

電磁流量計は「可動部がゼロ」なのに、流れる液体の速度を0.5%以下の誤差で計測できます。
電磁流量計の動作原理は、19世紀にマイケル・ファラデーが発見した「電磁誘導の法則」に完全に基づいています。この法則は一言でいうと「導体が磁界の中を動くと、起電力(電圧)が生まれる」というものです。
電磁流量計の場合、「動く導体」の役割を果たすのは流体(液体)そのものです。測定管の外側に配置されたコイルが磁界を発生させ、その磁界を横切るように流体が流れることで、管の内壁に取り付けられた電極間に起電力が生じます。つまり流体が「動く導体」です。
この起電力(電圧)の大きさは、次の関係式で表されます。
E = B × D × V(E:起電力、B:磁束密度、D:管内径、V:流体の平均流速)
磁束密度BとパイプのDは設計段階で固定値です。そのため測定された起電力Eから、流体の平均流速Vが直接算出できます。流速がわかれば管の断面積との積で体積流量も求まります。これが基本です。
意外に思われますが、この計算には「流体の圧力」「温度」「粘度」がまったく影響しません。これは流量計の選定において非常に大きな利点です。他方式の流量計では温度補正や圧力補正が必要になるケースが多く、補正計算のミスが計測誤差を生む原因になります。
電磁流量計の検出部(センサ部)は、大きく分けて「励磁コイル」「測定管」「電極」の3要素で構成されています。それぞれが原理を実現するために不可欠な役割を担っています。
励磁コイルは測定管を挟むように配置され、交流または直流パルスの電流を流すことで安定した磁界を発生させます。現代の製品では直流パルス励磁方式が主流で、50Hz・60Hzの商用電源ノイズの影響を受けにくいという特徴があります。これは使えそうです。
測定管はセラミック、ガラス、またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの非磁性・絶縁材料で内張りされています。なぜ絶縁が必要かというと、金属パイプがそのままでは発生した起電力が管壁に逃げてしまい、電極で正確に検出できなくなるからです。
電極は通常、管の内径に対して直角方向、つまり磁界と流れ方向の両方に垂直な位置に2本配置されます。この2点間の電位差が「起電力E」として計測されます。電極材質はSUS316L(ステンレス鋼)が一般的ですが、薬品・スラリー環境ではハステロイCやプラチナ製の電極を使うケースも多いです。
| 電極材質 | 主な用途 | 耐食性 |
|---|---|---|
| SUS316L | 水・排水・一般液体 | 標準 |
| ハステロイC | 酸性・アルカリ性薬品 | 高い |
| プラチナ | 純薬・食品・飲料 | 非常に高い |
| タンタル | 塩酸・硫酸などの強酸 | 極めて高い |
電極の汚れ(スケール付着、スライム)が計測精度に直結するため、電極コーティングの有無や自己洗浄機能の有無は製品選定の重要ポイントです。
電磁流量計には「導電率が約1μS/cm以上の流体でないと測定不可」という絶対条件があります。これを知らずに選定すると、設置後に全く計測できないという事態になります。
具体的に測定できる流体としては、上水・下水、海水、各種薬品溶液、牛乳などの食品液体、スラリー(泥水・鉱石を含む液体)などが挙げられます。一方、純水(導電率0.05μS/cm程度)・蒸留水・各種油脂・有機溶剤・気体・蒸気はすべて測定不可です。導電率が低い流体が対象です。
現場でよく起きるミスとして、「ほぼ水だから大丈夫だろう」と純水系ラインに電磁流量計を設置してしまうケースがあります。導電率が基準を下回ると出力がゼロか異常値になるため、設置前に流体の導電率を必ず確認する必要があります。横河電機やアズビル(山武)などの主要メーカーは、製品仕様書に「最小導電率」を明記しているので確認が必須です。
電磁流量計の適用可否は流体の導電率が条件です。
また、スラリーや固形物を含む流体に対しては、電磁流量計は他方式(例:コリオリ式、超音波式)と比較して「管内を詰まらせない・圧力損失がない」という圧倒的な利点を持ちます。下水処理場や製紙工場の繊維スラリーラインで電磁流量計が選ばれる理由はここにあります。
電磁流量計の公称精度は一般的に「±0.3%~±0.5% of rate(読み値に対するパーセント)」です。これはオリフィス流量計の±1~2%と比較すると、はがきの横幅(10cm)と名刺の幅(9.1cm)ほどの細かい差が積み重なって、長期的には大きな計量誤差になるイメージです。精度は高いです。
ただし、この精度を実際に発揮するには「設置直管長」の確保が必須です。直管長とは、流量計の前後に必要な、曲がりや弁などの乱れ要因がないまっすぐな配管区間のことです。
これを守らないと、流速プロファイルが乱れた状態で計測され、実際には±2~3%以上の誤差が出るケースがあります。工場の配管スペースの都合でついつい省略されがちですが、誤計量が積算されると年間の製品収支や薬品注入量に大きな誤差が生じます。誤差は積み重なります。
さらに、電磁流量計は「常に満管状態」で使うことが原則です。管内に気泡や空気溜まりがあると、電極が液体に接触できず、誤った出力や出力停止の原因になります。このため垂直配管への設置(流体が上向きに流れる方向)や、制御バルブの下流側への設置が推奨されます。
設置環境では「接地(アース)」も見逃せません。電磁流量計は微弱な起電力(数mV~数十mV)を計測するため、外来電気ノイズの影響を受けやすいです。適切な接地がないと出力が不安定になる現象が現場で多発しています。接地は必須です。
参考:横河電機「電磁流量計 設置・接続ガイド」——直管長の要件や接地方法についての詳細が記載されています。
https://www.yokogawa.com/jp/library/technical-reports/flow/
流量計には多くの方式が存在し、現場の条件によって最適な方式は変わります。電磁流量計がどのような状況で選ばれるのかを理解するために、主要4方式と比較します。
| 方式 | 原理 | 圧力損失 | スラリー対応 | 気体・油対応 | 精度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電磁式 | 電磁誘導 | なし | ◎ | ✕ | ±0.3~0.5% |
| 超音波式 | 音波伝播時間差 | なし(クランプオン型) | △ | △ | ±1~2% |
| コリオリ式 | コリオリ力 | あり | △ | ◎ | ±0.1~0.2% |
| 差圧式(オリフィス) | ベルヌーイの定理 | 大きい | ✕(詰まる) | ◎ | ±1~2% |
超音波流量計はクランプオン型(配管外側に取り付ける)であるため、既設配管に後付けできる点が最大の利点です。ただし気泡・スラリーには弱く、精度も電磁式より劣る傾向があります。どちらも一長一短です。
コリオリ流量計は電磁流量計では対応不可能な油脂・気体・低導電流体にも対応でき、精度も最高水準ですが、設備コストが電磁流量計の2~5倍になることが多いです。価格差は大きいです。
差圧式(オリフィス)はもっとも歴史の古い方式で、設置コストは低いものの、オリフィス板の圧力損失が大きく、スラリーや粘性流体では目詰まりリスクがあります。維持管理コストが長期的に積み上がるため、新設ラインでは電磁式や超音波式への切り替えが増えています。
電磁流量計は「導電性液体・スラリー・腐食性液体」の計測に対しては最も費用対効果が高い方式だといえます。
参考:日本フルードパワー工業会(JFPA)流量計の種類と選定の考え方——各方式の特性比較が体系的にまとめられています。
電磁流量計を工場や設備に組み込む際、「コンパクトに収める」ことを優先するあまり、見落とされがちな実務的注意点がいくつかあります。これを知っておくと、後から数十万円規模の配管やり直しコストを回避できます。
まず「センサとコンバータの分離型」か「一体型」かの選択です。一体型はスペースを取らず配線も少ないですが、振動や高温環境下では変換器(コンバータ)の電子部品が劣化しやすくなります。プロセス温度が60℃以上になる配管では、コンバータを本体から分離して遠隔設置する「分離型」の採用が推奨されます。
次に「メンテナンス空間の確保」です。電極の洗浄・点検や本体交換のために、前後・上下に最低でも300mm程度の作業空間が必要です。配管スペースを詰めすぎて作業できなくなると、電磁流量計ごと管をカットして交換するという大掛かりな工事になります。これは痛いですね。
また、製品の「保護等級(IPコード)」の確認も重要です。IP67(防塵・水没1m対応)やIP68の製品でないと、洗浄水がかかる食品工場・飲料工場の現場では電子部品が短期間で劣化します。安価な製品では電気系統の故障が1~2年以内に発生するケースが報告されています。
これらは仕様書上では見えにくい「現場の落とし穴」です。製品選定の段階でメーカーの技術サポートに相談するか、アズビル・横河電機・エンドレスハウザーなどの大手メーカーが提供している「流量計選定ガイド」を活用するのが確実です。選定ツールは無料で使えるものがほとんどです。
参考:エンドレスハウザー 電磁流量計選定ガイド——設置条件・流体条件に応じた選定フローが詳しく解説されています。
https://www.endress.com/ja/field-instruments-overview/flow-measurement