

「是正処置をやった」なのに、同じ問題が3か月後にまた起きて始末書を2枚書く羽目になります。
是正処置とは、「不適合の原因を除去し、再発を防止するための処置」を指します。これはJIS Q 9000:2015「品質マネジメントシステム−基本及び用語」でも明確に定義されている言葉です。つまり、問題が起きたときに「とりあえずその場を直す」だけでは是正処置にはならない、ということです。
多くの人が混同しがちな言葉に「修正処置(修正)」があります。修正とは、発生した不適合を直接直す行為です。例えば製品に傷が入った場合、その傷を削って磨き直すことが「修正」にあたります。一方で是正処置は、「なぜ傷が入ったのか」という原因を突きとめ、その原因を除去して二度と同じことが起きないようにする活動です。
この違いを別の言い方で整理すると、修正は「今の火を消すこと」、是正処置は「火が出ないような仕組みを作ること」です。
| 項目 | 修正(修正処置) | 是正処置 |
|---|---|---|
| 対象 | 発生した不適合そのもの | 不適合が起きた「原因」 |
| 目的 | 適合した状態に戻す(応急) | 再発を根本的に防止する(恒久) |
| 時間軸 | 今の問題を処理する | 将来の再発を防ぐ |
| ISO上の扱い | 「修正」(Correction) | 「是正処置」(Corrective Action) |
ISOや品質管理の現場では、修正だけでは不十分と判断されます。なぜなら修正処置は原因がそのまま残った状態であり、同じ不適合が再発するリスクを消せないからです。この区別が条件です。
また、是正処置と混同されやすいものとしてもうひとつ「予防処置」があります。是正処置が「すでに起きた問題」に対する対応であるのに対し、予防処置は「まだ起きていない問題のリスクを未然に防ぐ」活動です。現在のISO 9001:2015では「予防処置」という言葉は規格から削除されていますが、「リスク及び機会への対応」という概念の中に実質的に組み込まれています。意外ですね。
つまり是正処置が基本です。問題が起きたら「直す」だけでなく「原因を断つ」という考え方を、まず押さえておきましょう。
参考:JIS Q 9000:2015の用語定義と是正処置の位置づけについての詳細はISOPROの解説が参考になります。
是正処置を正しく使うには、そもそも「不適合」とは何かを理解しておく必要があります。
不適合とは、組織の活動に関わる要求事項を満たしていない状態のことです。この「要求事項」という言葉の範囲が意外と広く、具体的には以下の4つが含まれます。
例えば、作業手順書に「2名でダブルチェックする」と書いてあるのに1人で完了させた場合、それ自体が「不適合」です。製品のキズや出荷ミスはイメージしやすいですが、手順から外れた行為そのものも不適合に含まれる点を押さえてください。
是正処置が必要かどうかは、不適合の影響度を評価して判断します。軽微な不適合なら修正だけでよいこともありますが、再発の恐れがある場合や影響範囲が広い場合は原則として是正処置が必要です。
また、是正処置は内部監査や外部審査の際に指摘された内容だけが対象ではありません。日常業務の中で現場が気づいた問題、顧客からのクレーム、ヒヤリハット情報も、すべて是正処置の起点になりえます。これは必須の認識です。
収納や物の管理において、「定位置が決まっていないために毎回探す時間が発生している」という状態も、組織が定めたルール(5Sの「整頓」基準など)に対する不適合と見なされます。職場の収納環境が整っていないこと自体が是正対象になり得る、という視点は意外と見落とされがちです。
是正処置の核心は「根本原因の特定」です。ここが曖昧なまま進めると、どれだけ丁寧に報告書を書いても再発を防ぐことができません。
根本原因の分析によく使われる手法は「なぜなぜ分析」です。不適合が発生した原因に対して「なぜ?」を最低5回繰り返し、表面的な原因ではなくシステムや仕組み自体の問題点までたどり着く手法です。トヨタ自動車の現場改善活動で体系化され、現在は品質管理・安全管理・医療など幅広い分野で使われています。
以下に具体的な例を示します。
「積みすぎないように注意する」という対策は修正であり、是正処置ではありません。「5S担当の責任分担を文書化し、定期チェックを仕組みとして組み込む」が根本原因に対する是正処置になります。根本原因に注意すれば大丈夫です。
なお、なぜなぜ分析と並んで使われる「特性要因図(魚の骨図)」は、複数の原因が絡み合っている場合に整理しやすい手法です。Man(人)、Machine(機械)、Method(方法)、Material(材料)の4M視点から、原因候補を広く洗い出してから絞り込む使い方が一般的です。
また、根本原因を分析するうえで重要なのが「発生原因」と「流出原因」の2つを区別することです。
この2つをセットで分析し、それぞれに対策を打つことが、ISO 9001で求められる是正処置の完成形です。発生を防ぐ対策と流出を防ぐ対策が条件です。
参考:根本原因分析(RCA)の考え方とISO 9001の関係について詳しく解説されています。
効果的な是正処置とは?火消しの繰り返しに終止符を打とう|guardnovate
是正処置を実際に進めるための手順は、以下の6ステップが基本です。
是正処置報告書(CAR:Corrective Action Report)には、以下の項目を含めるのが一般的です。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 発行日・作成者 | 〇年〇月〇日、品質管理部 田中 |
| 不適合の内容 | 発生日・事象・場所・関係する規格・手順書 |
| 修正処置内容 | 不適合品の隔離・廃棄・再加工など応急対応 |
| 根本原因 | なぜなぜ分析の結果から特定した真の原因 |
| 再発防止策 | 仕組み・手順書・教育内容の変更内容 |
| 実施担当者・期限 | 山田係長、〇月〇日まで完了 |
| 有効性の確認結果 | 3か月間の再発なし。内部監査でも確認済み |
報告書作成時によくある失敗が「根本原因の欄に表面的な事象を書いてしまう」ことです。例えば「担当者の注意が不足していた」という記述では、なぜ注意が足りなかったのかの掘り下げが不十分です。「作業手順書に確認項目の記載がなく、属人的な判断に委ねられていた」のように仕組みの問題として書くことが重要です。
また、対策は「誰が、いつまでに、どのように行動するか」を具体的に明示することが条件です。「今後は気をつける」という記述は審査では無効と判断されます。これは原則です。
是正処置報告書は、ISO外部審査でも必ずチェックされる文書です。ひな型(テンプレート)を社内で標準化しておくと、記載漏れを防ぎやすくなります。Excelや専用のQMSソフトで管理している企業が多く、最近はクラウド型の品質管理ツール(例:蔵衛門やQastなど)でCAR管理を効率化する事例も増えています。
参考:ISO 9001の是正処置報告書の作り方と、具体的な記入例が掲載されています。
是正処置が本当に機能しているかどうかを確かめる「有効性の確認」は、ISO 9001:2015の10.2.1(d)で明確に要求されています。対策をやって終わり、では不十分です。
有効性の定義はISO 9000:2015において「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度」とされています。つまり「同じ不適合が再発していないかどうか」が最もシンプルな判断基準です。
確認の主な方法には以下があります。
有効性が不十分と判断された場合は、原因分析のステップに戻って再検討します。「対策したつもり」で終わらせないことが大事ですね。
ここで多くの企業が見落としがちな概念が「水平展開」です。是正処置は、問題が発生した1か所だけでなく、類似のプロセスや他の部門・工場・製品でも同じ原因が潜んでいないかを確認して対策を広げる活動を指します。ISO 9001の要求事項(10.2.1 b)3)にも「類似の不適合の有無、またはそれが発生する可能性を明確にすること」と明記されています。
例えば、A部門の棚の収納ルールが原因で物の紛失が起きた場合、是正処置はA部門の棚のルールを見直すだけでなく、「B部門・C部門でも同じルールの曖昧さがないか」を確認し、必要に応じて全部門に展開します。これが水平展開です。
水平展開を正しく実施している企業は、同じ系統の不適合が別の場所で再発するリスクを大幅に下げることができます。逆に水平展開が抜け落ちると、根本原因を一部しか対処できず、再発が続くループにはまりやすくなります。
また、是正処置プロセスはマネジメントレビュー(経営層によるレビュー会議)の場でも報告・評価することが求められます。現場任せの処置にせず、トップマネジメントが全社的な品質状況を把握することが、継続的改善の文化を育てる土台になります。これがISO運用の大きな目的のひとつです。
是正処置を形だけで終わらせず、水平展開と有効性確認まで一体で回すことで、組織全体の「不適合に強い仕組み」が初めて完成します。つまり再発ゼロに向けた活動が是正処置の本当の意味です。
参考:是正処置の有効性の判断基準と評価の考え方について、審査機関の視点から解説されています。
是正処置の有効性レビュー|ビューローベリタスジャパン株式会社