

静バランスが取れていても、動バランスが崩れると機械は壊れます。
回転する物体は、その質量分布が完全に均一でなければ、回転中心と重心がわずかにずれた状態になります。このずれを「アンバランス(不釣合い)」と呼びます。アンバランスがある状態で回転させると、ずれた重心が遠心力を生み出し、その結果として振動・騒音が発生するのです。
この現象は、私たちの身近にある洗濯機や掃除機、エアコンのファン、パソコンのハードディスクにも関係しています。つまりアンバランスは日常と切り離せません。
バランシングマシンの基本的な仕組みは、「部品を実際に回転させて、発生する振動の大きさと角度(位相)を測定する」というものです。部品を回転させると軸受けに周期的な力がかかり、その力をセンサーで拾います。測定した振動データをもとに、「どの位置に、どのくらいの質量のアンバランスがあるか」を計算で割り出すのが基本原理です。
アンバランスの単位は「g·mm(グラム・ミリメートル)」で表されます。これは「アンバランスの質量(g)×回転軸からの距離(mm)」の積です。この値が小さいほど、精度よくバランスが取れていることを意味します。
島津製作所の技術資料によると、質量300g・直径50mmの円柱ロータで、外形に0.6mgの錘がついていることまで検出できるバランシングマシンが存在します。お米1粒が約20mgですから、その33分の1という超微細な不釣合いを感知できる世界です。精度が高い、ということですね。
島津製作所「バランサ豆知識」:アンバランスの単位・静バランスと動バランスの違いを詳しく解説
「静バランス」と「動バランス」の2種類があることは、バランシングマシンを理解するうえでとても重要です。混同されやすいポイントですが、実は根本的に異なる概念です。
静バランス(スタティックバランス)とは、回転体を動かさない状態でも確認できる不釣合いのことです。ロータを水平なレールや軸受けの上にそっと置いたとき、重い部分が自然と下を向いて転がってしまう状態がこれにあたります。重心が回転軸の中心からずれているために起こる現象で、1か所にウェイトを追加または除去するだけで修正が可能です(1面修正)。扇風機の羽の一部が割れたときに、回転させると異様に振動するのは静バランスが崩れた典型例です。
一方、動バランス(ダイナミックバランス)は、静止した状態では現れず、回転させることで初めて現れる不釣合いです。これを「偶不釣合い(カップルアンバランス)」と言います。
わかりやすい例を挙げます。同じ質量のおもりを、回転体の軸方向で対角180度の位置(例えば左端の真上と右端の真下)に付けた状態を想像してください。この場合、回転軸を保持して静かに手を放しても、重心は中心にあるので自然には回りません。静バランスはOKです。しかし実際に回転させると、左右それぞれのおもりが遠心力を発生させ、軸に対して「ねじるような力(偶力・モーメント)」が発生します。これが軸受けを激しく揺さぶり、大きな振動を引き起こすのです。
静バランスOKでも、動バランスNGなら振動は止まりません。
動バランスの修正には、必ず2か所以上(2面修正)でウェイトを調整する必要があります。そのため、単純に静止状態で確認するだけでは不十分で、実際に回転させて計測するバランシングマシンが不可欠になります。
| 種類 | 検出方法 | 修正面の数 | 主な対象部品 |
|---|---|---|---|
| 静バランス(スタティック) | 静止状態で確認可能 | 1面 | 薄い円盤形状(小型ファン、薄型ギアなど) |
| 動バランス(ダイナミック) | 回転させないと検出不可 | 2面 | 軸方向に長い部品(クランクシャフト、モーターロータなど) |
明和製作所「静バランスと動バランスについて」:偶力(カップルアンバランス)のメカニズムを図解で丁寧に説明
バランシングマシンには大きく分けて2種類の方式があります。「ソフトベアリング式(軟式)」と「ハードベアリング式(硬式)」です。どちらも回転体のアンバランスを測定するという目的は同じですが、測定原理がまったく異なります。
ソフトベアリング式は、ロータを「柔軟な支持部」の上で回転させる方式です。支持部が共振周波数よりも高い速度でロータを回転させることで、ロータがまるで空中に浮いているかのように自由に動きます。この動き(変位)を振動センサーで測定し、アンバランスを計算します。
ソフトベアリング式の大きなメリットは、1台で幅広い質量範囲のロータに対応できる汎用性と、ポータブル設置が可能な点です。専用の特別な基礎工事も不要で、再キャリブレーションなしに機械を移動させることもできます。低速でのバランシングに向いており、感度が高いという特性もあります。
一方、ハードベアリング式は、剛性の高い固定支持部でロータを保持し、そこに伝わる「力(加速度)」を計測します。結果の読み取りが速く、高速生産ラインでの量産バランシングに向いています。ただし、大きく堅牢な基礎への恒久設置が必要で、背景振動(隣接する機械の振動など)の影響を受けやすいという点があります。
ハードベアリング式は速度、ソフトベアリング式は汎用性が強みです。
| 方式 | 測定対象 | 主なメリット | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| ソフトベアリング式 | 変位(動き) | 汎用性・ポータブル・低速対応 | 多品種・試験・フィールド作業 |
| ハードベアリング式 | 力(加速度) | 高速測定・量産対応 | 自動車部品などの高速生産ライン |
ダイナミックバランシングマシンFAQ:ソフトベアリングとハードベアリングの原理・特徴の違いを詳述
バランシングマシンは工場の中だけで使われるものではありません。機械を設置したまま現場でバランス修正を行う「フィールドバランシング」という手法があります。大型ファンや産業用ポンプのように、機械を分解して工場に持ち込むことが現実的でない場合に使われます。
フィールドバランシングの基本となるのが「試し錘法(トライアルウェイト法)」です。その原理はシンプルで、次の手順で進みます。
小野測器の事例では、初期振動が25.4Hz(1,525rpm)、振動加速度2.1×10⁻⁶の状態から試し錘を使ったバランシングで、修正錘1.9177gを250.19度の位置に取り付けるという計算結果が出ています。このように、修正に必要なウェイトは通常わずか数グラム程度。たった2gにも満たない差で、機械全体の振動が劇的に変わるのです。意外ですね。
回転機械の異常原因の中でも、アンバランスが占める割合は最も多いと言われています。だからこそ、この試し錘法は現場での即効性が高く、広く活用されています。
小野測器「フィールドバランシング(1面1条件)原理」:試し錘法の手順と計測画面データを実例付きで解説
バランシングマシンで「どこまでアンバランスを減らせばよいか」の基準となるのが、国際規格ISOが定める「釣合い良さ等級(Gグレード)」です。現在はISO 21940-11(旧:ISO 1940-1)として定められており、日本ではJIS B 0905として対応する規格があります。
Gグレードは「G0.4」から「G4000」まで段階があり、数字が小さいほど高精度なバランスが求められます。G値の物理的な意味は、「ロータの重心が回転軸に対して動く速さの最大許容値(mm/s)」です。G6.3なら6.3mm/s以下に抑える必要があります。
許容残留アンバランス量(Uper)は、次の式で計算されます。
$$U_{per} = \frac{9549 \times G \times m}{n}$$
(Uper:g·mm、G:Gグレード値(mm/s)、m:ロータ質量(kg)、n:最高回転速度(rpm))
たとえば質量12kgのポンプインペラが2,950rpmで回転し、G6.3グレードが必要な場合、許容残留アンバランスは「245 g·mm」です。修正半径100mmの位置では、最大約1.22gのウェイト誤差しか許されない計算になります。
各種機械に推奨されるGグレードの目安は以下の通りです。
Gグレードを適切に守ることはビジネス上のメリットにも直結します。ベアリングのL10寿命は負荷荷重の3乗に反比例するため、G16からG6.3にバランス精度を上げるだけでベアリング寿命が約2倍になるというデータがあります。さらにG2.5まで上げると、寿命は約4倍になります。メンテナンスコストと機械停止リスクを大幅に下げられることが、適切なバランシングの大きな理由のひとつです。
つまり、正しいGグレード選定が寿命とコストを左右します。
三木プーリ「回転機器の釣合い良さ」:JIS B 0905準拠の等級表と許容不釣合いの計算手順を掲載
Vibromera「バランス品質グレード(Gグレード)とは?」:ISO 21940-11に基づく計算式・適用事例・よくある間違いを網羅的に解説