

収納棚のスチール製品は、固有振動数が地震波と一致すると軽い揺れでも転倒します。
モーダル解析と固有値解析は、エンジニアリングの分野でよく耳にする言葉ですが、実はどちらも同じ解析手法を指す別名です。「Modal Analysis(モーダル解析)」は英語由来の呼び方で、日本語では「固有値解析」と呼ばれることが多く、設計の現場や教科書によって使われる呼称が変わります。つまり、2つの用語を混同していても、内容は同じということです。
この解析が目的とするのは、構造物が「どの周波数で振動しやすいか」と「そのときどんな形に変形するか」の2点を明らかにすることです。外力を一切加えない自由振動状態で計算するため、加振力の大きさには依存しない"構造そのものの性質"を見ていることになります。
収納に関心のある方にとってこれが重要なのは、棚や家具も物理的な「構造物」だからです。スチール製の収納棚や書棚の固有振動数は1Hzから3Hz程度あることが、愛知工業大学の研究報告(開田久志氏)で明らかにされています。これはハガキの短辺(10cm)と長辺(14.8cm)の差のように、わずかな数値の違いが大きな結果を生む世界の話です。
固有振動数が低いほど、地震の長周期成分と共振しやすくなります。つまり「見た目が頑丈そうな棚」であっても、固有振動数が合致する揺れが来れば、大きな変位を生じて転倒する可能性があるということです。これが基本です。
収納の設計段階でモーダル解析・固有値解析を意識しておくと、「どの棚が地震に弱いか」「どんな補強が効果的か」を数値で把握できます。いいことですね。
サイバネットシステムによる振動解析の基礎解説(Ansys活用講座)は、モーダル解析と周波数応答解析の違いを丁寧に説明しており、入門として非常に参考になります。
はじめての振動解析(1)振動の基礎とモーダル解析 |サイバネットシステム
モーダル解析(固有値解析)を実行すると、2種類の結果が出力されます。1つ目が「固有振動数」、2つ目が「固有モード(固有モード形状)」です。この2つをセットで理解することが、解析結果を正しく読み取るための第一歩です。
固有振動数とは、その構造物が外部から特定の周期で揺さぶられたとき、共振を起こす周波数のことです。たとえば水ヨーヨー風船を手で持ってある特定のリズムで上下に動かすと、大きく揺れる瞬間があります。そのリズムこそが固有振動数に対応します。CAE解析ツールでは「○○Hz」という数値で表示されます。
重要なのは、固有振動数は構造物の「質量」と「剛性」の2つで決まるという点です。具体的には、剛性が高くなるほど・質量が小さくなるほど固有振動数は高くなります。逆に、棚に荷物を大量に積んで質量が増えると、固有振動数は下がります。つまり「ものを詰め込んだ収納棚は、地震に弱い周波数帯に近づく可能性がある」ということです。
固有モードは、その固有振動数で振動するときの「変形形状」を表します。ただし、ここで注意が必要です。CAEが出力する変位の数値は物理的な実寸ではなく、相対的な比率にすぎません。「変位が大きいから実際にそれだけ動く」という意味ではなく、「どの部分がどの方向に動きやすいか」を示すものです。固有モードの数値に物理的意味はない、という点だけ覚えておけばOKです。
固有モードには次数があり、振動数の低い順に「1次モード」「2次モード」と呼びます。1次モードが最も変位が大きく、構造物の振動挙動を支配しやすいです。棚の補強を考えるときは、1次モードの変形が大きい部分(腹の部分)を優先的に強化することが効果的な対策につながります。これは使えそうです。
固有値解析の結果の読み方と共振設計回避の基礎を、機械設計向けに分かりやすく解説しています。
固有値解析とは?振動問題の解決をサポートする解析 |MONO塾
モーダル解析(固有値解析)を実際にCAEで実施するには、いくつかのステップを踏む必要があります。順を追って確認しましょう。
まず、3DCADなどから形状データ(ジオメトリ)を読み込みます。次に材料特性として「ヤング率(剛性)」と「密度(質量)」を設定します。特に振動解析では質量と剛性の両方が固有振動数に直接影響するため、実物に合った値を入力することが非常に重要です。形状を簡略化している場合は、実物と解析モデルの質量が乖離しないよう密度を調整することもあります。
続いて「メッシュ」を作成します。固有値解析では応力集中部を細かくする必要はありませんが、固有モードの「腹(変位が最大になる部分)」に対して10分割程度の節点数が目安とされています。メッシュが粗すぎると、9次・10次以上の高次モードで誤差が大きくなることが実験的に確認されています。
次は「境界条件(支持条件)」の設定です。ここが多くの入門者がつまずく場面です。固有値解析は力のつり合いを解く解析ではないため、静的構造解析と異なり境界条件がなくても計算できます。境界条件を設定しない場合は「剛体モード」が出力され、固有振動数が0Hz付近になります。通常は剛体モードを評価対象から除いて次のモードから確認します。支持条件が有る・無いで結果が変わることを理解しておけば、解析ミスを減らせます。
最後に「計算するモード次数」を指定して解析を実行します。次数が多いほど計算に時間がかかるため、初回は6~30程度を目安にするとよいです。解析アルゴリズムとしては「ブロックランチョス法」や「サブスペース法」などの効率的な解法が一般的に使用されます。解析が終わったら、固有振動数の数値と固有モードの変形アニメーションを確認します。これが一連の流れです。
| ステップ | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①形状読み込み | 3DCADデータをインポート | 形状の簡略化に注意 |
| ②材料設定 | ヤング率・密度を入力 | 質量は実物と一致させる |
| ③メッシュ生成 | 固有モードの腹に10分割が目安 | 粗すぎると高次モードで誤差 |
| ④境界条件設定 | 支持条件の有無を決定 | なし→剛体モードが出る |
| ⑤モード次数指定 | 初回は6~30次程度 | 多すぎると計算時間が増大 |
| ⑥結果確認 | 固有振動数とモード形状を確認 | 変位は相対値(物理量でない) |
CAE技術情報局による固有値解析のメッシュサイズの考え方は、実務で迷いやすい部分を数値で整理しています。
固有値解析におけるメッシュサイズの決め方 |CAE技術情報局
収納に興味がある人には、ぜひ知ってほしい事実があります。それは、収納棚(スチール製)の固有振動数は1Hzから3Hz程度であり、この帯域は地震動の卓越周期と重なりやすいという点です。愛知工業大学の研究報告(2012年)では、書棚やスチール収納家具が地震で揺れながら転倒・破損する事例が分析されており、「固有周期と地震の揺れ周期が近い場合、剛体としての転倒限界より小さな加速度で転倒する」ことが明らかになっています。
具体的には、家具の固有周期が臨界周期(約0.835秒=1.2Hz相当)より大きい場合、従来の剛体転倒計算式(Westの式)が示す転倒限界加速度よりも低い加速度で転倒することがわかっています。つまり「安全そうに見えても、共振が起きれば予想外のタイミングで倒れる」ということです。意外ですね。
一方、固有周期が臨界周期より短い場合は転倒しにくくなります。これは「剛い棚・軽い棚」が振動に対して有利であることを意味します。重いものをたくさん積んで質量が増えると固有振動数が下がり、共振リスクが上昇します。収納の重さを均等に分散させたり、棚の重心を低く保ったりすることは、見た目の整頓だけでなく振動安全性の観点でも有効な対策です。
地震対策として家具転倒防止グッズが広く販売されていますが、突っ張り棒や耐震マットは「転倒防止の補助」にはなるものの、共振そのものを防ぐわけではありません。棚が大きく揺れると収納物が飛び出す「落下」リスクは残ります。棚の構造自体の固有振動数を意識することが、根本的な安全対策の考え方につながります。固有振動数に注意すれば大丈夫です。
収納家具のロッキング・転倒挙動を固有振動数の観点から解析した研究報告です。地震時の共振リスクを具体的なデータで把握できます。
揺れやすい収納家具のロッキング・転倒挙動について |愛知工業大学(PDF)
モーダル解析(固有値解析)をある程度理解すると、次に「周波数応答解析」という言葉が出てきます。この2つは密接に関係していますが、役割がまったく異なります。両者の違いを把握しておくことで、解析手法の選択ミスを防げます。
まず、モーダル解析が答えるのは「この構造は何Hzで共振しやすいか・どう変形するか」という構造の性質です。外力を設定せずに解くため、計算が速く、設計の初期段階で構造の弱点を素早く把握するのに適しています。「共振しそうな周波数がわかる」のがモーダル解析です。
一方、周波数応答解析が答えるのは「実際にこの周波数で加振したとき、どれだけ振動応答が発生するか」です。モーダル解析で求めた固有モードを使って効率よく計算する「モード重ね合わせ法」が代表的な手法で、振幅・速度・加速度の実際の大きさを評価できます。製品の騒音対策や疲労評価などに使われます。つまり、モーダル解析は周波数応答解析の"前準備"として機能することが多いです。
実は、解析結果は「実固有値解析」と「複素固有値解析」の2種類に分かれます。通常の減衰を無視した計算が実固有値解析で、摩擦・ジャイロ効果・流体連成問題など減衰を考慮する特殊なケースに複素固有値解析が使われます。一般的な収納棚の振動設計には実固有値解析で問題ありません。
2つの解析の使い分けをまとめると次のようになります。
設計の流れとしては「モーダル解析で共振周波数を把握→問題があれば形状や材料を変更→周波数応答解析で実際の振動量を確認」という順序が王道です。この流れが基本です。
モーダル解析と周波数応答解析の関係・モード重ね合わせ法の基礎を解説した内容です。解析手法の使い分けを理解するのに役立ちます。
はじめての振動解析(2)周波数応答解析・モード重ね合わせ法の基礎 |サイバネットシステム