IEC62061とは?機能安全規格の基本と適用範囲を解説

IEC62061とは?機能安全規格の基本と適用範囲を解説

IEC62061とは?機能安全規格の基本知識

収納棚や産業用ラックの設計・選定に関わる際、実は「機械安全の国際規格」が製品の信頼性を左右していることをご存じでしょうか。IEC62061を知らずに機器選定すると、導入後のリスク評価やリコール対応で数百万円規模の損失が発生することがあります。


IEC62061とは?3つのポイント
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機能安全の国際規格

IEC62061は機械類の安全関連電気・電子・プログラマブル制御システムに特化した国際規格です。SIL(安全度水準)を用いてリスクを定量的に管理します。

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SIL1〜SIL3で安全度を数値化

システムの危険故障確率(PFH)をSIL1〜SIL3の3段階で評価し、安全機能の要求レベルを明確に定義します。数値による管理が可能です。

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ISO13849との併用が主流

IEC62061単独ではなく、機械系安全を扱うISO13849と組み合わせて使用するケースが国内外で標準となっています。


IEC62061とは何か:規格の目的と制定の背景

IEC62061は、機械類における安全関連の電気・電子・プログラマブル電子制御システム(SRECS)の設計・構築・検証に関する国際規格です。正式名称は「Safety of machinery — Functional safety of safety-related control systems」であり、国際電気標準会議(IEC)が2005年に初版を制定しました。その後、2021年に第2版が発行され、内容が大幅に刷新されています。


この規格が生まれた背景には、1990年代以降の機械制御のデジタル化があります。従来のリレー回路による安全システムと異なり、プログラマブル機器が制御に組み込まれるようになると、従来の機械安全規格だけでは対応しきれないリスクが生じました。つまり「ソフトウェアのバグが人命に関わる事故を引き起こす可能性」に対して、体系的な評価手法が求められたのです。


IEC62061は、IEC61508(電気・電子・プログラマブル電子安全関連システムの機能安全規格)を機械分野に特化して適用したものです。IEC61508が汎用的な安全規格であるのに対し、IEC62061は「機械類」という具体的な適用対象を持ちます。規格が必要な理由は明確です。


産業用機械、搬送設備、生産ライン、そして産業用収納ラックを含む自動倉庫システムなど、制御システムを持つあらゆる機械が対象です。日本国内では、JIS規格としてJIS B 9961として対応付けられており、国内製造業でも参照が求められる場面が増えています。


日本産業標準調査会(JISC):JIS規格検索ページ(JIS B 9961など機械安全関連規格の確認に活用できます)


IEC62061のSILとPFH:安全度水準の数値的な意味

IEC62061の中核概念が「SIL(Safety Integrity Level:安全度水準)」です。SILは1・2・3の3段階で定義されており、数字が大きいほど高い安全性が要求されます。数字だけ見ても実感しにくいですね。


SILの各レベルは、1時間あたりの危険故障確率(PFH:Probability of dangerous Failure per Hour)で定義されています。具体的な数値は以下のとおりです。






















SILレベル PFH(危険故障確率/時間) イメージ
SIL1 10⁻⁵ 〜 10⁻⁶(1/時間) 約10万〜100万時間に1回の危険故障
SIL2 10⁻⁶ 〜 10⁻⁷(1/時間) 約100万〜1000万時間に1回の危険故障
SIL3 10⁻⁷ 〜 10⁻⁸(1/時間) 約1000万〜1億時間に1回の危険故障


たとえばSIL2の「100万時間に1回」とはどれくらいでしょうか?1年は約8,760時間ですから、100万時間はおよそ114年分の稼働時間に相当します。工場の設備が24時間365日稼働すると仮定しても、114年で1回しか危険故障が起きない水準です。これは高い信頼性ですね。


PFHの値は、システムを構成する各コンポーネントのデータシートから取得し、計算式によって算出します。部品単体の信頼性データはIEC規格やメーカーが提供するFITデータ(Failure in Time:10億時間あたりの故障数)を活用します。計算が原則です。


SILが決まると、設計の要件が明確になります。たとえばSIL2が要求される場合、単一障害点(SPOF)の排除、診断機能の組み込み、冗長構成の採用などが設計上の具体的条件になります。SILは「設計の出発点」として機能するのです。


安全工学関連の解説サイト:IEC62061のSILとPFH計算に関する実務的な解説(専門エンジニア向けの参考情報として活用できます)


IEC62061とISO13849の違い:どちらを使うべきか

「IEC62061とISO13849はどう違うのか?」という疑問は、機械安全に携わる多くの方が最初にぶつかる壁です。結論から言うと、どちらを使うかは「制御システムの構成技術による」ということです。


ISO13849は、安全関連部品を「カテゴリ(B、1、2、3、4)」と「PLd(Performance Level)」で評価する規格で、主に機械・電気・油空圧を含む広い技術領域を対象としています。一方、IEC62061は電気・電子・プログラマブル電子技術(E/E/PE)に特化した規格です。つまり両規格の違いは「適用対象技術の範囲」です。


2021年発行のIEC62061第2版では、IEC61508との整合が強化され、ISO13849との同時適用に関するガイダンスも充実しました。以前は「どちらの規格を選ぶか」で設計者が迷うことが多かったのですが、現在は「複合システムには両規格を組み合わせる」という方向性が明確になっています。これは使えそうです。


実務上の使い分けとして、機械系(カム・スプリング・油圧)が主体の安全システムはISO13849を、PLCやセーフティコントローラなどのプログラマブル機器が中心の場合はIEC62061を適用するケースが多いです。製造現場ではどちらか一方のみ、というケースはむしろ少ないです。



























比較項目 IEC62061 ISO13849
主な適用技術 E/E/PE(電気・電子・プログラマブル電子) 機械・電気・油空圧を含む広範囲
安全指標 SIL(SIL1〜SIL3) PL(PLa〜PLe)
定量評価 PFHによる数値計算 MTTFd・DCavg・CCFによる計算
複雑なPLCシステム ◎ 適合性が高い △ 限定的


IEC62061の適用範囲と対象機械:収納・搬送設備との関連

IEC62061の適用範囲は「機械類の安全関連制御システム(SRECS)」全般です。この中には、一般的な産業機械だけでなく、自動倉庫システム・スタッカークレーン・搬送コンベヤ・自動棚システムといった収納・物流設備も含まれます。収納設備との関連は直接的です。


現代の物流倉庫では、自動ラック・垂直搬送機無人搬送車AGV)といった機器が導入されています。これらの機器には必ずPLC(プログラマブルロジックコントローラ)やセーフティコントローラが搭載されており、人が接近した場合の緊急停止機能や過積載検知機能など、安全関連の制御機能が不可欠です。


たとえば垂直搬送機(リフター)では、「扉が開いているときは昇降不可」という安全インターロックが設けられています。このインターロック回路の信頼性をSILで評価・設計することが、IEC62061の具体的な活用場面です。設備導入の際にSIL証明書を求めるケースが、国内でも2020年以降急増しています。


収納設備を導入または選定する立場から見ると、IEC62061は「どれだけ安全に設計された機器か」を客観的に比較・評価する指標として機能します。SIL2以上の認証を取得したセーフティコントローラを使用しているかどうかは、機器選定の重要なチェックポイントになります。安全性の根拠として活用できます。


厚生労働省:労働安全衛生に関するページ(機械安全・危険源評価に関する国内法規との関連情報として参照できます)


IEC62061の設計プロセス:SIL達成に必要なステップと独自の視点

IEC62061に基づく設計プロセスは、一般的に以下の流れをたどります。この手順を把握しておくと、機器選定・仕様策定の場面で発注者として的確な要求を出せるようになります。


①ハザード同定とリスクアセスメント
まず、機械が持つ危険源(ハザード)を洗い出し、リスクマトリクスを使って重大性と発生頻度を評価します。この段階でSIL要求値(SILR:SIL Required)が決まります。


②安全機能の定義(SF:Safety Function)
特定されたリスクに対し、どのような安全機能で対処するかを定義します。「緊急停止機能」「過速度検出機能」「扉インターロック機能」などがこれに該当します。安全機能の定義が核心です。


③SRCSの設計とPFH計算
安全機能を実現するための制御システム(SRCS:Safety-Related Control System)を設計し、使用部品のPFHデータをもとにシステム全体のPFH値を計算します。この値が要求SILの範囲内に収まることを確認します。


④検証・妥当性確認
設計が要求事項を満たしているかを、机上レビューおよびテストで確認します。テスト手順書・故障モード分析(FMEA)・ソフトウェア検証が含まれます。


ここで多くの企業が見落としがちな独自の視点があります。それは「メンテナンスや清掃作業中の安全機能の有効性」です。通常の運転中はSIL適合の安全システムが正常に機能していても、メンテナンスモードに切り替えた際に安全機能が一時的に無効化される設定になっていると、作業者の安全が確保されなくなります。日本国内の機械関連事故の統計では、労働災害の約30%がメンテナンス・清掃作業中に発生しているというデータがあります(厚生労働省・労働災害統計)。収納設備の定期点検手順とセットでSIL設計を見直すことが、実質的なリスク低減につながる重要な視点です。SIL設計の盲点として覚えておく価値があります。


技術書籍・JIS B 9961関連解説:機能安全の設計プロセスと検証手順の参考(実務担当者向けの補足資料として有用です)


また、IEC62061対応の設計ツールとして、SISTEMA(Sicherheit von Steuerungen an Maschinen)というフリーソフトウェアが広く使われています。ドイツのBG ETEM(事業者責任保険団体)が提供するこのツールは、SILおよびPLの計算を支援する機能を持ち、日本語のガイドも公開されています。設計担当者はまずこのツールを確認することをおすすめします。


IEC62061は、機械安全の国際規格として電気・電子・プログラマブル制御システムの安全性を体系的に評価するための枠組みです。SILによるリスクの定量化、ISO13849との適切な使い分け、そして自動倉庫や搬送設備への具体的な適用まで、その内容は幅広く実務に直結しています。収納・物流設備の導入や選定に関わる方は、SIL証明書の有無や設計プロセスの透明性を確認するだけで、導入リスクを大幅に減らすことができます。安全設計の根拠として、IEC62061の基礎知識を持つことが今後ますます重要になるでしょう。