

面直しに高番手のダイヤモンド砥石を使うと、砥石の平面精度がかえって下がります。
砥石は使えば使うほど、表面の真ん中がへこんできます。これは研ぐときにどうしても中央に力が集中するためで、数分研いだだけでも砥面はわずかに変形しています。この状態を放置すると、刃物が均一に研げなくなり、包丁なら刃の中央部分が当たらなくなったり、鉋なら刃をまっすぐ仕上げられなくなったりします。面直しとは、そのへこんだ砥石の研面を正確な平面に戻す作業のことです。
面直しの方法には共擦り、専用面直し砥石、コンクリートブロック、ガラス板+サンドペーパーなど複数ありますが、なかでもダイヤモンド砥石を使う方法が最も精度が高く効率的とされています。理由はシンプルで、ダイヤモンド砥石は「自分自身が変形しない」という特性を持っているからです。
ダイヤモンド砥石には大きく分けて2種類あります。
| 種類 | 構造 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 電着式 | 金属板の上にダイヤ粒をメッキで貼り付け | 研磨力が高い・安価 | ダイヤが剥落しやすく寿命が短い |
| 焼結式 | ダイヤ粒と結合材を高温高圧で焼き固める | 寿命が長く安定・研ぎ傷が浅い | 高価・目詰まりが起きることがある |
面直しには電着式ダイヤモンド砥石が適しています。焼結式は非常に高価(3万円以上の製品も多い)なため、砥石を削る消耗作業に使うのはコスト的に見合わないケースがほとんどです。つまり面直し目的なら電着式で十分です。
専用面直し砥石(通常の砥粒で作られた固い砥石)は、使っているうちに自分自身も片減りしていくという弱点があります。砥石で砥石を削るため、どうしても均等には減りません。
電着と焼結の違いが押さえられれば、番手選びの前提も理解しやすくなります。
面直し用ダイヤモンド砥石を選ぶとき、多くの人が迷うのが番手です。番手とは砥石の粒度を示す数値で、数字が小さいほど粗く削れる力が強く、数字が大きいほど細かくなります。面直し目的に最も適した番手については、専門家や職人の間でも概ねコンセンサスがあります。
結論は「中目(#325〜400)が面直し最適番手」です。
以下の表を目安にしてください。
| 番手の目安 | 用途 | 面直しへの適性 |
|---|---|---|
| #140(荒目) | 大きなへこみの修正・刃欠け | △ 削り過ぎに注意 |
| #325〜400(中目) | 砥石の面修正 | ◎ 最適 |
| #600(細目) | 大工道具・包丁の荒研ぎ | ○ 目詰まりに注意 |
| #1200(極細) | 大工道具の裏押し | × 面直しには不向き |
中目(#325〜400)が面直しに最適な理由は、目詰まりしにくく修正スピードが速いからです。細目(#600)でも面直しは可能ですが、細かい番手になるほど目詰まりが起きやすく、作業効率が落ちます。仕上げ砥石(#8000以上)の砥面修正を細目で行うと、砥石表面の傷が浅く仕上がるメリットはあるものの、作業時間が大幅に増えてしまいます。
荒目(#140)は、砥石が大きくへこんでいるときや、長期間放置した砥石の大規模修正には効果的です。ただし削る力が非常に強く、普段のメンテナンスに使うには削り過ぎてしまうリスクがあります。削り代はほぼ帰ってきません。いわばやり過ぎを後戻りできない番手です。
面直し用アトマ(ツボ万製)では#325〜400の中目が「砥石面修正に最適」として明記されています。削ろう会(大工道具愛好家の集まり)でも、多くの参加者がアトマ中目で平面修正をしているほどです。
大工道具の曼陀羅屋「アトマの番手と砥石面直しへの適性について」
面直し用の番手が決まれば、次は「どの砥石の面直しにどの番手を使うか」という組み合わせも考える必要があります。
面直しで見落としがちなポイントが、「直す砥石の番手に合わせて、使うダイヤモンド砥石の番手も考える」という視点です。基本的なルールは「直したい砥石より番手が低い(粗い)ダイヤモンド砥石を使う」です。これが守られないと意味がありません。
荒砥石(#120〜#400程度)の面直しには、中目のダイヤモンド砥石(#325〜400)が適しています。削る力が必要なため、ここで細目を使うと作業に何倍もの時間がかかります。
中砥石(#1000前後)の面直しも、基本は中目(#325〜400)で問題ありません。砥石の修正スピードと仕上がりのバランスが最もよい組み合わせです。
仕上げ砥石(#3000以上)の面直しには、細目(#600)を使うのが一般的な選択肢になります。仕上げ砥石は研ぎ傷が深くなると次の使用に影響が出るため、少し細かめの番手で慎重に修正するのが得策です。ただし細目も目詰まりしやすいので、水を十分に流しながら使うことが必要です。
特に気をつけたいのが「電着ダイヤモンド砥石で焼結ダイヤモンド砥石の面を直してはいけない」というルールです。焼結ダイヤモンド砥石は非常に硬いため、電着砥石でこすると電着砥石のダイヤ層が摩耗・剥落してしまいます。その時点で電着砥石の寿命が終わります。これは見落とされやすい落とし穴です。
直す砥石とダイヤモンド砥石の番手の組み合わせが大事です。
さくやこのは「砥石の面直しにはダイヤモンド砥石がおすすめ〜平面の確認方法と注意点」
正しい番手を選んでも、動かし方が間違っていると砥石が平面になるどころか悪化する場合があります。面直しの基本手順を押さえておきましょう。
まず砥石を水で十分に濡らし、安定した台の上に固定します。次に、ダイヤモンド砥石を砥石の上に置き、砥石の長辺方向(縦方向)に動かします。このとき最も重要なのが「ダイヤモンド砥石を砥石の端から大きくはみ出させない」という点です。
大きくはみ出す動かし方をすると、ダイヤモンド砥石が前後に傾いてしまいます。その結果、砥石の中央が盛り上がったかまぼこ状に削れてしまいます。これはやり直しがきかない状態です。目安として、ダイヤモンド砥石が砥石面から1〜2cm程度はみ出す範囲に収めるようにしましょう(名刺の短辺1枚分が約5.5cmなので、その半分以下を意識するとイメージしやすいです)。
押さえ方にも注意が必要です。ダイヤモンド砥石の中心を重心として、全体に均一に力がかかるよう押さえます。左右の力が非対称になると、砥面が傾いた状態で削れてしまいます。
面直しの前後に砥石の平面を確認する習慣をつけることも大切です。確認方法は2つあります。
鉛筆法は窪みの発見に向いており、定規法はかまぼこ状の盛り上がりの発見に向いています。両方の方法を使い分けるのが理想です。こまめに確認を繰り返すことが原則です。
面直し後は必ず再確認する。これを習慣にしましょう。
ダイヤモンド砥石は一度購入すれば、電着式でも数年間は使い続けられる道具です。しかし管理の仕方を間違えると、寿命が大幅に縮んでしまいます。砥石の研ぎや面直しに興味を持ち始めた人が意外と見落とすのが、この「使用後の管理」です。
電着ダイヤモンド砥石の天敵は「錆」と「強い力での圧迫」の2つです。使用後は必ず流水でしっかり洗い流し、研ぎ汁や金属粉が残らないようにします。研ぎ汁が残ったまま保管すると錆が発生し、ダイヤ粒が固着して目詰まりの原因になります。
乾燥は日陰で行います。直射日光に当てると電着のメッキ層が劣化しやすくなるため、日当たりのよい場所への保管は避けてください。十分に乾いたら、専用ケースや新聞紙に包んで保管します。
また、電着ダイヤモンド砥石に目詰まりが起きた場合は錆取り液(専用品)を使うと回復する場合があります。アトマなどの専用品では替刃式になっているため、研磨力が落ちてきたら替刃だけ交換できるのが経済的に優れているポイントです。替刃の目安価格は1枚5,600円〜(中目・細目・極細)程度です。
収納スペースの観点からも、砥石類は「砥石台付き」のセット商品を選ぶと省スペースにまとまります。砥石台は研ぐときの安定確保にも必要なアイテムですが、保管時も砥石をまとめて立てて収納できるため、キッチンや作業台の引き出しをすっきりさせるのに役立ちます。
ナニワ研磨工業TOGIBU「ダイヤモンド砥石のメリット・デメリットと正しい選び方」
道具を長持ちさせる保管習慣が、結果として包丁や刃物の切れ味を守ることにつながります。

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