

あなたのスマホの画面が回転するのは、重力を「速度の変化」として測っているからです。
加速度計がどうやって「動き」を検知するのか、まずは土台となる物理法則から整理しておきましょう。
加速度計の動作はすべて、ニュートンの運動第二法則に基づいています。この法則を式で表すと「力(F)= 質量(m)× 加速度(a)」になります。式を変形すれば「a = F ÷ m」、つまり加速度は「力と質量がわかれば求められる」ということです。
ではその「力」をどう測るか。ここで登場するのがフックの法則です。フックの法則とは「バネの伸び量(変位)はかけた力に比例する」という法則で、「F = k × x(kはバネ定数、xは変位量)」と表現されます。これと先ほどの運動方程式を組み合わせると、「a = (k/m) × x」という式が導けます。つまり加速度が大きくなると、バネの変形量も比例して大きくなるということです。
これが原則です。
加速度計の内部には、微小なバネとおもり(質量体)が組み込まれています。物体が加速すると、おもりは慣性によってその場に留まろうとするため、バネが引き伸ばされたり縮んだりします。その変形量を計測すれば、加速度の大きさと方向が判明するわけです。感覚的にイメージするなら、急発進した車の座席に身体が「グッ」と押し付けられる感覚がまさにそれです。座席=固定部、あなたの身体=おもりとして機能していることになります。
変形量を電気信号に変換する方法が、センサーの「種類」を決定づけます。電気信号に変えることで、マイコンやCPUが数値として処理できるようになり、私たちが使うアプリや機器の動作につながっていきます。
参考:加速度センサの仕組みを物理法則から図解した解説
意外とシンプル?加速度センサの仕組みをざっくりと図解してみる|Skill Hacks
加速度センサーの種類の中で、最も歴史が長く産業用途で広く使われているのが「圧電型(ピエゾ型)」です。
圧電型は「圧電効果」を利用します。圧電効果とは、水晶(SiO₂)やジルコン酸チタン酸鉛(PZT)などの特定の素材に力を加えると、電荷(電気)が発生する現象のことです。逆に電圧をかけると素材が変形する「逆圧電効果」もあります。これが超音波診断装置やスピーカーにも応用されている原理です。
圧電型の構造は、バネ状の可撓部(かとうぶ)と、そこに貼り付けられた圧電素子で構成されています。加速度が発生すると、おもりが慣性で遅れて動くことで可撓部にたわみが生じ、そのたわみが圧電素子を押し縮める力になります。素材が変形するたびに電荷が発生し、その電荷量から加速度を算出します。
圧電型が得意なのは「高周波」の計測です。
たとえば、1秒間に数千回以上回転するモーターや、ベアリングなどの振動計測には圧電型が使われます。また自動車のエアバッグが衝突時に瞬時に膨らむのも、圧電型センサーが衝撃という「高加速度の急変化」を素早く検知するからです。
ただし、圧電型には重要な弱点があります。それはDC成分(直流成分)、つまり「重力加速度(9.8m/s²)のような変化しない成分」を検出できないという点です。これは原理上の限界で、電荷を出力するには素材の変形が必要なため、静止状態では信号がゼロになってしまいます。スマートフォンの画面回転のように「今どちらを向いているか」を常時検知する用途には、圧電型は向きません。
圧電型が得意な用途と苦手な用途をまとめると以下のようになります。
参考:圧電型加速度計の原理と工業用途についての詳細解説
工業用圧電型加速度計入門|東陽テクニカ
圧電型が苦手とする低周波・静的な加速度の計測を得意とするのが、「静電容量型」と「ピエゾ抵抗型」です。この2種類はスマートフォンや家電機器への搭載でも一般的です。
静電容量型の仕組み
静電容量型は、2枚の金属板(電極)の間隔の変化を利用します。電気でいう「コンデンサ」の原理と同じです。固定された電極と、おもりに取り付けられた可動電極の距離が加速度によって変化すると、静電容量(電荷をためる能力)が変わります。その変化量を電気信号として読み取ることで加速度を算出します。
静電容量が基本です。
静電容量型の特長は、重力加速度のようなDC成分も正確に検出できる点です。また精度が高く、低消費電力という特性もあります。スマートフォンの画面回転、ドローンの飛行姿勢維持、人体の動作解析(スポーツ分析・リハビリ計測)など、常時姿勢を把握したい用途では静電容量型が選ばれます。感度は最大で3%程度の誤差が生じることもあるため、精度が要求される計測では補正処理が必要です。
ピエゾ抵抗型の仕組み
ピエゾ抵抗型は、変形によって抵抗値が変わる「ピエゾ抵抗素子」を使います。おもりが動くとピエゾ抵抗が変形し、その変形量を抵抗値の変化として読み取ります。3軸(XYZ方向)を計測する場合、1方向につき4個のピエゾ抵抗が必要なため、合計12個が使われます。これは指先ほどのチップ内に収まるサイズです。
半導体製造技術との相性がよく、極めて小型化できることがピエゾ抵抗型の最大の強みです。そのため携帯機器や小型ウェアラブルデバイスへの搭載に適しています。一方で圧電型と比較すると感度や周波数特性で劣ります。
3種類を比較すると以下の通りです。
| 種類 | DC成分検出 | 高周波対応 | 小型化 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 圧電型 | ❌ 不可 | ◎ 得意 | 〇 | 振動計測・エアバッグ |
| 静電容量型 | ✅ 可能 | 〇 | スマホ・ドローン・車体制御 | |
| ピエゾ抵抗型 | ✅ 可能 | △ 苦手 | ◎ 得意 | 携帯機器・ウェアラブル |
参考:各種加速度センサーの種類と比較表
加速度センサー 基本と原理|マイクロストーン株式会社
現代のスマートフォンやウェアラブルデバイスに搭載されている加速度センサーのほとんどは、「MEMS(メムス)」と呼ばれる方式です。これは意外と知られていません。
MEMSとは「Micro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)」の略で、半導体製造技術(リソグラフィやエッチング)を使って、シリコンチップ上に1mmにも満たない極小の機械構造を作り込む技術です。長さにして1mm以下という世界で、バネ・おもり・電極といった加速度センサーに必要な構造を丸ごと実装しています。
MEMSが優れているのはコストと小型化です。
MEMS加速度センサーの動作原理は基本的に静電容量型と同じです。チップ内の可動電極(振動体)が加速度によって動くと、固定電極との距離が変化し、静電容量が変わります。その変化を信号処理回路が電気信号に変換します。加速度に応じて静電容量が変化する仕組みは、コンデンサマイクの動作原理と非常に近いものです。
スマートフォンに搭載されるMEMSセンサーは、加速度センサーだけでなく、ジャイロセンサー(回転速度を検知)や磁気センサー(方位を検知)と組み合わせて使われることがほとんどです。ここが重要なポイントで、加速度センサー単体では「回転運動」は検知できません。スマホのカーナビが進行方向を正しく示せるのは、加速度センサー+ジャイロセンサー+GPS+地磁気センサーが連携しているからです。
MEMS登場以前の加速度センサーは産業機器専用の高価な部品でしたが、MEMSによって数百円以下のコストで量産できるようになりました。これにより加速度センサーは私たちの日常生活に一気に普及したのです。
参考:MEMSモーションセンサーの技術と動作原理の詳細
Vol.13 MEMSモーションセンサと「パッケージング技術」|TDK Tech Magazine
加速度計の仕組みが理解できると、日常にある多くの「なぜ?」が解決します。ここでは身近な実用例を紹介しつつ、収納や生活整理の観点から役立つ応用についてもお伝えします。
エアバッグ:命を守る衝突検知
自動車のエアバッグは、圧電型加速度センサーが衝突時の極端な加速度変化(マイナス方向の大きな加速度)を検知して作動します。通常の急ブレーキと本当の衝突を区別できるよう、複数のセンサーが協調して判断しています。いいことですね。
スマートフォンの画面回転とGPS補正
スマホを縦から横に傾けると画面が回転しますが、これはMEMS加速度センサーが重力加速度(9.8m/s²)の方向を常に検知しているためです。重力は常にまっすぐ下に向いているので、センサーがそれを「基準」として傾きを計算しています。また、カーナビのGPSが建物の陰で衛星信号を失っても、しばらくは正確な位置を表示できるのは、加速度センサーが移動量を補完(慣性航法)しているからです。
収納・整理整頓アプリへの応用という独自視点
これはあまり知られていない活用法です。
スマートフォンの加速度センサーと収納管理を組み合わせたアプリが存在します。たとえば引き出しや棚の扉にスマートタグを取り付け、加速度センサーで「開閉回数」や「最後に開けた日時」を記録するIoT収納管理システムがあります。開閉頻度が低い引き出しを自動検出することで、「本当に必要なものだけを手の届く場所に置く」という収納の最適化が、データに基づいて実現できます。
さらに、スマートウォッチの加速度センサーを使えば、自分が一日の中でどの収納スペースに何回アクセスしたかを記録するといった使い方も技術的には可能です。これは「使用頻度の高いものを取り出しやすい場所に収納する」という整理整頓の基本原則を、主観ではなく客観データで実践することにつながります。
収納の見直しをしたい場合、普段使いのスマートウォッチの歩数・動作ログを確認するだけでも、「どの部屋のどの棚に何回行ったか」のヒントが隠れていることがあります。加速度センサーが蓄積したデータは、ただの運動記録だけでなく生活行動の振り返りにも使えるということです。これは使えそうです。
ノートPC・ドローン・航空宇宙まで
ノートPCには落下を検知して、HDDのヘッドを守るための加速度センサーが搭載されています。PCを床に落とす前の「自由落下中」を検知し、0.5秒以内にヘッドを安全な位置に退避させます。ドローンは加速度センサーとジャイロセンサーを組み合わせて姿勢を安定させています。航空機の慣性航法装置(INS)は加速度を積分することで位置・速度・移動距離を算出する高精度なシステムです。
参考:加速度センサーの活用分野と実用事例の一覧
加速度計・加速度センサとは?動作原理と実用例を解説|株式会社クローネ
加速度計の仕組みを深く理解する上で、押さえておくべき補足的な知識があります。これらを知っているだけで、加速度センサーを使ったアプリや機器の動作に対する理解が格段に深まります。
加速度センサーは「速度」を直接測っていない
誤解しやすいポイントがあります。加速度センサーは「速度」を測定するのではなく、「速度の変化率(加速度)」を測定します。歩数計アプリが歩行を検知できるのも、足を踏み出すたびに加速度が変化するからです。停止した状態から一定速度で動いている状態では加速度は0であり、センサーには変化が出ません。
重力加速度も「加速度」として常に検知される
静電容量型やピエゾ抵抗型の加速度センサーは、地球の重力(9.8m/s²)を常に検知し続けています。静止していても、センサーは「下向きに9.8m/s²の加速度がかかっている」という信号を出し続けます。そのため、人の動きや機器の振動だけを抽出したいときは、重力成分を差し引く信号処理(ハイパスフィルター処理など)が必要になります。
つまり重力の扱いが条件です。
ジャイロセンサーとの違いと組み合わせ
加速度センサーは直線的な動き(並進運動)を検知しますが、回転運動は単体では正確に測れません。一方でジャイロセンサーは回転速度(角速度)を検知しますが、長時間使用するとドリフト(誤差の蓄積)が問題になります。この2種類を組み合わせた「相補フィルター」という手法を使うことで、互いの弱点を補い合う高精度な姿勢推定が可能になります。スマホのカーナビや、スポーツ向けウェアラブルがこの手法を採用しています。
感度誤差と温度変化の影響
工業用途における加速度センサーには感度誤差も考慮する必要があります。センサーの感度(入力と出力の比)にはデバイスごとにばらつきがあり、最大3%程度の誤差が発生します。また温度変化によって感度が変わる「温度係数」の問題もあるため、精密計測では温度補正回路を持つ製品が選ばれます。日常使いのスマホアプリではさほど問題になりませんが、航空宇宙や産業機械では重要な選定基準になります。
加速度計の感度と適切な測定レンジの選び方
加速度センサーには「測定レンジ」があります。たとえば「±2G」「±16G」のように表記され、1Gは重力加速度の9.8m/s²に相当します。エアバッグ用センサーは衝突時の数十〜数百Gという大きな加速度を計測するため高レンジが必要です。一方、スマホの傾き検知や歩数計測では±2G程度の低レンジで十分です。レンジが広いほど大きな加速度を測れますが、小さな変化の分解能(精度)は低下します。これはトレードオフの関係です。
参考:加速度センサーの感度誤差と精度向上の技術的解説

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