

フリーアドレス経験者の約8割が「デスクキャビネットがあった方がいい」と回答しており、収納なしでは快適に働けないことがわかっています。
フリーロケーションオフィス(フリーアドレスオフィス)とは、従業員が毎日自由に座席を選んで働くワークスタイルのことです。ICTやモバイル端末の普及、コロナ禍によるリモートワーク拡大が重なって、多くの企業が導入を進めています。オフィスの座席数を在籍人数より少なく設定できるため、スペースコストの削減にも直結します。
従来の固定席オフィスでは、1人ひとりに専用デスクと袖机(引き出し付きのワゴン)が与えられていました。書類もカバンも文房具も、引き出しの中にそのまま収納しておけばよかったのです。しかしフリーロケーション化した途端、その引き出しは消えます。
つまり収納の仕組みをゼロから設計し直す必要があります。
フリーロケーションオフィス経験者を対象にした調査(プラス株式会社ファニチャーカンパニー、2024年7月・500名対象)では、経験者の約8割が「デスクキャビネット(引き出し)があった方が良い」と回答しました。引き出しがない不便さを、多くの人が実感として感じているわけです。さらに、フリーアドレス経験者は未経験者よりも「個人用ロッカーが必要」と感じている割合が10ポイント以上高いというデータも示されています。
収納環境を整えずに見切り発車すると、「荷物を床に直置きする」「使っていないロッカーや空きスペースに私物を乱雑に置く」といった状態が生まれます。その結果、整理整頓が崩れてオフィス全体の美観と生産性が一気に低下します。それが基本です。
プラス株式会社「職場の居心地WEB調査 第18回:フリアドオフィスの収納問題」(500名のアンケートデータ)
フリーロケーションオフィスを導入した企業が最初につまずくのが、収納にまつわる課題です。よくある失敗を事前に知っておくだけで、かなりのリスクを回避できます。
① ロッカーの容量不足
固定席では引き出し・袖机・デスク上の棚と、1人あたり複数の収納スペースがありました。それがパーソナルロッカー1台分に集約されるため、容量が足りなくなりやすいです。特に冬場は厚手のコートがロッカーを占領し、「コートを入れると他のものが何も入らない」という声が多く聞かれます。ロッカーの大きさと自分の持ち物量が合っているか、導入前に必ずチェックが必要です。
② セキュリティリスクの増大
固定席であれば「自分の席に置いたまま」でも本人が戻れば問題ありませんでした。フリーロケーション環境では、誰が着席しても違和感がないため、机の上に重要書類や貴重品を置いたままにすると盗難・紛失のリスクが一気に高まります。施錠できるロッカーの設置が必須です。
③ 移動のたびに発生する荷物の手間
席を移動するたびにPC・書類・文房具・カバンをまとめて持ち歩くのは、想像以上に手間です。この手間が積み重なると「毎日しんどい」と感じ、フリーロケーションのメリットを享受できなくなります。移動がラクになるツール選びが鍵になります。
④ 整理整頓の崩壊
収納スペースが不足すると、人は空いている場所に荷物を置き始めます。バックヤードの棚・空き席の上・廊下の隅、と徐々にオフィス全体が散らかっていきます。いいことですね、とは言えない状況です。「どこに何があるかわからない」という状態が続くと、探し物に費やす時間が増え生産性にも直接響いてきます。
これら4つを事前に把握しておくことが条件です。問題が起きてから対応するのでは遅く、導入設計の段階で収納の仕組みを作っておくことが重要です。
フリーロケーションオフィスの収納の核となるのが、1人1台割り当てられるパーソナルロッカーです。選び方を間違えると運用が崩れるため、以下の3点を確認しながら検討しましょう。
サイズ・収納量の確認
標準的なパーソナルロッカーの幅は約30〜38cmほど(一般的なA4ノートPCの横幅、約35cmと同程度)です。コートや大型バッグをロッカーに入れる設計にする場合は、庫内の縦幅が少なくとも60cm以上あるタイプを選ぶ必要があります。ビジネスバッグや厚手のコートが入らないと、別のスペースを探すことになり収納問題が再発します。コクヨやコクヨファニチャー、内田洋行のiNON(イノン)シリーズなど、オフィス向けに設計されたパーソナルロッカーの場合は、庫内にPCを縦置きできる仕切り板が付いているものも多く、スペースを効率よく使えます。
鍵の種類とセキュリティ
施錠タイプには「シリンダー錠(従来の鍵タイプ)」「ダイヤル錠」「プッシュオートロック」などがあります。鍵の紛失リスクを避けたい運営側にとって、鍵不要のダイヤル錠やプッシュオートロックタイプが管理しやすく人気です。セキュリティと運用の手間のバランスで選ぶのが原則です。
充電機能と郵便受け穴(メール穴)
近年のパーソナルロッカーは庫内でPCやスマートフォンを充電できる電源付きタイプが増えています。退社後にロッカー内で充電しておけば、翌朝すぐに使い始められるので非常に便利です。また、在席していない時間に届いた書類を投函できる「メール穴」付きタイプも運用上の手間を大きく減らします。これは使えそうです。
配置のポイント
ロッカーをどこに置くかも重要です。一般的には出入口付近・エントランス近く・部門ゾーンの境界に配置するのが動線上の理想です。株式会社アグレックスの事例では、パーソナルロッカーを1か所に集約したゾーンを設けることで、出社時のあいさつが自然に生まれるコミュニケーションスポットとしても機能しています(内田洋行オフィス事例より)。ヤマト インターナショナル株式会社では収納・ロッカーを背合わせに配置してエリアの仕切りとしても活用しており、スペース効率と収納の両立を実現しています。
内田洋行「フリーアドレスで収納の課題を解決する方法とは?」(導入事例つき実践ガイド)
パーソナルロッカーが個人の「基地」だとすれば、モバイルグッズは席への「移動手段」です。この2つをセットで揃えることで、フリーロケーションオフィスの収納問題の大半は解消できます。
モバイルバッグ(社内用持ち運びバッグ)
フリーロケーションオフィスでは、出社後にロッカーからその日必要なものを取り出し、着席する席まで持ち歩くことになります。この移動をストレスなく行うために専用の社内用バッグが役立ちます。選ぶ際のポイントは3つで、①ロッカーに収まるサイズか、②机の上で立てて使えるか(作業スペースの圧迫を防ぐ)、③肩掛けできるかどうかです。コクヨの「モバコ」のようなポーチタイプは机上で立てて使えるため、デスク上の省スペース収納としても機能します。
移動式ワゴン(モバイルワゴン)
書類量がある程度多い職種や、毎日の荷物が多い方には、移動式のワゴンが便利です。席のそばに移動させておき、一次置き場として使えます。ただしワゴンはデスク周りのスペースを使うため、スペースに余裕がある環境向きです。コクヨ GT(ジーティー)シリーズのように、一般的なワゴンよりコンパクトに設計された製品もあります。移動式ワゴンを選ぶ際は「足元をロックする機能」があるかを確認すると、移動中に転がって紛失するリスクを防げます。
バッグフック・カバンハンガー
モバイルバッグもワゴンも置けない状況では、デスクにカバンをぶら下げられるバッグフックが最低限の解決策になります。椅子の脚やデスクの天板下に取り付けるタイプがあり、カバンを床に直置きしなくて済むためオフィスの清潔感も保てます。カバンを地面に置きたくない場合のシンプルな対策として覚えておくだけで大丈夫です。
コクヨが公開している「フリーアドレスの荷物や収納に関するアイデア」のコラムには、各グッズの組み合わせ方や選定基準が詳しく紹介されています。
コクヨマーケティング「フリーアドレスで荷物の収納はどうする?事前にチェックしておきたいポイント」
どれだけ良いロッカーやモバイルグッズを揃えても、運用ルールが機能していなければ収納環境は必ず崩壊します。フリーロケーションオフィスで整理整頓を維持するための核となる考え方が「クリアデスク」です。
クリアデスクとは何か
クリアデスクとは、長時間の離席時や退勤時に机の上を空にするルールです。書類・PC・私物など一切の荷物を机上に残さない状態にします。フリーロケーションでは翌日違う人が同じ席に座ります。つまり「今日の自分の席が、明日は他人の席になる」わけです。クリアデスクが定着しないと席の取り合いが起きたり、前の使用者の荷物が邪魔で仕事が始められないという事態になります。
具体的なルールの作り方
机の上を空にするだけでなく、以下のルールもあわせて設定するとスムーズです。
- 退席時はPC・書類・私物をパーソナルロッカーにしまう
- カバンやコートは床置きNG・ハンガーラックやロッカーへ
- 文房具は共有の一括管理スペースから使い、持ち帰らない
- 月1回など定期的に「棚卸しデー」を設定して整理する機会を作る
ペーパーレス化と組み合わせる
フリーロケーション導入を機にペーパーレス化を進めることは、収納問題の根本的な解決策になります。書類をPDF化・クラウド管理に移行するだけで、物理的な収納スペースの需要が大幅に減ります。プラス株式会社の調査では、収納庫の利用頻度が低くなった理由として「ペーパーレス化・電子化が進んだ」と回答した人が57%にのぼっています。書庫や大型キャビネットが不要になると、そのスペースをパーソナルロッカーや共有スペースとして活用できます。
ペーパーレス化によって個人の収納物量が減れば、コンパクトなロッカーで十分な人が増え、全体の導線もすっきりします。これが収納問題解消の原則です。
共有文房具の一括管理
ハサミ、テープ、封筒、ホッチキスなどの備品は個人所有をやめ、オフィスの中央に共有の文房具ステーションを設けて一括管理します。株式会社ニチレイの事例では、複合機・ゴミ箱・冷蔵庫・文房具をまとめた「Office Kiosk」を設置したところ、偶発的なコミュニケーションスポットとしても機能するようになったと報告されています(内田洋行事例より)。収納の整理と人の交流が同時に生まれた好例です。いいことですね。
コクヨマーケティング「フリーアドレスは時代遅れ?廃止の理由と失敗を防ぐ9つの方法」(収納・クリアデスク運用まで詳しく解説)
ここまで紹介した定番の収納対策に加えて、「収納が得意な人の視点」から見ると、フリーロケーションオフィスにはさらに工夫できる余地があります。一般的な記事ではあまり触れられていない観点を3つ紹介します。
「一時置きゾーン」を意図的に設計する
繁忙期や締め切り前など、普段より書類が増える時期には一時的な収納スペースが必要になります。フリーアドレス経験者のアンケートでも「決算期の締め間際など、書類が増えて収納スペースが不足する」という声があがっています(プラス株式会社調査より)。通常時は収納に使わない「フレキシブルゾーン」をあらかじめオフィスに設けておくと、繁忙期の突発的な収納ニーズにも対応できます。棚やカートを常設しておくのが条件です。
ロッカーをゾーニングに活用する
パーソナルロッカーは収納だけの役割ではありません。高さのあるロッカーを背合わせに並べることで、オフィス内のゾーンを区切る「間仕切り」としても機能します。集中エリアとコミュニケーションエリアを自然に分けることができるうえ、壁が少ない広いフロアでも空間の区切りを作れます。家具費用の削減にもなるため、コスト面のメリットも見逃せないところです。
季節物の管理ルール
特に見落とされがちなのが、季節によって荷物量が大きく変わるという点です。冬はコート・マフラー・ブーツなど嵩張る荷物が増えます。個人ロッカーでは対応しきれないため、エントランス近くに「季節物専用の多人数ロッカー」またはハンガーラックを設置しておくと荷物が分散して収まりやすくなります。夏は逆に荷物が減るため、季節ごとにロッカーの使い方ルールを見直すと収納効率がキープできます。
ラベリングと「仮の指定席的なゾーン」の両立
完全なランダム着席ではなく、チームやプロジェクト単位でゾーンを設けるハイブリッド型のフリーアドレスを採用する企業も増えています。この場合、収納もそのゾーンに対応したキャビネットや共有棚を置くことで、チームの書類をまとめて管理しやすくなります。完全フリーロケーションでも、収納ゾーンにわかりやすいラベリングを施すだけで「どこに何があるか」の混乱を大きく減らせます。ラベリングだけ覚えておけばOKです。
こうした細かい設計の積み重ねが、フリーロケーションオフィスを長く快適に運用できるかどうかを左右します。収納の得意な人ほど「仕組みで維持する」という発想を持っています。きれいな状態がデフォルトになる設計こそが、フリーロケーションオフィス収納の最終ゴールです。