NNTが低いほど「良い薬」とは限らず、NNT=2の薬があなたの患者に全員副作用を出す可能性があります。
NNT(Number Needed to Treat)とは、「ある介入を行った場合に、1人の患者に効果が現れるまでに何人に介入する必要があるか」を示す疫学指標です。 日本語では「治療必要数」と訳され、EBM(根拠に基づく医療)の現場で広く用いられています。
関連)https://syuichiao.medy.jp/p/083673a3-ff00-406d-9c7b-c00029496016
たとえば、NNT=10 という数値は、「10人に治療を行えば、そのうち1人に効果が現れる」という意味です。 残りの9人は、その治療によって直接の恩恵を受けないことになります。これは見過ごされがちな視点です。
関連)https://www.sannoclinic.jp/cafe/archives/mon/202102-1.html
NNTは1988年にLaupacisらが提唱した概念で、相対リスク減少(RRR)だけでは見えてこない「絶対的な治療効果の大きさ」を実感値に近い形で示すために生まれました。 値が小さいほど少ない人数で効果が出る、つまり効率的な治療といえます。
関連)https://www.jasdi.jp/file/175
NNTの計算式はシンプルです。
具体例で確認しましょう。
関連)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2002/000234/200201290A/200201290A0002.pdf
つまり、10人に治療すれば1人の死亡を防げる計算です。
関連)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2002/000234/200201290A/200201290A0002.pdf
ここで注意が必要なのは、「相対リスク減少(RRR)が同じでも、NNTは全然違う数値になる」という点です。 日本理学療法士協会のEBPT用語集では次のように比較されています。
関連)https://www.jspt.or.jp/ebpt_glossary/nnt.html
| 指標 | 治療A(有病率10%→5%) | 治療B(有病率50%→25%) |
|---|---|---|
| 相対リスク減少(RRR) | 50% | 50% |
| 絶対リスク減少(ARR) | 5% | 25% |
| NNT | 20人 | 4人 |
RRRだけ見ると両者は「同等の効果」に見えます。 しかしNNTで比較すると、治療Bは治療Aの5倍の効率です。これが基本です。
関連)https://www.jspt.or.jp/ebpt_glossary/nnt.html
参考リンク先(日本理学療法士協会:NNTの定義・計算例が簡潔にまとまっており、EBPTの文脈でNNTを理解したい方に最適)。
治療必要数(NNT) number needed to treat|日本理学療法士協会
NNTを実際の臨床で使う場面を想定してみます。MSDマニュアルではARRが5%(0.05)の薬に対して、NNT=1÷0.05=20 という計算例が示されています。 「20人に投薬すれば、1人がそのイベント(死亡・発症など)を回避できる」という読み方です。
意外ですね。NNTは「効いた人数」ではなく「1人得するための総投薬数」です。
たとえばアスピリンによる心血管イベント一次予防を検討したイタリアのPPP試験では、NNTが現実的な感覚に近い指標として注目されました。 相対リスク減少で見ると「50%減少!」と聞こえても、絶対リスクが小さい集団ではNNTが100や200を超えることもあります。
関連)https://www.jasdi.jp/file/175
臨床での活用場面は以下のとおりです。
参考リンク先(MSDマニュアル プロフェッショナル版:薬物の効力・安全性の章でNNTとNNHが丁寧に解説されており、実臨床での利用場面を理解するのに役立つ)。
薬物の効力および安全性(NNT)|MSDマニュアル プロフェッショナル版
NNTと対になる概念がNNH(Number Needed to Harm:害必要数)です。 NNHは「1人に有害事象が発生するまでに、何人に投薬が必要か」を示します。NNHが小さいほど有害事象が出やすい薬です。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_15892
両方を合わせて読むことが条件です。
日本医事新報では「NNTとNNHを組み合わせることで、真の費用対効果が見えてくる」と解説されています。 たとえばNNT=10、NNH=20の薬があった場合、「10人に投薬すれば1人が得をするが、20人に投薬すれば1人が害を受ける」という解釈ができます。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_15892
| 指標 | 意味 | 値が小さい= |
|---|---|---|
| NNT(治療必要数) | 1人に効果が出るまでの投薬人数 | 効果が出やすい |
| NNH(害必要数) | 1人に有害事象が出るまでの投薬人数 | 害が出やすい |
NNTだけを見て「この薬は優れている」と判断するのは危険です。 現場では必ずNNHと組み合わせてリスクとベネフィットを天秤にかける習慣が求められます。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_15892
参考リンク先(日本医事新報:NNTとNNHの組み合わせによる医療経済的評価の考え方が詳しく解説されており、薬剤選択の判断根拠として有用)。
真の費用対効果を考える(NNTとNNH)|日本医事新報
NNTには重大な落とし穴があります。それは「同じ薬でも、エンドポイントの設定次第でNNTの値が大きく変わる」という点です。 たとえば「死亡率の低下」をエンドポイントにした場合と、「入院回数の減少」をエンドポイントにした場合では、同じ薬でも全く異なるNNTが算出されます。
関連)https://best-biostatistics.com/summary/nnt.html
エンドポイントの中身まで確認するのが原則です。
ファーマコビジランスに関する資料では「数字の大小だけでなく、設定されたエンドポイントの内容まで吟味する必要がある」と明記されています。 NNTが5だとしても、そのエンドポイントが「軽微な症状の改善」であれば、臨床的意義は大きくありません。
関連)https://www.fizz-di.jp/archives/1040431491.html
また、NNTは「どの患者集団を対象としたRCTで算出されたか」にも左右されます。 ベースラインリスクが異なる患者集団に同じNNTをそのまま当てはめると、現場の判断を誤る可能性があります。文脈から切り離してNNTの数字だけを議論することは、実臨床では通用しません。
関連)https://best-biostatistics.com/summary/nnt.html
NNTを正しく使うためのチェックポイントを整理します。
これだけ覚えておけばOKです。
中頭病院のジャーナルクラブチェックリストでも、「NNTには治療の観察期間が影響するため、異なる試験のNNTを単純比較することは適切でない」と指摘されています。 追跡期間が長いRCTほど、NNTは自然に小さくなる傾向があるためです。この点は論文を読む際に見落としやすい重要ポイントです。
参考リンク先(中頭病院ジャーナルクラブチェックリスト:NNTを含む臨床試験の批判的吟味の手順が詳細にまとまっており、EBM実践者に実用的)。
中頭病院ジャーナルクラブチェックリスト(NNT解説含む)
参考リンク先(best-biostatistics.com:NNTの計算方法とリスク差の関係について、図解入りでわかりやすく解説されており初学者から実践者まで役立つ)。
NNT(Number Needed to Treat:治療必要数)とは?|best-biostatistics.com
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