

電子メールで受け取った納品書を紙に印刷して保存すると、青色申告が取り消されることがあります。
まず、多くの人が誤解しているポイントを整理します。
納品書には、法律上の発行義務がありません。見積書・請求書・領収書など、取引で交わされる書類の中でも、納品書は「任意で発行する書類」に位置づけられています。これは、法律を専門に扱う税理士や公認会計士の間でも共通認識となっている事実です。
では、なぜほとんどの企業が納品書を発行するのでしょうか?
理由は主に3つあります。1つ目は「納品内容の確認」です。商品を受け取った側が、発注した内容と納品物に相違がないかを照合するために使います。たとえばオフィス用品を月に100点まとめて仕入れるケースでは、納品書がなければ何が届いて何が未着なのか、一目でわかりません。
2つ目は「経理処理の根拠資料」としての役割です。請求書と納品書を紐づけることで、どの納品に対する請求なのかが明確になります。経理担当者にとっては、照合作業のスピードが大幅に上がります。
3つ目は「取引トラブルの予防」です。後から「注文した品と違う」「数量が足りない」といったクレームが発生した場合、納品書があれば双方の記録を照合して解決できます。なければ水掛け論になりかねません。
義務ではないが、あった方が双方にメリットがある。これが基本です。
発行するかどうかは各社の判断に委ねられていますが、商取引の慣行として、大多数の企業が継続的に発行しています。コスト削減を目的に発行をやめる会社もありますが、その場合は請求書に納品内容を詳細に記載するなど、代替手段を取ることが一般的です。
法的な発行義務はないとはいえ、一度発行した納品書には「それなりの内容」が求められます。
記載すべき基本項目は以下のとおりです。
これらに法定フォーマットはなく、手書きでもExcelでも、販売管理システムで自動生成しても構いません。書式の自由度が高いことが納品書の特徴のひとつです。
ただし、金額欄の単価と合計に矛盾がないか、税率の区分(8%と10%)が正しいかは十分に確認が必要です。後で請求書を発行する際、納品書の金額と一致していないと、取引先の経理担当者に不信感を持たれる可能性があります。
書式に迷ったときは、弥生やfreee、マネーフォワードクラウドなどのクラウド会計サービスが、無料テンプレートを公開しています。これらを活用するだけで、記載漏れのリスクを大幅に減らせます。
整合性が取れた内容なら問題ありません。
2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、納品書の位置づけが大きく変わりました。これは収納や経理に関わる人なら、必ず把握しておくべき変化です。
インボイス制度とは、消費税の「仕入税額控除」を受けるために、適格請求書発行事業者が発行した所定の書類を保存することを義務付けた制度です。重要なのは、この「適格請求書(インボイス)」は請求書だけに限らず、納品書でも代用できるという点です。
つまり、必要事項を満たした納品書があれば、それ単体でインボイスとして取り扱えます。
適格請求書として認められるために必要な記載事項は次のとおりです。
これらが揃えば、請求書と納品書を別々に用意しなくても、納品書1枚で仕入税額控除の根拠書類になります。
ただし、1点注意があります。1万円未満の取引については「適格簡易請求書」が認められており、宛先の記載を省略できます。スーパーのレシートと同じイメージです。
また、納品書と請求書を組み合わせて1つのインボイスとして使うことも可能です。たとえば「納品書に品目明細を記載し、請求書に合計金額を記載する」形でも、両方の書類を合わせて一式として保存すれば要件を満たせます。
インボイスとして使うなら登録番号が必須です。
参考:国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)について」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm
「発行義務はないけれど、保存義務はある」。これが納品書のもっとも大切なルールです。
納品書は「国税関係書類」の証憑書類(しょうひん書類)に該当します。一度でも発行・受領したものは、法律に基づいて一定期間保存しなければなりません。
保存期間は以下のとおりに整理できます。
| 区分 | 根拠法令 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 法人(税法) | 法人税法施行規則 | 原則7年間 |
| 法人(会社法) | 会社法第435条第4項 | 10年間 |
| 個人事業主(青色・白色申告) | 所得税法 | 原則5年間 |
| 個人事業主(適格請求書発行事業者) | 消費税法(インボイス対応) | 7年間 |
ここで多くの人が誤解するのが「5年でいいはず」という思い込みです。個人事業主でも、インボイス制度における適格請求書発行事業者として登録していれば、発行した納品書の控えと受け取った納品書をそれぞれ7年間保存する必要があります。5年が原則ですが、条件によって2年間延長されます。
また、法人は「会社法では10年」というルールを見落としがちです。税法上の7年を守っていても、会社法的には3年分が保存不足になるケースがあります。安全を見るなら、法人は一律で10年保存が無難です。
起算日にも注意が必要です。保存期間は納品書の発行日からではなく、「確定申告書の提出期限の翌日」または「計算書類の作成日」から数えます。実際の廃棄可能時期は思っているよりも後になることが多い、ということですね。
参考:国税庁「電子帳簿保存法一問一答」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/03-6.pdf
2024年1月1日以降、「電子で受け取った納品書を紙に印刷して保存する」行為は、電子帳簿保存法に違反する行為となりました。これは多くの人にとって盲点になっているポイントです。
以前は「宥恕(ゆうじょ)期間」と呼ばれる猶予措置があり、電子データを紙に出力して保存することが暫定的に認められていました。しかし、この猶予は2023年12月31日で終了しました。厳しいところですね。
2024年以降のルールをまとめると次のようになります。
電子データとして保存する際には、以下の要件を満たす必要があります。
これらの要件を満たさないまま電子データを紙で保存していた場合、青色申告の取り消し対象になる可能性があります。青色申告を取り消されると、最大65万円の特別控除を受けられなくなるほか、欠損金の繰越控除もできなくなります。実質的な税負担は跳ね上がります。
さらに、悪質な隠蔽や偽装があった場合には、電子取引データの改ざんとして「35%の重加算税」が課される可能性もあります。
これは使えそうな知識です。
日常的に取引相手からメールでPDFの納品書を受け取っている場合は、専用のフォルダに電子データを整理して保存するだけでも対応できます。より確実を期すなら、弥生やfreee、マネーフォワードクラウドなどのクラウドサービスが電子帳簿保存法に対応しており、データの保存・管理・検索機能を一括で提供しています。「どのファイルをどのフォルダに保存したか」という管理コストを大幅に削減できます。
参考:国税庁「令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0024011-003_01.pdf
「面倒だから古い納品書は捨ててしまった」。こうした行動が、思わぬ損害につながることがあります。
保存義務に違反した場合のリスクは、金額でいえば最大100万円の過料(会社法第976条)、税務面でいえば青色申告の取り消しや追徴課税です。これらは実際の税務調査で指摘される可能性があります。
ただし、現実的な話をすると、すべての企業・個人に毎年税務調査が入るわけではありません。問題は「調査が入ったときに対応できない」ことです。取引先との金額の食い違いが発覚したとき、数年前の納品書を1枚も提示できなければ、交渉の場で圧倒的に不利になります。
では、どのように納品書を管理すれば実務的に安全なのでしょうか?
収納や整理が好きな人にとっては、書類整理自体はそれほど苦ではないかもしれません。ポイントは「捨てていいタイミングを正確に把握すること」です。法律が定める年数を1年でもショートカットすれば、そのぶんリスクが積み上がります。
保存期間は、法人で最大10年が条件です。
参考:弁護士法人アウェンセ「電子帳簿保存法の違反に罰則規定はある?」
https://www.authense.jp/komon/blog/law/2880/