

電安法に違反すると、法人には最大1億円の罰金が科される可能性があります。
EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)とは、電気・電子機器が「外部に電磁波を出さないこと」と「外部からの電磁波に耐えること」の両方を同時に満たす能力を指します。この2つの方向性が、EMC試験の根幹をなす「EMI試験(エミッション試験)」と「EMS試験(イミュニティ試験)」に対応しています。
EMI試験(Electromagnetic Interference)は、製品が外部へ放射するノイズが規格で定めた限度値に収まっているかを評価する試験です。たとえば、電源ラインや通信ラインを伝わる「伝導エミッション」と、空間を飛ぶ「放射エミッション」の2種類が計測対象になります。
一方のEMS試験(Electromagnetic Susceptibility)は、外部から加えられた電磁波に対して機器が誤動作しないかを検証します。これは静電気放電(ESD)、サージ、ファストトランジェントバースト、放射無線周波数電磁界など多岐にわたる項目で構成されています。
つまりEMC試験は「出さない・壊れない」の2軸で成立しています。
この2軸は互いに独立しているため、片方だけが合格しても規格適合とはなりません。製品開発の段階では、両方の観点から設計検討を行うことが原則です。収納スペースや近接して置く機器が多い環境では、特にイミュニティ性能が製品の信頼性に直結します。
| 試験種別 | 評価内容 | 主な試験項目例 |
|---|---|---|
| EMI(エミッション)試験 | 機器から外部へ出るノイズの大きさ | 放射エミッション、伝導エミッション、高調波電流、フリッカ |
| EMS(イミュニティ)試験 | 外部ノイズへの耐性 | ESD、放射イミュニティ、サージ、ファストトランジェントバースト、電圧ディップ |
参考:EMC試験の基本構造と試験項目の詳細については、以下のページが体系的にまとめられています。
なるほど!EMC試験(IMV株式会社)|EMC試験とは?試験の流れや規格一覧をご紹介
EMC規格には優先順位があります。自社製品に当てはまる規格を特定する際、この階層構造を知っているかどうかで、試験設計の手戻りが大きく変わります。これは重要なポイントです。
①製品規格は特定の製品専用に設けられた規格で、最も優先度が高いものです。その製品ならではの使用環境や動作条件が細かく反映されています。たとえば医療機器向けのIEC 60601シリーズや、マルチメディア機器向けのCISPR 32などがこれに該当します。
②製品群規格は、関連性のある製品群をまとめて対象にした規格です。CISPR 14-1(家庭用電気機器・電動工具のエミッション)やCISPR 14-2(イミュニティ)のほか、CISPR 11(ISM機器)、CISPR 15(電気照明機器)などが代表例です。
③共通規格(一般規格)は、製品規格や製品群規格に該当しない機器に対して横断的に適用される規格です。使用環境(住宅・商業・軽工業環境か、工業環境か)によって分かれており、IEC 61000-6シリーズがこれに当たります。
④基本規格は試験方法そのものを規定するものです。CISPR 16シリーズやIEC 61000-4シリーズがその代表で、測定装置の仕様や試験条件が詳細に規定されています。IEC 61000-4シリーズだけでも30以上の細目規格が存在します。
規格の選定は①→②→③の順で確認するのが基本です。
自社製品に専用の製品規格がなければ製品群規格を探し、それもなければ共通規格を適用する、という流れで進めます。製品規格が存在する場合は、その規格の中で基本規格を引用していることが多いため、基本規格を個別に探す必要はありません。
参考:規格の4分類と各規格の詳細な解説については下記が参考になります。
EMC規格(代表的な国際規格)を網羅的に解説します(emc-dkn.com)
世界的なEMC規格の中心に位置するのが、IEC(国際電気標準会議)が策定する規格です。IECは1908年に国際貿易の促進を目的として設立された組織で、2025年時点で164か国が加盟しています(正会員84か国)。IECの中には電磁両立性を専門に検討するTC77という専門委員会と、無線障害を扱うCISPR(国際無線障害特別委員会)という特別委員会が設置されています。
IEC 61000シリーズは、EMCに関するあらゆる要素を網羅した大規模な規格群です。大きく以下のように分類されます。
IEC 61000-4シリーズは特にイミュニティ試験の核となるシリーズです。たとえばIEC 61000-4-2は静電気放電(ESD)試験、IEC 61000-4-3は放射無線周波数電磁界イミュニティ試験、IEC 61000-4-5はサージイミュニティ試験を規定しています。
一方のCISPR規格は、エミッション(妨害波)に特化しています。
CISPR 16シリーズは「基本規格」に分類され、EMC試験に使用する測定装置や試験方法の仕様を定めます。製品群規格のCISPR 11(工業・科学・医療用機器)、CISPR 14-1(家庭用電気機器・電動工具)、CISPR 32(マルチメディア機器)なども国際的に広く引用されています。
CISPR規格がエミッション規格の基盤です。
注目すべき点として、CISPR 32は以前別々だった情報技術機器向けのCISPR 22と、オーディオ・ビジュアル機器向けのCISPR 13を統合した比較的新しい規格です。スマートスピーカーやタブレットなど複合的な機能を持つ家電製品を扱う場合は、CISPR 32とその姉妹規格であるCISPR 35(イミュニティ)が適用対象となることを押さえておきましょう。
製品を国内外で販売する場合、対象となる市場ごとの規格対応が必要です。どの地域に出荷するかで、要求される規格・認証が完全に変わってきます。
🇯🇵 日本の主要規格
日本のEMC規制で最も重要なのが「電気用品安全法(電安法・PSE法)」です。電安法は特定電気用品(116品目)と特定電気用品以外(341品目)の合計457品目を対象に、技術基準への適合とPSEマークの表示を義務付けています。違反した場合、法人には1億円以下の罰金、個人には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。これは法的リスクです。
実際に三菱電機は2022年、ビル設備用コントローラー約3万1,695台について電安法が定める「補助端子における雑音端子電圧試験」を実施していなかったとして電安法違反が発覚しました。リコール対応と信頼回復に多大なコストが発生した事例として、業界で広く知られています。
VCCIは日本の自主規制団体が運営するもので、情報技術機器(ITE)が対象です。法的拘束力はありませんが、国内1,300以上の企業・団体が参加し、実質的な業界標準となっています。VCCIにはClass AとClass Bがあり、家庭内(10m以内にテレビ・ラジオのある環境)で使用される機器には、より厳しいClass Bが適用されます。Class Bの限度値はClass Aのおよそ1/3の電磁波輻射しか許容されません。
🇪🇺 欧州(EUのCEマーキング)
EU市場に電気・電子機器を流通させるには、CEマーキングが必要です。EMC指令(2014/30/EU)に基づき、製品がエミッション・イミュニティの両要求を満たすことを証明する必要があります。欧州の整合規格(EN規格)はIEC規格をほぼそのまま採用しており、たとえばIEC 61000-4シリーズはEN 61000-4シリーズとして欧州規格化されています。
CE対応では「技術文書(Technical Documentation)」と「EU適合宣言書(DoC)」の作成・保管が義務付けられており、製品のライフサイクル期間中(最低10年間)の保管が求められます。試験費用の目安は製品規模にもよりますが、一般的な家電製品で数十万円規模になることがあります。
🇺🇸 米国(FCC規制)
米国では連邦通信委員会(FCC)がEMCを規制しています。FCC Part 15が家庭用デジタル機器の主要規格で、Class AとClass Bに分類されます。FCCの規制下でもClass Bは家庭用途向けの厳しい規格です。米国市場への展開には、FCCが認定した第三者機関(TCB)での適合試験と認証取得が必要です。
参考:国別のEMC規格体系とCEマーキング対応の実務については、以下のジェトロ資料が詳しいです。
ジェトロ|自己宣言のためのCEマーキング適合対策実務ガイドブック(PDF)
EMC試験は「目に見えない電磁波」を精密に計測するため、測定環境の品質が試験結果に直接影響します。外部からの電磁波が入り込んだり、内部で発生した電磁波が反射したりすると、正確な測定ができません。
電波暗室(Anechoic Chamber)は、シールドルームの内壁に電波吸収体を取り付けた構造で、電磁波の反射をなくした試験環境を実現します。放射エミッション測定では、アンテナと試験対象物(EUT:Equipment Under Test)の間の距離によって「3m法」と「10m法」に分かれます。3m法は小型機器向け、10m法は大型機器向けで、距離が長いほど広い面積の暗室が必要です。
測定環境は試験精度の生命線です。
電波暗室が測定に適しているかどうかは「NSA(正規化サイトアッテネーション)特性」や「SVSWR(サイト電圧定在波比)法」で定期的に評価されています。試験機関を選ぶ際はISO/IEC 17025の認定を取得しているかどうかが重要な判断基準の一つです。
放射エミッション測定では、EUTを回転させながらアンテナの高さと偏波(水平・垂直)を切り替え、ノイズが最大となる条件を探して評価します。単に「置いて測る」のではなく、最悪条件を能動的に探す試験になっています。
シールドルームは電波吸収体を持たない遮蔽箱で、主に伝導エミッションの測定やイミュニティ試験(ESD、バースト、サージなど)に用いられます。電波暗室よりも設備コストが低く、各種イミュニティ試験の多くはシールドルームで実施可能です。
試験機関に依頼する際は以下を事前に確認することで、試験がスムーズに進みます。
試験費用については、アンリツが公表している料金表によれば、オプション費用だけで1申込あたり50,000円がかかるケースもあります。NTT-ATのシールドルームを用いた妨害波測定は242,000円、TDKテクニカルセンターの10m法暗室を使ったEMC測定は250,000円程度が目安となっています。製品の試験項目が増えれば費用はその分積み上がるため、設計段階での事前評価(プレコンプライアンス測定)でリスクを下げることが費用対効果を高めるうえで有効です。
参考:放射エミッション測定の具体的な手順とポイントについては下記の技術ブログが参考になります。
Wave Technology(WTI)|EMC測定~放射エミッション測定のポイント
一般的に「EMC試験は製品単体で合格すれば問題ない」と考えられがちですが、実際には製品の設置状況や収納環境によってEMC特性が大きく変化することがあります。これが多くの現場で見落とされているポイントです。
EMC試験の規格では「EUT(試験対象機器)はシステムとして評価する」が原則とされています。つまり、製品を単体で合格させても、実際の使用環境では別のケーブルが接続されたり、近接した機器の影響を受けたりして、試験条件と大きく乖離することがあります。
設置環境の変化が合否を左右することがあります。
たとえば、電子機器を密閉された収納ボックスや棚の中に置く場合、機器周辺のケーブルの配置・束ね方、金属製棚板との距離などが「ノイズの放射パターン」に影響を与えることがあります。特に伝導エミッションは電源ラインを通じたノイズの漏れを評価するため、電源ケーブルの引き回し方によっては試験時と大きく異なる結果になることもあります。
EU指令の文書(EMC指令2014/30/EU)では、製品のインストール・設置に関する情報を「技術文書」に含めることを求めています。推奨ケーブル長、シールドケーブルの使用有無、アースの取り方など、設置条件の記載は法的にも義務に近い要求事項です。
製品開発の視点から見ると、収納環境を想定した試験構成の設定は、量産後のリコールやクレームを防ぐための費用対効果が非常に高い取り組みです。開発段階でエンジニアが収納ラックや想定ケーブル環境を模擬した状態でプレコンプライアンス測定を行うことが、後工程でのリスクを大幅に低減します。
なお、IEC 61000-5シリーズは機器の「設置方法」や「妨害波の影響軽減」のための指針を提供する規格です。IEC 61000-5-2(接地と配線)やIEC 61000-5-6(外部からの電磁影響の軽減)は、設置環境を設計するエンジニアにとって直接参照すべき規格と言えます。
参考:設置環境とEMCの関係、IEC 61000-5シリーズの詳細については下記が参考になります。
EMC For Engineer(e・オータマ)|EMC規格解説ほか資料集