

送り速度を遅くするほど仕上がりが良くなるとは限らず、遅すぎると工具が早く摩耗します。
送り速度とは、工具(またはワーク)が1分間に何mm移動するかを表す数値です。単位は「mm/min」で、工作機械のプログラムでは「F値」として入力します。切削速度が「刃先の外周が削るスピード」なのに対し、送り速度は「工具が横方向に進むスピード」と覚えておけば混乱しません。
計算式は加工方法によって異なります。まず、旋削加工(旋盤)の場合は次の式で求めます。
🔢 旋削の送り速度
F(mm/min)= f(mm/rev)× n(rpm)
f:1回転あたりの送り量 n:主軸回転数
例えば、送り量 f=0.2mm/rev、主軸回転数 n=500rpmなら。
> F = 0.2 × 500 = 100 mm/min
次に、フライス加工(マシニングセンタ)の場合は、刃数も変数に加わります。
🔢 フライスのテーブル送り速度
Vf(mm/min)= fz(mm/tooth)× z(刃数)× n(rpm)
fz:1刃あたりの送り量 z:刃数 n:主軸回転数
具体例として、1刃あたりの送り量 fz=0.2mm/tooth、刃数 z=8、主軸回転数 n=600rpmのフライス加工では。
> Vf = 0.2 × 8 × 600 = 960 mm/min
これはキーエンスが公開している計算例と一致します。つまり刃数が多いほど同じ回転数でもテーブル送り速度が速くなるということですね。
| 加工方法 | 計算式 | 主な変数 |
|---|---|---|
| 旋削(旋盤) | F = f × n | 1回転送り量・回転数 |
| フライス加工 | Vf = fz × z × n | 1刃送り量・刃数・回転数 |
| CNCルーター | F = チップロード × 刃数 × n | チップロード・刃数・回転数 |
計算式は公式を覚えるだけではなく、変数を正確に把握することが大切です。
参考:旋削・フライス加工の計算式と計算例が整理されている三菱マテリアルの技術情報ページ
三菱マテリアル フライス加工計算式
収納棚をDIYするとき、CNCルーターを使って板材に溝や切り抜きを入れる場面が増えています。このとき「なんとなく速度を設定した」では、工具が折れたり焦げたりする原因になります。適切な送り速度の計算手順を知っておけば、無駄な出費を防げます。
CNCルーターの送り速度計算では「チップロード」という概念が核心です。チップロードとは、刃が1回に削り取る素材の量(mm)で、これを基準に送り速度を逆算します。
🔢 CNCルーターの送り速度
F = チップロード × 刃数 × 主軸回転数(rpm)
例:直径6mmの2刃エンドミル、チップロード0.05mm、回転数18,000rpmの場合
F = 0.05 × 2 × 18,000 = 1,800 mm/min
合板(12mm厚)を棚板として使う場合、一般的なチップロードの目安は以下のとおりです。
1パスの切り込み深さ(ステップダウン)は、ビット径の1/2以下を目安にするのが基本です。6mmビットなら1パス最大3mm程度に設定します。収納棚用の12mm合板を加工する場合は、3mmずつ4パスに分けてカットするイメージです。
また、チップが小さすぎると熱がこもりやすく、大きすぎると切削抵抗が増えます。加工後にビットに触れて「少し温かい」程度なら適切です。これは使えそうですね。
参考:CNCルーターの送り速度と回転速度の基本計算を図解で解説
Makezine Japan|CNCルーター加工の基本:ツールパスと送り速度
送り速度の計算値は、あくまでも「出発点」です。実際に加工してみたときの状態を見て微調整するのが正しい手順になります。
送り速度が速すぎる場合、まず加工面に「波打ち」や「ビビり」が発生します。工具への負荷が増して刃先がたわみ、振動が加工面に転写されるためです。さらに、チッピング(刃先の欠け)が起き、最悪の場合はビット折損につながります。収納棚DIYで6mmのエンドミルが折れると、材料に刺さったままになることもあるため、注意が必要です。
送り速度が遅すぎる場合も問題があります。刃先が素材の同じ箇所を何度もこすり続け、「摩擦熱」が異常に高まります。木材の場合は焦げが発生し、金属の場合は工具の逃げ面摩耗が急速に進みます。三菱マテリアルの技術データによれば、送りを極端に小さくすると逃げ面摩耗が大きくなり、工具寿命が極端に短くなることが確認されています。遅くすれば安全というわけではありません。
症状別に速度調整の方向を整理するとこうなります。
| 症状 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 加工面が波打つ・ビビる | 送り速度が速すぎる | 送り速度を10〜20%下げる |
| 工具・材料が焦げる | 送り速度が遅すぎる/回転数が高すぎる | 送り速度を上げるか回転数を下げる |
| チッピング・刃折れ | 切り込み量過大・送りが速すぎる | 切り込み量を減らし送りを下げる |
| 仕上がり面が荒い | 送り量が大きすぎる | 1刃あたりの送り量を小さくする |
加工中の音にも注目することが大切です。滑らかな切削音であれば設定は概ね適切で、ギャギャという金属的な異音や、バキッという音は即座に止めるサインです。送り速度の調整は10〜20%単位で少しずつ行うのが原則です。
参考:切削条件の変化が工具損傷に与える影響を具体的に解説
三菱マテリアル|旋削加工の切削条件による影響
収納棚を自作するとき、板の切断面や溝の滑らかさは見た目にも手触りにも直結します。送り速度と仕上がり面粗さは密接に関係しており、この関係を理解しているかどうかで、ヤスリがけの手間が大きく変わります。
理論的な表面粗さ(Ra)は、フライス加工においておおよそ次の関係で表されます。
📏 フライス加工の理論面粗さ(Ra)の近似式
Ra ≈ Vf² ÷ (8 × z × n)
Vf:送り速度 z:刃数 n:回転数
→ 送り速度を2倍にすると、理論面粗さは約4倍に悪化します。
送り速度の二乗で面粗さが変化するという点が重要です。つまり、仕上がりをきれいにしたいときは、送り速度を少し下げるだけで効果が大きいということですね。
ただし、前のセクションで述べたように送り速度を下げすぎると熱摩耗が起きるため、現実的な対応としては「刃数の多い工具に変える」か「ワイパーインサート(広いコーナRを持つ刃)を使う」のが有効です。棚板の切断面に鉋(かんな)がけのような滑らかさが必要なら、仕上げパスだけ送り速度を通常の50〜60%に落とすという手法も効果的です。
表面粗さの指標として現場でよく使われる「Ra(算術平均粗さ)」は、値が小さいほど滑らかです。DIYレベルでは以下を目安にするとよいでしょう。
参考:送り速度と面粗さの関係・ワイパーインサートなどの対策を網羅した解説
日興精機|切削加工の送り速度と表面粗さの関係と計算方法
送り速度の計算式を正しく理解していても、実際の収納DIY加工では「計算通りにやったのになぜか上手くいかない」という場面があります。この失敗の多くは、計算式の外側にある見落としポイントが原因です。
ケース①:回転数の設定を取り違える
CNCルーターの設定画面では、「スピンドル回転数」を設定する欄が rpm 表示のこともあれば、「速度レベル1〜10」のような相対表示のこともあります。送り速度の計算式に使う「n」は必ず「rpm(実際の毎分回転数)」でなければなりません。レベル5が何rpmなのかを機械の仕様書で確認せずに計算すると、送り速度が2〜3倍ズレることがあります。
ケース②:材料の固定不足による振動
送り速度の計算が正しくても、棚板の固定がしっかりしていないと、加工中に素材がびびって仕上がりが乱れます。特に薄い合板(9mm以下)や長尺材では、両端をクランプするだけでなく中間部でも押さえるのが原則です。
ケース③:使用工具のコーティングやスペックを無視した計算
超硬コーティングビット(TiAlN等)とハイスビットでは、推奨切削速度が大きく異なります。超硬工具は高速切削向けで切削速度100m/min以上が一般的ですが、ハイス(ハイスピードスチール)では20〜40m/minが標準域です。送り速度の計算の前提となる「切削速度 Vc」がズレていれば、回転数も送り速度も全部ズレます。切削速度から回転数を逆算するには。
🔢 回転数の計算式
n(rpm)= Vc(m/min)× 1000 ÷ (π × D(mm))
例:直径6mm超硬ビット、Vc=50m/minの場合
n = 50,000 ÷ (3.14 × 6) ≒ 2,653 rpm
ケース④:1パスの切り込み深さを送り速度と独立して設定しない
送り速度を正しく計算していても、1パスの切り込み深さ(ステップダウン)が大きすぎると切削抵抗が設計以上に増えます。これが工具折損や加工不良の本当の原因になっていることが多いです。切り込み深さを増やすときは、送り速度を比例して下げる調整が必要です。
これらのトラブルは、加工する素材や工具のスペックをメモにまとめてから計算に臨むことで、ほとんど防ぐことができます。送り速度の計算と切り込み深さの設定は必ずセットで確認が条件です。
参考:切削速度・回転数・送り速度の求め方を実例とともに掲載

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