
「貯金は美徳」という考え方が根強い日本社会ですが、ミニマリストの中には意図的に「貯金しない」選択をする人たちがいます。これは単なる浪費とは全く異なる哲学に基づいています。
ミニマリストが貯金しない根本的な考え方は「起こるかどうかわからない未来に備えて、今をないがしろにしない」というものです。ミニマリストしぶさんは、この考えを実践するため「貯金が60万円を超えたら、応援したい人へお金を回す」というポリシーを持っています。
この哲学の背景には、お金を貯め込む行為自体が目的化してしまうことへの警戒があります。「人間は貯めれば貯め込むだけ、手放すのが怖くなる生き物」であり、「意味もなく『貯金するのが生き甲斐』になる」状況を避けたいという思いがあるのです。
ミニマリストにとって、お金は「持つ」ものではなく「流す」もの。必要最低限の安全網を確保した上で、価値あると思うものや人にお金を循環させることで、社会全体の豊かさにつながると考えています。
ミニマリストが貯金を限定的にする理由は、単に物欲が少ないからではありません。明確な思想と計算に基づいています。
多くのミニマリストが参考にしているのは、ライフネット生命の元会長・出口治明氏の「手取り1年分」という考え方です。これは「万が一の時のセーフティネット」として必要な額の目安です。出口氏は著書の中で次のように述べています。
「みなさんが必要最低限備えるべきお金とは、万が一の時にセーフティネットなのです。このセーフティネットとして必要な額の試算は、マネープランの専門家であるファイナンシャルプランナーに相談しても人によってまちまちです。ここではわかりやすく、『手取り1年分』を目安にしていきましょう。」
ミニマリストしぶさんはこれを「必要最低限かかる生活費の1年分」と解釈し、自身の場合は60万円と設定しています。この金額があれば、結婚、出産、入院など万が一のことが起きても1年間は対処できると考えているのです。
この「必要最低限の貯金」という考え方は、不安から際限なく貯め続けるのではなく、具体的な目標を持つことで心の安定を得ることにもつながります。
ミニマリストが「貯金しない」と言っても、お金を無計画に使い果たすわけではありません。むしろ、より効果的な資産形成の方法を選択している場合が多いのです。
投資系YouTuberとして知られるミニマリストゆみにゃんさんは、10年で7,000万円の資産を構築し、経済的自立(FIRE)を達成しました。彼女の投資手法は以下のようなものです。
ミニマリストKotaさんも同様のアプローチを取っており、毎月の収入から自動的に以下のような資産形成を行っています。
このように、ミニマリストは「貯金」という形でお金を眠らせるのではなく、資産を成長させる方法を選択しているのです。物を減らすことで生まれた余剰資金を、より効率的に運用することで、少ない収入からでも着実に資産を増やしていくことが可能になります。
「貯金しない」という選択に不安を感じる人は多いでしょう。しかし、ミニマリストたちはその不安にどう対処しているのでしょうか。
ミニマリストしぶさんによれば、不安の根本原因は「情報不足」にあります。「お化け屋敷だって入る前に『お化けが出現する場所』を知っていれば、怖くなくなる」のと同じように、お金に関する正しい知識を身につけることで不安は軽減されます。
例えば、多くの人が漠然と不安を感じる「出産費用」について考えてみましょう。検診から出産までにかかる費用は約50万円と言われていますが、出産育児一時金として医療保険から42万円が支給され、働いていれば給与の3分の2が「出産手当金」として支給されます。このような具体的な知識があれば、必要な準備金額が明確になり、過剰な貯蓄への不安は軽減されます。
また、投資経験のあるミニマリストゆみにゃんさんは、相場下落時の不安を乗り越えるポイントとして「しっかりと勉強して知識武装すること」を挙げています。彼女は投資に関する本を一通り読み、特に「敗者のゲーム」という本からインデックス投資の優位性を学んだことで、「下落の後は上がる、やめたら意味がない」という確信を持てるようになったと言います。
不安への対処法をまとめると。
ミニマリストが貯金に頼らない生活を選択することで得られるメリットは、単に物理的な余裕だけではありません。精神的な豊かさにも大きく関わっています。
1. 現在の充実感の向上
「未来のために今を犠牲にする」という発想から解放されることで、今この瞬間を十分に生きることができます。ミニマリストしぶさんは「未来のことを考える暇がないくらい、今という一点に集中して生きるのがミニマリスト」と表現しています。
2. お金の循環による社会的価値の創出
貯め込むのではなく、応援したい人や価値あるものにお金を回すことで、社会全体の活性化に貢献できます。これは「投資」ではなく「応援」という感覚で、リターンを期待するのではなく価値創造そのものを目的としています。
3. 物質的依存からの解放
50歳で貯金がなかったことをきっかけにミニマリストになった筆子さんのように、「少ないもので暮らす」ことを選択すると、物質への依存から解放され、本当に必要なものと不要なものを見極める目が養われます。
4. 経験重視の生活への転換
ミニマリストKotaさんは「モノではなく『経験』にお金を使うことで無駄遣いが減る」と指摘しています。旅行やアウトドア、美味しい食事、自己投資など、形に残らないけれど人生の満足度を高める経験にお金を使うことで、より充実した生活を送ることができます。
5. 自由な働き方の実現
必要最低限の生活費が少なく、余分な物を持たないライフスタイルは、働き方の自由度を高めます。ミニマリストゆみにゃんさんのように、投資による不労所得を構築してFIRE(経済的自立・早期リタイア)を達成する人も増えています。
これらのメリットは、単に「貯金をしない」という消極的な選択ではなく、より豊かな人生を送るための積極的な生き方の選択と言えるでしょう。
「貯金しない」ミニマリストの生活を実践するには、段階的なアプローチが効果的です。以下に具体的なステップを紹介します。
ステップ1: 支出の把握と見直し
まずは現在の支出を詳細に把握しましょう。ミニマリストKotaさんは「何にどれくらいお金を使っているのかを把握できていない」ことが貯金できない大きな原因だと指摘しています。
ステップ2: 物の整理と削減
ミニマリストゆみにゃんさんは「物欲を手放すこと」を節約の第一歩として挙げています。
ステップ3: 必要最低限の安全網の設定
自分にとっての「必要最低限のセーフティネット」を計算します。
ステップ4: 資産形成の仕組み作り
貯金ではなく資産形成の仕組みを整えます。
ステップ5: お金の循環を意識する
貯め込むのではなく、価値あるものにお金を回す習慣をつけます。
これらのステップは一度に全て実践する必要はありません。自分のペースで少しずつ取り入れていくことで、無理なく「貯金しない」ミニマリストの生活に近づいていくことができるでしょう。
「貯金しない」ミニマリストの考え方は、年代によって異なるアプローチが必要です。世代別の特徴と実践方法を見ていきましょう。
20〜30代:基盤構築期
この世代は「コスパ世代」とも呼ばれ、大不況期に育ったことで金銭感覚が養われています。SNSでお得情報をキャッチするのも得意な世代です。
40代:トリプルピンチ世代
40代は「住宅ローン、教育費、低収入」というトリプルピンチに直面しやすい世代です。バブルの恩恵を受けられなかったのに、「お金はつかっていいもの」という感覚のまま大不況時代に突入した難しい世代とも言えます。
50代以上:自由設計期
50代は子育てが一段落し、自分の時間とお金の使い方を見直す時期です。筆子さんのように、この時期にミニマリストへの転換を図る人も少なくありません。