

JIS S1200の衝撃試験をクリアした収納家具でも、棚板に耐荷重の表示がなければ安全とは言えません。
収納家具の「衝撃試験 JIS」というと、難しく感じるかもしれません。しかし内容を一度理解すると、棚の選び方が根本から変わります。
「JIS S1200」は、正式名称を「家具−収納ユニット−強度及び耐久性試験方法」といい、日本産業規格(旧称:日本工業規格)に基づいて制定された試験規格です。戸棚・飾り棚・本棚などの収納家具や、壁に取り付けるキャビネットなどを対象に、強度と耐久性を評価するための「方法」を定めています。
ここで重要なのが「方法だけを定めている」という点です。つまり、この規格は「○○Nの力に耐えなければならない」という合否基準そのものではなく、どのように力を加えて試験するかの手順書に相当します。
試験の対象は大きく2つに分かれます。「非可動部分」と「可動部分」です。非可動部分の試験には、棚板のたわみ試験・棚板保持試験・棚板支持具の強度試験・構造及び骨組の強度試験などがあります。可動部分の試験には、開き戸の耐久性試験・引き出しの耐久性試験・急速開閉試験・フラップの落下試験などが含まれます。これが基本です。
試験中は温度20℃±5℃・湿度65%±20%という室内環境で実施することが定められています。また、試験開始前には必ず製品を目視検査し、既存の欠陥を記録しておくことで「試験による損傷との区別」を明確にします。正確な環境と手順が条件です。
JIS S1200:2012 家具−収納ユニット−強度及び耐久性試験方法(日本産業規格の閲覧)
JIS S1200の衝撃試験で特に注目すべきが「鋼製衝撃板(こうせいしょうげきばん)」を使った試験です。意外に知られていないポイントですね。
鋼製衝撃板とは、金属製の重りで、打撃面にゴムを貼り付けたものです。この衝撃板を棚板や棚板支持具に打ち当てることで、実際の使用中に起こりうる「物の落下」「誤った使い方」「予期せぬ衝撃」を再現します。JIS S1033(オフィス用収納家具)の規定では、棚板のたわみ試験と組み合わせて「1dm²(10cm×10cm)あたり1.5kgの荷重の半分のおもりを棚板に均一に載せた状態」で、さらに1.7kgの鋼製衝撃板を当てる試験が行われます。これが条件です。
このとき、棚板のたわみ率の合格基準は「0.5%以下」と定められています。支持間距離が600mmの棚板であれば、たわみは3mm以下に収まらなければなりません。A4サイズの紙の短辺は約21cmですから、600mmというのはほぼ定規2本分の長さです。実際に使っている棚でこの長さを超えていれば、重量物を置く際には特に注意が必要です。
また、棚板支持具の強度試験は「全ての棚板支持具に対して実施しなければならない」と規定されています。1カ所だけ合格しても全体を合格とは見なさないのです。つまり一箇所での試験では不十分ということですね。家庭でよく使われる「差し込み式の棚受けピン」が複数本ある場合、すべての位置で同等の強度が求められることになります。
棚板のたわみ試験(JIS S 1200)の目的・試験方法・判定基準を解説(ボーケン品質評価機構)
収納家具のなかでも毎日触れる「扉」と「引き出し」には、耐久性の試験が厳しく設けられています。
開き戸の耐久性試験では、それぞれ1.0kgの2つのおもりを開き戸の両側に取り付けた状態で、1分間に最大6サイクルの速度で繰り返し開閉します。JIS S1033(オフィス用収納家具)のレベル2では、この操作を20,000サイクル繰り返して、破損・緩み・機能に影響する変形がないことが求められます。20,000回というのは、1日5回開閉しても約11年分に相当する回数です。これは使えそうです。
引き出しの耐久性試験では、引き出しに規定の荷重を載せた状態で、1分間に6〜15サイクルの速度で開閉を繰り返します。ファイリングキャビネットなどのファイル引き出しの場合は40,000サイクル、一般的な引き出しではレベルに応じたサイクル数が適用されます。引き出しは3分の1以上が収納ユニットの内部に残る位置まで引いた状態で試験することも定められています。これが原則です。
さらに「引き出しの急速開閉試験」という項目もあります。これは通常の使用ではなく、勢いよく引き出したり押し込んだりする「乱暴な使用」を想定したものです。日常的にありがちな動作ですが、この試験がクリアされているかどうかで製品の信頼性に大きな差が出ます。
引出しの耐久性試験(JIS S 1200)の詳細と判定基準(ボーケン品質評価機構)
ここでひとつ、多くの方が見落としている重要な事実があります。
JIS S1200は「試験方法だけを規定するものであり、要求性能は規定しない」と明記されています。つまり、この規格は「どのように試験するか」を定めたものであって、「最低限これだけの強度がなければならない」という絶対的な合格基準は含んでいないのです。驚きますね。
では、どこで合否の基準が決まるかというと、別途定められた「製品規格」の側になります。たとえばオフィス用収納家具にはJIS S1033が、住宅用収納間仕切り構成材にはJIS A4414が存在し、それぞれが「試験方法はJIS S1200に従う」と引用しつつ、独自の「性能要件」を設けています。JIS S1033では先ほど紹介したとおり「たわみ率0.5%以下」などの基準が定められています。性能基準はこちらが条件です。
これが何を意味するかというと、「JIS S1200で試験した」と書いてあるだけでは、必ずしも特定の強度を満たしているとは言い切れないということです。重要な判断ポイントになります。収納家具を選ぶ際には、「JIS S1200に基づいて試験した」という情報とあわせて、「どの製品規格に適合しているか」「たわみ率や耐荷重の数値はいくつか」を確認することが大切です。
| 確認すべき情報 | 意味 | どこで確認できるか |
|---|---|---|
| 「JIS S1200による試験」の記載 | 試験方法の根拠 | カタログ・取扱説明書 |
| 適合する製品規格(JIS S1033など) | 合否の基準 | カタログ・JISマーク認証証明書 |
| たわみ率・耐荷重の数値 | 実際の強度の目安 | メーカーの仕様書・製品ページ |
オフィス家具の製品安全基準ガイドライン(日本オフィス家具協会):JIS試験と要求性能の関係を詳しく解説
ここまで試験の中身を理解したところで、実際の収納家具選びにどう活かすかを整理します。
まず確認したいのが、棚板の耐荷重表示です。棚板面積1dm²(10cm角、ハガキの半分ほどの面積)あたりの荷重がレベル1〜3で設定されており、レベル1が1kg、レベル2が1.5kg、レベル3が2kgとなっています。たとえば30cm×60cmの棚板(面積18dm²)でレベル2なら、27kgまで均等に載せられる計算です。この数字だけ覚えておけばOKです。ただし、これはあくまでも「均等に分散した荷重」での数値です。一カ所に集中させると局所的なたわみが発生するため、重量物は複数個所に分散させるのが原則です。
次に、引き出しの底板外れ試験と二重引き出し防止装置に注目してください。書類や衣類を入れた引き出しが引き出したはずみで底が抜けたり、複数の引き出しが同時に開いて家具ごと倒れるリスクを減らすための試験です。特に「二重引き出し防止装置」は一般にはあまり知られていない機能ですが、重心が高くなりやすい収納家具では転倒防止に大きく貢献します。これは必須の確認ポイントです。
家具自体の耐衝撃性が高くても、設置方法が不適切では意味がありません。JIS S1201(収納ユニットの安定性試験)では、100Nの垂直力を加えたときに転倒しないことを求めています。100Nとは約10kg分の力で、小学校低学年の子どもが勢いよく寄りかかった程度の荷重です。壁付け固定や転倒防止ベルトの使用と組み合わせることで、JIS基準以上の安全性を確保できます。
最後に、「JIS S1200に基づいた試験結果は試験した製品についてだけ有効」という規格の原則も覚えておきましょう。同じシリーズの別サイズや別グレードは、個別に試験されていない限り、同等の性能が保証されているわけではないのです。購入する型番ごとに仕様を確認するのが、安全な収納家具選びの基本姿勢です。
開き戸の耐久性試験(JIS S 1200)の試験方法と判定基準(ボーケン品質評価機構)