全人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)は、変形性膝関節症などによって高度に損傷した膝関節の骨・軟骨面を人工物に置き換える手術です。 日本国内の変形性膝関節症患者は推定1,000万人とされており、高齢化社会の進行とともにTKAの件数は増加の一途をたどっています。
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手術では大腿骨遠位・脛骨近位・膝蓋骨の関節面をそれぞれ切除し、金属製・ポリエチレン製のコンポーネントを設置します。 手術時間は施設によって異なりますが、おおむね1〜2時間程度で行われます。
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看護師として術式の全体像を理解しておくことは、術後の観察やリハビリ支援において非常に重要です。
手術を受ける患者の多くは、高齢・肥満・糖尿病・高血圧などの基礎疾患を持っています。 これが術後の合併症リスクを複雑にするため、術前アセスメントは個別性を重視して行うことが原則です。
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術後の平均在院日数は施設によって大きく異なりますが、クリティカルパスが導入されている施設では概ね3〜4週間が目安とされています。 ただし、術後10日目のCRP値が9.59 mg/dl以上の場合、平均在院日数が40日以上に延長するという研究結果もあります(通常パスでの平均は29日)。 CRPの推移を注意深くフォローすることが、退院調整の精度を上げる条件です。
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| 時期 | 主なケア・目標 | 注意すべきリスク |
|---|---|---|
| 手術当日〜翌日 | 床上安静、フットポンプ使用、観察強化 | DVT・出血・神経障害 |
| 術後2日目〜 | 松葉杖・歩行器での離床開始 | 転倒・肺塞栓症(PTE) |
| 術後1〜2週 | 関節可動域訓練・ADL拡大 | 関節拘縮・感染 |
| 術後2〜4週 | 退院指導・生活様式の見直し | 廃用症候群・再入院 |
術直後に看護師が最優先で確認すべき項目は、「循環障害」と「神経障害」、そして「出血」の3つです。 この3点を見逃すと、後遺症や生命危機に直結します。
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まず循環障害に関しては、帰室直後から患肢の皮膚色・冷感・足背動脈の触知を必ず確認します。 まれではあるものの、膝窩動脈損傷という重大合併症が起こり得るため、早期発見が生死を分けます。 脈が触れない・冷感が強い・チアノーゼがある場合は、直ちに医師へ報告してください。
次に神経障害として腓骨神経麻痺が約1%の確率で発生します。 発症原因は術中の直接損傷、変形矯正による神経伸張、術後の体位による圧迫など多様です。
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TKAでは術前のO脚(内反膝)を矯正するため、術後に下肢が外旋しやすくなり腓骨頭が圧迫されます。 腓骨神経麻痺が起きると足関節・母趾の背屈不能、足背の感覚障害が生じます。 これは転倒リスクを大幅に高める重大な合併症です。
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出血量の管理も重要です。TKAは比較的出血量が多い手術で、術中にドレーンが留置される場合もあります。 術後採血でHbの推移を追いながら、輸血適応の判断を早めに行うことも看護師の重要な役割です。
参考になる詳細な観察項目と看護計画のまとめはこちら。
人工膝関節置換術の看護|術直後の観察項目、合併症予防(ナース専科)
これが意味することは、術翌日の初回離床こそが最もPTE(肺塞栓症)を発症しやすい瞬間だということです。 歩行開始時・トイレ移動時はとくに注意が必要で、その前後のバイタルサイン確認と患者の訴え傾聴が必須です。
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関連)https://j-depo.com/news/total-knee-replacement.html
DVTの症状は「下腿の痛みや腫脹」ですが、自覚症状がない場合も多く存在します。 症状がないから大丈夫、とは判断できません。 Dダイマーの上昇や足背動脈の左右差など、客観的データを組み合わせて評価することが原則です。
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PTEが疑われる場合は、胸痛・呼吸苦・SpO₂の低下が突然現れます。 これは命に関わる合併症のため、異常を発見したら迷わず医師に報告し、モニタリングを強化します。
関連)https://zama.jinai.jp/jinkan/knee-joint/risk.html
参考文献(DVT発生率と早期介入の重要性)。
TKA術後のリハビリといえばCPM(持続的他動運動)、という認識を持っている看護師は少なくありません。 しかし現在、この認識は大きく見直されています。
2020年以降のアメリカ理学療法協会のガイドラインでは、「TKA術後のCPMは用いないことが中等度の強さで推奨されている」と明記されています。 研究によれば、CPMは短期的な関節可動域の改善には一定の効果があるものの、長期的な機能改善や入院期間の短縮には有意な差が認められないとされています。
関連)tka-cpm-new/">https://knee-blog.com/tka-cpm-new/
それだけではありません。 CPMで膝を強制的に屈曲させることが、患者の痛みや心理的拒否感を高めるという指摘もあります。 「痛いのに押しつけている」と患者が感じると、その後のリハビリ意欲そのものが低下することもあります。
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看護師としての実践的な役割は、CPMの使用有無にかかわらず、患者のリハビリ意欲を引き出す声かけと環境整備にあります。
TKAの術後感染は、インプラント周囲感染症と呼ばれ、その発生率は1〜3%とされています。 数字だけ見ると低く感じますが、インプラント感染は治療が極めて難しく、最悪の場合は人工関節を抜去しなければならない事態に発展します。 感染は「起きてから対処」では手遅れです。
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感染には、手術中の細菌侵入による「早期感染症」と、術後に歯槽膿漏や他部位の感染を契機に血行性に広がる「晩期感染症」があります。 看護師が関わるのは主に早期感染予防ですが、退院指導では晩期感染のリスク管理(歯科受診の重要性など)を患者に伝えることも重要です。
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糖尿病の既往がある患者では、創部の治癒遅延が顕著に起こりやすいため、血糖管理の状況も並行して確認します。 閉塞性動脈硬化症(ASO)がある場合も、末梢血流の低下から感染が広がりやすいため注意が必要です。 これは要注意です。
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術後は免疫機能が低下しているため、一般病棟であっても感染対策の基本(手指衛生・環境整備)を徹底する習慣が、患者を守る最初の防衛線です。
参考になる感染予防の看護計画はこちら。
人工膝関節置換術(TKA)の看護|手術後感染の看護問題・看護計画(j-depo.com)
退院後の生活指導は、TKA看護において見落とされやすいが非常に重要な領域です。 特に日本の患者に特有の問題として、「和式生活様式」があります。
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術後は膝の過度な屈曲を避ける必要があるため、和式トイレ・布団・正座といった生活スタイルは再入院や疼痛再燃のリスクを高めます。 日本の高齢女性に多く見られる生活習慣で、退院後すぐに「正座して仏壇に手を合わせた」「和式トイレを使った」という事例が現場ではよく報告されます。
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退院指導の主なポイントをまとめます。
関連)https://zama.jinai.jp/jinkan/knee-joint/risk.html
退院後の不安を抱える患者には、術後外来での継続的なフォローアップがあることを伝え、不安軽減を図ります。 退院後に改善を実感する患者は一定数いますが、退院直後は「同じぐらい痛い」と感じる患者が63%、「悪化した」と感じる患者も21.5%に上るというデータがあります。 「退院後しばらくは痛みが残ることがある」という現実的な情報を患者と家族に伝えることが、退院後の信頼関係を維持する上で大切です。
体重管理については、BMIが高いほどインプラントへの荷重負担が大きくなり、耐久性や疼痛に直結します。 術前から体重管理の指導を開始し、退院後も継続できる食事・運動習慣のアドバイスを行うことが、長期的な患者のQOL向上につながります。
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退院後の長期的なリスクや注意点は患者向けパンフレットとしてまとめられているものも活用できます。
人工膝関節置換術を受ける患者さんへ(東京医科大学病院)