

制振材を全面に貼るほど、燃費が落ちて修理代も上がります。
制振材とは何をしているのか、まずここから整理しましょう。
車体の鉄板は、走行中にタイヤと路面の摩擦から生まれた振動を拾い、太鼓のように「共振」します。この共振が、車内に伝わるロードノイズやビビリ音の主な正体です。制振材はこの共振エネルギーを熱エネルギーに変換することで、鉄板の振動そのものを弱める働きをします。つまり音が出る前の段階を抑える、いわば「根本対策」です。
制振材の主原料は、アスファルトを基材としたシート状の粘弾性樹脂や、ブチルゴムとアルミシートの複合体です。これを鉄板に直接圧着することで、鉄板と一体化した制振層が生まれます。日本特殊塗料のように自動車メーカーに制振材を供給しているメーカーも存在しており、実は新車にも出荷段階から一定量の制振材が使用されています。
制振材によって期待できる主な効果は次のとおりです。
- ロードノイズの低減:タイヤの回転と路面の摩擦によって車体に伝わる振動を抑え、走行中の「ゴー」「ザー」というノイズを和らげます。特に60〜80km/h走行時に体感しやすい効果です。
- スピーカー音質の向上:ドアのアウターパネルに制振材を貼ることで、スピーカーが出す音の背面波が鉄板で共振するのを防ぎ、低音域(ベース・ドラム)がクリアに聞こえるようになります。ドアに制振材が全体の約70%カバーできれば、低音の量感が大きく改善するとされています。
- ビビリ音の除去:内張りパネルや鉄板のパーツが共振して発生するカタカタ音・ビリビリ音を抑制します。
- 雨音・風切り音の軽減:ルーフに施工すると、雨粒が屋根を叩く音が著しく小さくなります。軽自動車のように鉄板が薄い車種では特に効果が大きいです。
ただし、ここで重要な前提があります。制振材・吸音材・遮音材はそれぞれ異なる役割を持っており、この3種を正しく使い分けないと期待した効果が出ません。制振は「振動を抑える」、吸音は「音の響きを吸収する」、遮音は「音を通さない」という働きです。制振材だけを大量に貼っても、吸音・遮音の効果は得られないということですね。
参考:制振材の原理と車体への使用方法について詳しく解説されています。
制振材はどこに貼るかで、体感できる効果がまったく変わってきます。
ドア(アウター・インナーパネル)は、デッドニングの定番中の定番です。スピーカーが装着されているドアは「スピーカーボックスの壁」としての役割を担っており、鉄板が薄いと音が共振して「バコバコ」と鳴ります。ドアのアウターパネル(外側の鉄板)に制振材を貼ることで鉄板を補強し、スピーカーの振動に負けない壁を作れます。スピーカー背面と、スピーカーに近いドアの前半部分を中心に制振材を貼り付けるのが基本です。
フロア(床)は、ロードノイズ対策の最前線です。タイヤから伝わる振動が最も集中する場所のため、フロア用の制振材は特に厚みがあり密度も高く作られています。シートやカーペットをすべて外す必要があるため施工は大仕事になりますが、ロードノイズに悩む方には確実に効果を実感しやすい箇所です。
ルーフ(天井)は、見落とされやすい施工場所です。乗員の耳元に最も近い面が天井であることを考えると、静音効果は体感しやすい場所といえます。雨音対策としても非常に有効で、軽自動車・軽バンなどの薄い鉄板を持つ車両では施工効果が大きく出ます。注意点として、天井への制振材は重力に逆らって貼る必要があるため、厚みがありすぎる製品は剥がれやすくなります。ドア用の薄めの制振材を選ぶのが原則です。
タイヤハウス(ホイールハウス)は、ロードノイズの発生源に最も近い場所です。タイヤハウスカバーを外した内側の鉄板に制振材を施工することで、タイヤの音が直接車内に伝わるのを大幅に遮断できます。専門店でのタイヤハウスデッドニング(国産車4カ所)の施工費用は15万円前後が目安になっており、それだけ効果への評価が高い施工場所です。
これは使えそうです。場所ごとに施工優先度を決めておくと、予算の無駄なく最大効果が出せます。
参考:デッドニングの施工場所ごとの効果と手順が分かりやすくまとめられています。
カービューティーアイアイシー「デッドニングとは?効果やメリットを徹底解説」
「多く貼るほど効果が上がる」と思っている方が多いですが、これは正しくありません。
ハイエースやNV350キャラバンでガチガチにデッドニングを施工した実例では、制振材だけで10.4kg、吸音材・防音断熱材なども合わせると合計で約20kgの車重増加になったという記録があります。さらに全面を徹底的に施工すると、同サイズの車両では30kgに達することもあります。これはほぼ「成人男性の上半身分」に相当する重さです。
燃費への影響はどうでしょうか? 一般的に車重が1kg増えると燃費が約0.05%悪化するといわれています。20kgの重量増であれば、燃費が1%悪化する計算になります。「たった1%」と思うかもしれませんが、リッター10kmの車が100km走るとき、20kg重い車は99kmしか走れません。毎月1,000km走る方なら、年間で約10L余分に燃料を消費することになります。
さらに見落とされがちなのが「板金修理時のコスト増」です。制振材が全面に貼られた車は、板金作業の際に剥がす手間が大きくかかります。板金店からは「制振材貼りまくりの車は作業がかなり大変」という声もあがっており、修理工賃が通常より高くなるケースがあります。
厳しいところですね。闇雲に貼ることは、静音効果の向上よりデメリットのほうが大きくなりかねません。
正しいアプローチは「共振が発生している場所にピンポイントで貼る」ことです。共振箇所を特定するには、停車時にドアパネルをゆっくり叩いてみて「カンカン」と硬い反響音がする場所を探すのが最も簡単な方法です。制振材を貼ると「コッコッ」という詰まった音に変わり、施工効果をその場で確認できます。
| 施工規模 | 重量増の目安 | 燃費悪化率 |
|---|---|---|
| ドア2枚(最小構成) | 約2〜3kg | 約0.1〜0.15% |
| フルデッドニング(普通車) | 約10〜20kg | 約0.5〜1% |
| ガチガチ施工(ハイエース等) | 約20〜30kg | 約1〜1.5% |
参考:実際のNV350キャラバンへのデッドニング施工での重量増・燃費悪化の計算が公開されています。
NV350キャラバンの情報ブログ「デッドニング・防音断熱施工による重量増加・燃費」
DIYで制振材を選ぶとき、種類が多すぎて迷うのは当然です。ここでは代表的な4種の特徴を整理します。
主要な制振材のスペックを比較すると以下のようになります。
| 製品名 | メーカー | 厚み | ドア2枚分(約6,750cm²)の材料費目安 |
|---|---|---|---|
| レアルシルト | 積水化学工業 | 1.9mm | 約15,180円 |
| レジェトレックス | 日東電工 | 1.5mm | 約4,750円 |
| STP Aero | STP | 2.3mm | 約9,180円 |
| AT-AQ450 | オーディオテクニカ | 2.3mm | 約7,570円 |
実際に4種を購入し騒音計で制振効果を比較した実験では、意外な結果が出ています。最も高価なレアルシルトが最高の制振効果を示した一方で、最安値のレジェトレックスがそれに肉薄する効果を発揮しました。厚みや密度がより大きいSTP AeroやAT-AQ450が上回らなかったのは確かに意外ですね。
各製品の特徴を整理すると、次のように使い分けができます。
- 🥇 レアルシルト(積水化学工業):制振効果トップクラス。ブチルを使わない樹脂系粘着剤のため作業性が非常によく、夏場でもベタつかない。サービスホールの穴埋めなど大面積に使いたい場合は費用がかさむ。
- 🥈 レジェトレックス(日東電工):コスパ最強。価格が圧倒的に安く、初心者のDIYデッドニングに最適。ただし剛性が低いため、大きな穴の塞ぎには向かない。
- 🔶 AT-AQ450(オーディオテクニカ):ブチルとアルミシートの2層構造で接着力が高い。エーモンブランドのデッドニングキット(エントリー価格2,000円台〜)に含まれる製品に近い素材で、初心者に扱いやすいセット品も多い。
- ⚠️ STP Aero:ブチルが非常に柔らかくベタつきやすく、実験では4種中最も制振効果が低い結果に。特に夏場の施工では扱いに注意が必要。
コスパを優先するならレジェトレックス、効果を最大化したいならレアルシルトが条件です。予算に応じて使い分けるのがベストです。
参考:制振材4種の実験比較・コスパランキングが詳しくまとめられています。
car-audioblog「デッドニング材はどれを選べばいい?レジェトレックス・レアルシルトなど比較」
車の制振材施工は、正しい手順と「やってはいけないこと」を事前に把握しておくことで失敗を防げます。
施工の基本的な流れは次のとおりです。まずドアの内張りを外し、アウターパネル(外側鉄板)の水気や油分を脱脂します。次に制振材を適切なサイズにカットし、共振しやすいアウターパネルに圧着します。この圧着作業は指だけでなくローラーを使うと密着度が高まります。その後インナーパネル(内側鉄板)にも制振材を貼り、最後に吸音材を重ねて施工完了です。
失敗しないために特に注意すべき点をまとめると、以下の3つが重要です。
- ❌ ドア内の排水穴を塞がない:ドアの底部には水を外に逃がすための排水穴があります。ここを制振材で塞ぐと水が溜まり、鉄板の腐食・錆の原因になります。底部から5cm程度は制振材を貼らないのが原則です。
- ❌ 吸音材をドア内部に詰めすぎない:「吸音材をたくさん詰めれば静かになる」は誤りです。ドア内部に吸音材を詰めすぎると、スピーカーから出る音まで吸収してしまい、音がこもって音質が著しく悪化します。
- ❌ 格安の素材だけで施工しない:ホームセンターで売られている建築用の制振材は、温度特性や自動車の振動域に最適化されていないものが多く、夏場に剥がれてしまうリスクがあります。車用として設計された製品を使うのが重要です。
収納スペース(トランクルーム・ラゲッジスペース)も忘れがちですが有効な施工場所です。荷室の床や壁面は鉄板がむき出しになっていることが多く、走行中の荷物の揺れと組み合わさって反響音が生じやすい箇所です。防音マットや軽量の制振材をラゲッジの床面に敷くだけでも、車内全体の静粛性が向上します。施工の難易度も低く、DIY初心者に最も取り組みやすい箇所といえます。
また、制振材を貼った後に効果を簡単に確認する方法があります。施工前と施工後で同じ箇所をコブシで叩いてみると、「カンカン」という高い金属音が「コトコト」という低く詰まった音に変化するのが確認できます。これで制振効果がしっかり出ているかを判断できます。これは必須のチェックです。
参考:間違いだらけのデッドニング施工について、やってはいけないポイントが詳しく解説されています。
car-audioblog「間違いだらけのデッドニング ~これやると逆効果です」

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