軽い斜頚でも頚椎CT撮影を怠ると、のちに四肢麻痺を招くことがあります。
頸椎は7個の椎骨が縦に積み重なる構造で、最上部の第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の間が「環軸関節」です 。この関節は回旋の自由度が高い反面、靭帯に依存した安定性が弱く、小児では靭帯がさらに未熟なため亜脱臼が起きやすい構造的な素地があります 。
関連)https://ken-ishii.com/blog/41
「亜脱臼」とは、関節が完全に外れきらず、部分的にずれた状態を指します。成人でも起きますが、小児では骨格発育途上であることから軽微な外力や炎症でも発症します。つまり、子供特有の解剖学的脆弱性が背景にあるということです。
環軸椎亜脱臼の診断基準として、前屈位での側面X線で環椎歯突起間距離(ADI)が小児では4.5mm以上が異常値とされています 。成人の基準は2.5〜3mmですので、数値だけ見て「正常」と流さないことが重要です。
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| 項目 | 成人の基準 | 小児の基準 |
|---|---|---|
| ADI(環椎歯突起間距離) | 2.5〜3mm以上で異常 | 4.5mm以上で異常 |
| 靭帯の安定性 | 比較的安定 | 未熟で不安定 |
| 自然治癒の可能性 | 低い | タイプによっては高い |
原因は大きく「外傷性」「炎症性」「先天性疾患合併型」の3種類に分かれます。日常診療で最も遭遇しやすいのは、上気道感染・扁桃炎後に生じる炎症性の環軸椎回旋位固定(AARF)です 。
関連)http://www7a.biglobe.ne.jp/~orthopedics/AARS.htm
炎症性AAFRはGrisel症候群とも呼ばれ、咽頭後壁の静脈叢を介した感染が環軸靭帯を弛緩させることで起きます。これは健康だった子供にも起こります。「ダウン症でもないし外傷もない」と亜脱臼を除外してしまうのは危険です。
先天性疾患合併については、ダウン症候群では10〜30%に環軸椎不安定性があるとされており 、そのうち脊髄症状を来す割合は1〜2%と報告されています 。見かけ上「元気に動いている」ダウン症の子供でも、定期的な頚椎評価が不可欠です。
関連)https://kcmc.kanagawa-pho.jp/diseases/kanzikutsui.html
Fielding分類でタイプⅠ(前方偏位なし・単純回旋転位)が最も多く、これは自然治癒することが多いです 。一方タイプⅡ〜Ⅳは前方偏位を伴い、靭帯損傷が治癒するまでの固定が必要となります。タイプで予後が大きく異なるということですね。
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最も多い初期症状は後頭部から後頚部の痛みです 。しかし小児では「首が痛い」と明確に訴えられないことも多く、「なんとなく機嫌が悪い」「首を傾けたまま固まっている」といった所見から疑うことが現場では求められます。
関連)https://www.nsj-official.jp/general/diseasename/01_head/dakkyu.html
これは難しいところです。親が「寝違えかな」と数日放置しているうちに病状が進行するケースが少なくありません。
病状が進むと、手足のしびれ・巧緻運動障害(細かい動きの困難)・歩行障害へと進展します 。さらに重症例では呼吸困難を来すことがあり 、脊髄への圧迫が上位であるほど致命的なリスクが伴います。また、椎骨動脈損傷が合併した場合には脳梗塞リスクも生じます 。
関連)https://www.kansetsu-itai.com/doctor/doc334.php
斜頚を主訴に来院した小児に対しては、「筋性斜頚」「眼性斜頚」と早期に決めつけず、頚椎の骨・関節病変を除外するプロセスを必ず踏む姿勢が大切です。斜頚の鑑別診断に骨関節疾患を含めることが原則です。
診断の第一歩は単純X線(開口位・前屈位含む側面像)ですが、小児は撮影への協力が得にくく、画像評価が不完全になるリスクがあります 。特に開口位撮影は幼児では困難なことが多く、「レントゲンで異常なし」だけで判断しないことが重要です。
関連)https://www.moriseikeigeka.com/disease/aarf/
CT検査は診断価値が最も高い検査です 。小児では環椎歯突起間が3mm以上開いていれば横靭帯損傷を考慮します 。CTにより環軸関節の三次元的なずれの確認・Fielding分類の確定が可能です。
関連)https://www.emalliance.org/education/case/syourei83kaisetsu
MRIは脊髄への圧迫や髄内信号変化の評価に用います 。ダウン症候群で手術を施行した症例では、頚髄MRIにて全例に髄内高信号が認められた報告もあります 。神経症状がある場合にはMRIを積極的に施行することを検討してください。これは見落とせない情報ですね。
関連)http://www.jpoa.org/mag/vol22-2/472-477.pdf
参考:日本脊髄外科学会による環軸椎亜脱臼の概説(脊髄圧迫症状・検査・治療フローの解説)
日本脊髄外科学会「環軸椎亜脱臼」
治療法の選択において最も重要な因子は「症状の持続期間」です 。
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早期受診・早期診断が予後を直接的に左右します。1か月以上放置されたケースで手術に至った報告も複数あります 。「少し様子を見ましょう」という対応が、ハロートラクションという侵襲的処置を招くリスクがあるということです。
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ダウン症候群における経過については、多くの場合は経過観察のみで安定し、手術に至るのはわずかです 。しかし定期的なレントゲン評価を就学前まで継続することが推奨されており、成人期以降に神経症状が出現する例も少なくないとされています 。経過観察の中断は禁物です。
参考:ダウン症候群の環軸椎亜脱臼に関する手術症例4例の詳細報告(ADI・SAC・手術年齢のデータあり)
日本小児整形外科学会誌「環軸椎脱臼のため不全麻痺を生じ手術を施行したダウン症候群の4例」
ここは独自視点として押さえておきたいポイントです。環軸椎亜脱臼は整形外科・脳神経外科が専門とする疾患ですが、最初に患者が訪れるのは「小児科」や「耳鼻咽喉科」であることが多い現実があります。
上気道感染・扁桃炎の治療後に首の傾きが残る子供がいた場合、耳鼻科医や小児科医が「炎症が落ち着いたから大丈夫」と判断してしまうリスクがあります。実際、Grisel症候群の症例では感染治療後も斜頚が残存することがあり、その時点での整形外科への紹介が遅れることが問題になっています。
また、救急外来において軽微な外傷後の頚部痛を訴える小児に対して、成人と同じ基準(ADI 3mm)で「正常」と判断してしまうケースにも注意が必要です。前述のとおり、小児のADI基準は4.5mmであり 、成人の基準をそのまま適用すると偽陰性を生みます。数値の基準を間違えないことが条件です。
関連)https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/25597
専門施設への紹介タイミングとして参考にしたいのは、「斜頚が1週間以上改善しない小児」は整形外科専門医に紹介するという目安です 。小児整形外科専門医は、首を注意深く診察するだけで診断できる場合もあり、早期紹介で侵襲的治療を回避できる可能性が高まります 。
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参考:神奈川県立こども医療センターによる環軸椎亜脱臼の詳細解説(ダウン症合併頻度・検査・手術適応の説明)
神奈川県立こども医療センター「環軸椎亜脱臼(不安定症)」