
燃料電池車(FCV)の最大の特徴は、走行中に一切のCO2や有害物質を排出しない優れた環境性能です 。燃料電池内で水素と酸素が化学反応を起こし、生成されるのは水蒸気のみとなっており、従来のガソリン車と比較して環境負荷を大幅に削減できます 。
参考)https://www.goo-net.com/magazine/newmodel/car-technology/28371/
製造から廃棄までのライフサイクル全体で評価した場合、燃料電池車のCO2排出量はガソリン車の約50%、ハイブリッド車の約80%程度まで削減されることが実証されています 。特に物流業界において、国内商用車全体の約7割を占める大型トラック領域でのCO2排出削減効果は極めて大きく、業界全体の脱炭素化を推進する重要な技術として注目されています 。
参考)https://www.sustainability-hub.jp/column/fuel_cell_vehicle/
しかし、水素製造プロセスでは化石燃料が使用されることが多いため、完全にCO2フリーとは言えない現実があります 。再生可能エネルギー由来の水素製造技術の普及により、将来的にはより環境負荷の少ない燃料供給が期待されています。
参考)https://zero-energy.jp/blog/774/
燃料電池車は電気自動車と比較して優れた航続距離を実現しており、一度の水素充填で600~650km以上の走行が可能です 。この性能は長距離輸送が多い物流業界にとって重要なメリットとなっており、電気自動車では困難な長距離ルートにも対応できます 。
参考)https://www.aba-j.or.jp/info/industry/24273/
燃料の充填時間についても、ガソリン車と同様に数分で完了するため、電気自動車の充電時間と比べて大幅に短縮されています 。これにより、物流現場での稼働効率を維持しながら脱炭素化を進めることが可能です。
参考)https://evdays.tepco.co.jp/entry/2024/03/13/000058
また、燃料電池車は騒音や振動が少なく、運転手にとって快適な乗り心地を提供します 。夜間配送や住宅地での作業において、周辺環境への影響を最小限に抑えることができるのも物流業界にとって重要な利点です。
参考)https://harenohi.asahigroup-japan.co.jp/think/2025/02/27/8-13/
燃料電池車の導入における最大の課題は、極めて高額な車両価格です。大型トラックの場合、約1.6億円という価格設定となっており、ベース車両の6倍以上のコストとなっています 。この高コストは燃料電池にレアメタルが使用されていることや、製造規模が小さいことが主な原因です 。
参考)https://www.applenet.co.jp/guide/tips/hydrogenCar.html
政府はこの価格格差を埋めるため、ディーゼル車との差額の4分の3を補助する制度を設けています 。乗用車においても、FCVに対して最大255万円の補助金が支給されており、トヨタ・ミライの場合は約232万円の補助により実質価格を441万円程度まで抑えることができます 。
参考)https://www.chibakogyo-bank.co.jp/kojin/column/article016/
さらに燃料費についても、重点地域では軽油との差額の4分の3(水素1kg当たり約700円)が補助されるため、運用コストの負担軽減が図られています 。これらの支援制度により、導入ハードルの低減が進められています。
燃料電池車普及の最大の障壁となっているのが、水素ステーションの絶対的な不足です。2024年末時点で全国に約160か所しか設置されておらず 、EV充電ステーション数の約30,000か所と比較すると極めて少ない状況です 。
参考)https://carsmora.com/article/detail/10001906
1か所当たりの建設費用は約4億円前後と高額で、政府からの補助金を使用しても事業者負担は約1億円以上となっています 。また、大型トラックに対応するためには充填能力を高める必要があり、建設費はさらに膨らんでしまいます 。
政府は2030年までに1,000か所程度の設置を目標として掲げており 、現在は重点地域である6都県に集中投入する戦略を採用しています 。水素・燃料電池戦略ロードマップでは2025年に320か所、2030年に900か所という段階的な整備計画が示されています 。
参考)https://www.gas.or.jp/oshirase/suiso.pdf
物流業界における燃料電池車と電気自動車の適用性には明確な差があります。燃料電池車は高圧水素タンクを6本搭載し、56kgの水素により800km以上の航続距離を実現できるため 、長距離輸送に特化した用途で優位性を発揮します。
参考)https://global.honda/jp/news/2023/c231222.html
一方、電気自動車は充電インフラが広く整備されており価格も比較的安価ですが、充電時間の長さと航続距離の制約により、短距離配送や都市部での運用に適しています 。燃料電池車の乗用版であるミライが約9倍のタンク容量を持つ大型トラックは、乗用FCVに対して10倍近い水素利用量を実現し、水素需要の拡大に寄与します 。
参考)https://www.goo-net.com/magazine/knowhow/carlife/28535/
現在、トヨタ・日野が共同開発したFC大型トラックがアサヒグループジャパン、西濃運輸、ヤマト運輸等の大手物流企業で実証実験が行われており 、2027年の市場導入に向けたデータ取得が進められています。これらの実証結果により、物流現場での実用性が具体的に検証されています。
参考)https://www.yamato-hd.co.jp/news/2023/newsrelease_20230517_1.html