

まとめ買いをするほど収納スペースが増えてコストが下がると思っていたら、実は年間で数万円の損をしている可能性があります。
EOQ(Economic Order Quantity)とは、日本語で「経済的発注量」と呼ばれる在庫管理の概念です。一言で言えば、「発注にかかるコスト」と「在庫を持つことにかかるコスト」の合計が最も小さくなる1回あたりの発注量のことを指します。
収納や在庫管理に関心のある方なら、「まとめて買うほど割安」と感じることも多いでしょう。確かに発注回数を減らせば発注費用は下がります。しかしその一方で、在庫量が増えるほど保管スペース・管理の手間・廃棄リスクといった「在庫維持費用」が膨らんでいきます。これがトレードオフの関係です。
発注費用の代表例は、仕入れ時の輸送費・事務処理コスト・検品の人件費などです。発注量を増やすと1回あたりの発注回数が減るので、年間で見たときの発注費用は少なくなります。逆に在庫維持費用は、倉庫の賃料・光熱費・保険料・商品の陳腐化リスクなどを含み、発注量が増えるほど在庫が積み上がるため比例して大きくなります。
つまり、これが原則です。
グラフで描くと、発注費用は右肩下がりの曲線、在庫維持費用は右肩上がりの直線になります。2本の線が交差する点、つまり「発注費用=在庫維持費用」となるときの発注量が、年間総費用を最小にするEOQです。この交点のイメージは、コストがちょうど「V字」の底になるような状態だと考えると覚えやすいです。
経済的発注量(EOQ)の計算方法と実用的な適用方法と注意点 - 在庫管理110番(発注費用・在庫維持費用のグラフとトレードオフ関係を詳細解説)
EOQ公式は次の式で表されます。EOQ公式はシンプルな構造です。
$$EOQ = \sqrt{\frac{2 \times D \times S}{H}}$$
それぞれの変数の意味は以下の通りです。
このEOQ公式のポイントは、「分子に発注費用と需要量、分母に在庫維持費用がある」という構造です。これを覚えておけば、各要素が変化したときにEOQがどう変わるかを直感的に理解できます。
たとえばSが大きくなる(発注費用が高くなる)と、分子が大きくなるのでEOQは増加します。つまり1回の発注量を増やして発注回数を減らす方向が最適になります。逆にHが大きくなる(保管費用が高くなる)と、分母が大きくなるのでEOQは小さくなります。在庫をあまり持たず、こまめに発注する方向が最適ということです。これは使えそうです。
具体的な計算例を見てみましょう。
$$EOQ = \sqrt{\frac{2 \times 1200 \times 500}{100}} = \sqrt{\frac{1{,}200{,}000}{100}} = \sqrt{12{,}000} \approx 110 \text{個}$$
この計算から、1回あたり約110個を発注するのが最も総コストを低く抑えられる量となります。年間1,200個必要なので、発注回数は 1,200 ÷ 110 ≒ 約11回となり、ほぼ月1回のペースで発注することになります。
Excelやスプレッドシートで計算する場合は、SQRT関数を使うと簡単です。
```
=SQRT(2*D2*S2/H2)
```
D2に年間需要量、S2に発注費用、H2に在庫維持費用を入力すれば、1秒でEOQが算出されます。数値が変わっても自動で再計算されるため、実務でも使いやすい仕組みです。
経済的発注量とは?計算方法やExcelでの求め方までわかりやすく解説 - マネーフォワード(Excel SQRT関数を使ったEOQ計算の実践手順とテンプレート)
EOQ公式の計算式が「なぜこの形になるのか」を理解すると、数字への納得感が深まります。ここでは計算式の背景にある考え方を整理します。
まず年間発注費用は、「1回あたりの発注費用(S)× 年間発注回数」で求まります。年間発注回数は「年間需要量(D)÷ 1回あたりの発注量(Q)」なので、
$$\text{年間発注費用} = S \times \frac{D}{Q}$$
次に年間在庫維持費用は、「平均在庫量 × 1個あたりの年間維持費用(H)」で求まります。EOQモデルでは在庫はQ個から始まり0個になるまで均等に消費されるため、平均在庫量はQ÷2になります。つまり、
$$\text{年間在庫維持費用} = \frac{Q}{2} \times H$$
ここが重要なポイントです。年間総費用が最小になるのは、「発注費用曲線」と「在庫費用曲線」が交差する点、すなわち両者が等しくなるときです。等式で表すと、
$$S \times \frac{D}{Q} = \frac{Q}{2} \times H$$
この式をQについて解くと、EOQ公式
$$Q = \sqrt{\frac{2 \times D \times S}{H}}$$
が導き出されます。つまり式の成り立ちそのものが、トレードオフを均衡させるための条件を表しているわけです。
「在庫維持費用と発注費用が等しくなるとき」というのが原則です。これを理解しておくと、試験や実務でも計算式に迷わなくなります。
なお、在庫維持費用は「在庫単価(P)× 在庫費用率(i)」で表されることもあります。その場合、EOQ公式は
$$EOQ = \sqrt{\frac{2 \times S \times R}{P \times i}}$$
と書かれます(RはDと同義)。中小企業診断士試験ではこちらの表記が使われることが多いため、変数名の違いに注意が必要です。
経済的発注量(EOQ)の計算式の考え方・覚え方を徹底解説 - たかぴーブログ(発注費用と在庫費用の均衡点からEOQを導出する過程を図解・過去問付きで解説)
EOQ公式で「最適な発注量」が求まっても、実際の在庫管理には「いつ発注するか」という発注方式の選択も必要です。発注方式とEOQを組み合わせてはじめて、実務で機能する仕組みになります。
代表的な発注方式は大きく4種類あります。
EOQと最も相性が良いのは「定期・定量発注」と「不定期・定量発注(発注点方式)」の2つです。
たとえば1か月で100個の商品を使う場合を考えます。EOQが15個と計算されたなら、100÷15≒7回となり、1週間に約2回発注するスケジュールが合理的です。不定期・定量発注(発注点方式)を使う場合は、「発注点」も別途設定する必要があります。発注点の計算式は以下の通りです。
$$\text{発注点} = \text{平均出庫数量} \times \text{発注リードタイム} + \text{安全在庫数}$$
たとえば1日あたりの平均出庫数量が3.3個、リードタイムが3日なら発注点は3.3×3≒10個となります。この10個を下回ったタイミングでEOQに基づく15個を発注するという運用になります。EOQは量を決め、発注点はタイミングを決めるものだということです。
一方、「不定期・不定量発注」はそもそも在庫を最小限に保つための方式であり、EOQとは設計思想が異なります。発注のたびに量も時期も変わるため、EOQの恩恵を受けにくいです。
経済的発注量(EOQ)の計算方法と実用的な適用方法と注意点 - 在庫管理110番(4種類の発注方式それぞれへのEOQ適用方法を具体的な数字で解説)
EOQ公式は強力なツールですが、すべての場面に使えるわけではありません。これは必須の知識です。EOQが前提としている条件は次の3つです。
需要が安定していない商品には注意が必要です。 季節商品やトレンド品は月ごとの需要が大きく変わります。たとえば夏季に需要が3倍に増えるアイスクリームや、年末年始に集中する贈答品などは、EOQで計算した固定量では対応しきれません。需要変動が大きい商品に対してはDの値を定期的に見直すか、動的なモデルを採用する必要があります。
リードタイムへの対応には安全在庫が不可欠です。 EOQは「発注したらすぐ届く」という前提で計算されていますが、現実には発注から納品まで数日〜数週間かかります。この間に在庫が底をついて欠品が発生すると機会損失が生まれます。そこで安全在庫の設定が必要になります。安全在庫の計算式は以下の通りです。
$$\text{安全在庫} = \text{安全係数} \times \text{使用量の標準偏差} \times \sqrt{\text{発注リードタイム} + \text{発注間隔}}$$
安全在庫と発注点はセットで設定するのが実務の基本です。EOQが「いくら発注するか」を決め、安全在庫と発注点が「いつ発注するか」と「欠品を防ぐ最低量」を決める、という分業になります。
数量割引がある場合はEOQだけでは不十分です。 たとえば100個以上まとめて発注すると単価が10%割引になるケースでは、EOQが49個と計算されても、割引の恩恵を受けるために100個まとめて発注した方がトータルコストが低くなる可能性があります。このような場合は割引を考慮した拡張モデルで再計算が必要です。これだけ覚えておけばOKです。
一方、EOQ公式はExcelさえあれば簡単に計算できるという大きな利点があります。高価なシステムを導入しなくても、年間需要量・発注費用・在庫維持費用の3つのデータを集めればすぐに試算できます。過去の受発注データを参照しながら数値を入力し、まずは「現在の発注量がEOQと比べてどれくらいずれているか」を確認することが第一歩です。
EOQはあくまでも発注量の基準値として使うものです。現実のビジネスや家庭の収納管理では、この基準値を出発点として安全在庫・発注条件・予算との兼ね合いを加味して最終的な発注量を決めるというアプローチが最も実用的です。
経済的発注量とは?計算方法やExcelでの求め方までわかりやすく解説 - マネーフォワード(数量割引・需要変動・リードタイムへの対応など、EOQの注意点を公認会計士が監修して解説)