのが一般的です。
Z相(原点信号・インデックスパルス) は1回転に1パルスだけ出力される特別な信号です。機械の電源投入後や位置ズレが発生したとき、Z相が来るまで軸をゆっくり回転させて「原点復帰(ホーミング)」動作を行います。これがないと、電源再投入のたびに位置データが失われてしまいます。
| 信号 | 出力タイミング | 主な用途 |
|------|------------|--------|
| A相 | スリット通過ごと | 移動量(パルスカウント) |
| B相 | A相と90°位相差 | 回転方向の判別 |
| Z相 | 1回転に1回 | 原点復帰・位置リセット |
出力信号の電気的インターフェースとしては、TTL(5V)・オープンコレクタ・差動ライン(RS-422) の3種類が主流です。差動ライン出力はノイズに最も強く、ケーブル長が長い産業用途では標準的に採用されています。インバーターや溶接機が近くにある環境では、差動出力タイプを選ぶのが原則です。
光学式エンコーダーは、文字通り「光」を使って位置を検出します。これは使えそうです。構造は大きく分けて「発光素子(LED)・スリットディスク・受光素子(フォトトランジスタ)」の3要素で構成されています。
仕組みを順を追って説明します。まず、LEDが発光し、その光がスリットディスクのスリット(透過部)を通り抜けて受光素子に届きます。ディスクが回転するとスリットと不透過部が交互に光を遮断するため、受光素子への光の入射が「ON/OFF」を繰り返します。この明暗変化を電気パルスに変換することで、回転量を計測します。
スリットの数(スリット数)が分解能を決定します。1回転あたりのスリット数をPPR(Pulses Per Revolution) と呼び、一般的な産業用エンコーダーは500〜2,500PPR、高精度な測定機器では10,000PPR以上のものも存在します。500PPRのエンコーダーは1回転を500分割(0.72°刻み)で検出できます。
光学式の最大の特徴はその高分解能と精度の高さです。スリットディスクの加工精度が非常に高いため、0.01°以下の角度検出も可能です。一方で、油・粉塵・水分に対して弱く、汚染された環境ではスリットが遮光されて誤動作するリスクがあります。これがデメリットです。
ガラス製スリットディスクを使う高精度モデル(例:HeidenhainのROD 400シリーズ)では、繰り返し精度±0.001°を達成しており、半導体製造装置や精密測定機器に採用されています。光学式を選ぶ際は、設置環境のIP保護等級(IP54/IP65以上)の確認が条件です。
磁気式エンコーダーは、光ではなく磁界の変化を利用して位置を検出します。構造の中心となるのは、N極とS極が交互に着磁された「磁気スケール(磁気ドラム)」と、その磁界変化を検出する「磁気センサー」の組み合わせです。
磁気センサーには主に2種類あります。ホール素子 は磁界の強さに応じた電圧を出力する素子で、安価で信頼性が高いため民生品にも広く使われています。MRセンサー(磁気抵抗素子) は磁界の向きによって電気抵抗が変化する素子で、ホール素子より感度が高く、高速・高分解能な検出が可能です。最近はGMR(巨大磁気抵抗)センサーを使ったエンコーダーも登場しており、分解能が光学式に迫るレベルまで向上しています。意外ですね。
磁気式最大の強みは耐環境性の高さです。油・水・粉塵が多い環境でも安定して動作し、衝撃や振動にも強いため、工作機械・建設機械・食品加工ラインなどの過酷な環境に適しています。
| 比較項目 | 光学式 | 磁気式 |
|--------|------|------|
| 分解能 | 高い(〜数万PPR) | 中〜高(技術向上中) |
| 耐汚染性 | 弱い | 強い |
| 耐衝撃・振動 | やや弱い | 強い |
| 価格 | 中〜高 | 中程度 |
| 代表用途 | 半導体・精密機器 | 工作機械・食品工場 |
収納システムへの応用という観点では、磁気式エンコーダーは電動棚や自動倉庫の昇降機構に向いています。粉塵や湿気が多い倉庫環境でも誤動作しにくく、定期的なクリーニングのメンテナンスコストを抑えられるためです。メンテナンスコストの削減は長期運用で大きな差になります。
磁気式エンコーダーを選ぶ際の注意点として、外部磁場(強力なモーターや電磁石の近く)の影響を受けやすい点があります。取り付け位置を磁場発生源から離す設計上の配慮が必要で、設置距離の目安はモーター磁石から最低100mm以上が推奨されることが多いです。
参考情報として、磁気エンコーダーの原理と設計については以下のリソースが詳しいです。
エンコーダーの種類・原理・選定方法について技術的に詳しく解説している参考ページです。
キーエンス:エンコーダの種類と選び方
エンコーダーを選ぶうえで必ず直面するのが「インクリメンタル型とアブソリュート型、どちらを選ぶか」という問題です。この2つは出力信号の形式が根本的に異なり、用途の向き・不向きがはっきりしています。
インクリメンタル型(増分型) は、基準点(原点)からの移動量を「パルス数の積算」で求めます。電源を切るとカウント値がリセットされるため、電源再投入後は必ず原点復帰動作が必要です。構造がシンプルなため低コストで、分解能も高くしやすいメリットがあります。つまり「相対位置」を測るタイプです。
アブソリュート型(絶対値型) は、ディスクに複数のスリットトラック(または磁気パターン)をバーコード状に刻んでおり、どの位置にいても「絶対的な角度・位置コード」を出力します。電源を切っても位置情報が保持されるため、電源再投入後に原点復帰が不要です。これが最大のメリットです。
アブソリュート型の出力コードには グレイコード(Gray Code) が広く使われています。グレイコードは隣接する数値間で1ビットしか変化しない特性を持つため、読み取りのタイミングが少しズレても誤った大きな数値を出力しにくく、安全性が高いという特徴があります。
分解能の表現方法も異なります。インクリメンタル型はPPR(パルス/回転)で表し、アブソリュート型はビット数で表します。たとえば12ビットのシングルターンアブソリュートエンコーダーは2の12乗=4,096分割(約0.088°刻み)の分解能を持ちます。さらにマルチターン型では、ギア機構や電子回路(電池バックアップ)で複数回転分の絶対位置を記憶できるため、長ストロークのリニア軸にも対応できます。
どちらを選ぶべきかは設備の要件によって決まります。
- インクリメンタル型が向く場面:コスト重視・高分解能が必要・原点復帰の実施が許容できる用途(工作機械の送り軸、プリンターなど)
- アブソリュート型が向く場面:電源投入後すぐに位置制御が必要・原点復帰動作の時間が許されない用途(ロボット関節、電動昇降収納など)
電動昇降収納の場合、停電後の復帰時に棚が原点まで自力降下できないケースがあるため、アブソリュート型を採用するメーカーが増えています。アブソリュート型を選ぶなら問題ありません。
インクリメンタル・アブソリュート両方式の詳細な解説については以下も参考になります。
オムロン FA テクニカルガイド:ロータリエンコーダの基礎知識
エンコーダーの分解能は「測定のきめ細かさ」を表す指標ですが、「高ければ高いほど良い」とは必ずしも言えません。ここが意外なポイントです。
分解能を上げると検出パルス数が増えるため、コントローラーが処理しなければならないデータ量が増大します。処理速度が追いつかないと、高速回転時にパルスをカウントしきれず(パルスロス)、かえって制御精度が低下することがあります。これを最高応答周波数(最大カウント周波数) の問題と呼び、一般的な産業用コントローラーでの上限は200kHz〜1MHzです。
具体的な計算例を示します。2,500PPRのエンコーダーを使い、4逓倍カウントした場合の1回転あたりのパルス数は10,000パルスです。このエンコーダーを搭載したモーターが毎分3,000rpm(50rps)で回転すると、毎秒50万パルスが発生します。つまりコントローラーには500kHz以上の応答性が必要な計算です。
電動昇降収納や自動倉庫の棚制御では、位置決め精度として±1mm以下が一般的な要求仕様とされています。ストローク1,000mmの昇降ラックであれば、1mm=全ストロークの0.1%の精度です。これを達成するためには、リードスクリューのピッチとエンコーダー分解能の組み合わせを正しく設計する必要があります。
たとえばリードスクリューのピッチが5mm/回転の場合、1mmの移動は1/5回転分に相当します。±0.5mmの精度を出すには、1回転の1/10(0.1回転)を識別できる分解能が必要で、最低でも100PPR以上が必要な計算になります。実際には安全マージンを考慮して500〜1,000PPRが選ばれることが多いです。これが条件です。
収納システムのエンコーダー選定で気をつけるべきポイントをまとめると。
- 📏 分解能:要求位置決め精度の10倍以上を目安に設定する
- 🌡️ 使用温度範囲:倉庫・屋外収納では−10℃〜+60℃対応品を確認する
- 💧 IP保護等級:屋外・多湿環境ではIP65以上を推奨
- 🔄 最高回転速度:モーターの最高回転数に対して余裕のある応答周波数か確認する
- 🔌 出力インターフェース:接続するコントローラーの入力仕様(TTL/差動/プッシュプル)に合わせる
エンコーダーの選定ミスは設備の誤動作・停止に直結するため、メーカーの選定ツールを活用するのが確実です。たとえばキーエンスやオムロンの公式サイトでは、要件を入力するだけで適合モデルを絞り込めるオンライン選定ツールを無料で提供しています。無料で使える点は大きいです。
設備の要件が固まったら、まず1点サンプル評価を行い、実機環境でのノイズ耐性・温度特性を確認してから量産適用するのが、導入後のトラブルを防ぐ最も確実な手順です。

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