抗dsDNA抗体が陰性でもSLEは否定できない——これを知らないと見逃しリスクが生じます。
抗dsDNA抗体の基準値は、使用する測定法によって数値が大きく異なります。これが重要です。
代表的な測定法と基準値をまとめると以下のとおりです。
| 測定法 | 基準値(陰性) | 特徴 |
|---|---|---|
| ELISA法 | 12.0 IU/mL以下 | 自動化対応、スクリーニングに広く普及 |
| Farr法(RIA) | 6.0 IU/mL以下 | 高親和性抗体を検出、SLE特異度が高い |
| FEIA法(BML等) | 10.0 IU/mL未満 | 施設によりカットオフが異なる場合あり |
同じ患者でも施設が違えば「陽性」「陰性」の判定が変わりうるということですね。
関連)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3803946
たとえばMBLのステイシアシステムでは陽性カットオフが12.0 IU/mLであり、京都大学病院検査部でもELISA法を用いて12 IU/mL以下を基準値としています。 依頼先の検査機関が何の方法を使っているかを確認することが、結果解釈の大前提です。
関連)https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/faq/stacia/dsdna.html
また、IgGクラスの抗体測定のみが健康保険の適用対象となっており、実臨床ではIgG抗dsDNA抗体が測定されています。 IgMクラスは研究目的での利用が主体です。
関連)https://data.medience.co.jp/guide/guide-06050010.html
抗dsDNA抗体の特異度は高い一方、感度は想像より低いです。
SLEの分類基準(2019年EULAR/ACR基準)では、抗dsDNA抗体または抗Sm抗体の陽性が免疫学的項目として6点を付与され、診断に重要な位置を占めています。 しかし、実際にSLE患者で抗dsDNA抗体が陽性になる割合は約40〜70%にとどまります。
関連)https://chuo.kcho.jp/app/wp-content/uploads/2022/03/JC_No_2.pdf
いくつかのレビューをまとめると、SLEの活動性に対する抗dsDNA抗体陽性の感度は66%、特異度は66%、尤度比は4.14と、単独では決め手になりにくい数字が示されています。 意外ですね。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_20690
つまり陰性でもSLEを否定できません。 抗dsDNA抗体陰性でも、臨床症状や抗核抗体・補体価・抗Sm抗体など他の所見と組み合わせた総合判断が必要です。特異度はRIA(Farr法)を用いた場合に97.4%と非常に高くなることが知られており、検出方法による差がいかに大きいかがわかります。
関連)http://www.hakatara.net/images/no9/9-3.pdf
なお、SLEと抗dsDNA抗体の組み合わせ解釈において、抗dsDNA高値とC3低値の併存は陽性的中率が高く、両者セットでの評価が推奨されています。
関連)https://note.com/takenouchi14/n/nf6ce1cb2a6d3
診断後も、抗dsDNA抗体は継続的に測定する意義があります。
抗dsDNA抗体価はSLEおよびループス腎炎の疾患活動性と相関し、治療効果を反映するバイオマーカーとして広く使われています。 疾患活動性スコアであるSLEDAI-2Kでも、抗DNA抗体の上昇が評価項目のひとつに採用されています。
関連)https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/faq/stacia/dsdna.html
ループス腎炎の症例では、抗dsDNA抗体価が高値かつ血清補体価(C3・C4)が低値という組み合わせが典型的な所見であり、治療の効果判定に有用です。 治療が奏効すると抗体価は低下し、再燃時には再び上昇することが多いです。
関連)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2&pk=150
ただし、抗dsDNA抗体と疾患活動性の相関は「すべての患者に当てはめられるわけではない」ことに注意が必要です。 抗体価が上昇しても症状が安定している患者や、逆に抗体価が正常範囲内でも臨床的に活動性が高い場合もあります。これが原則です。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_20690
補体価との組み合わせやSLEDAI-2Kスコアを定期的に評価しながら、個々の患者に合わせた閾値で解釈する姿勢が求められます。
日本医事新報:SLEの疾患活動性バイオマーカーについての専門家解説(抗dsDNA抗体・補体価の実臨床での使い方)
薬剤誘発性ループスでの抗dsDNA抗体の動きは、通常のSLEと異なります。これは盲点になりやすいです。
一般的な薬剤誘発性ループスでは、抗dsDNA抗体の陽性率は低いとされています。しかし例外があります。TNFα阻害薬(インフリキシマブ・アダリムマブなど)の投与による薬剤誘導性ループスでは、抗dsDNA抗体陽性率が約90%に達するという報告があります。
関連)https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/faq/stacia/dsdna.html
つまりTNFα阻害薬使用中の患者では、抗dsDNA抗体が陽性化しやすいです。RA・IBD・乾癬などでTNFα阻害薬を使用している患者に蝶形紅斑や関節炎が新たに出現した場合、薬剤誘導性ループスを鑑別に挙げ、抗dsDNA抗体を確認する意識が重要です。
また、高親和性の抗dsDNA抗体が主にSLEに特異的であり、低親和性抗体は他疾患や薬剤誘発性ループスでも出現しやすいとされています。 検査結果の数値だけでなく、測定系(高親和性検出に優れたFarr法 vs. IgG全体を測定するELISA法)の違いも念頭に置くことが、誤解を防ぐカギです。
関連)https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/faq/stacia/dsdna.html
抗dsDNA抗体が低値・陰性でも、ループス腎炎を見逃してはいけないケースがあります。
SLEの腎症(特にループス腎炎)において、抗dsDNA IgG抗体が低値であっても、抗ssDNA IgG抗体が高値を示す症例が多いことが明らかになっています。 これは教科書的に「抗dsDNA抗体がループス腎炎に特異的」と覚えているだけでは気づけない盲点です。
関連)https://test-directory.srl.info/akiruno/test/detail/062270200
具体的には、抗dsDNA抗体が陰性または基準値近傍でも、抗ssDNA抗体を追加測定することで腎炎の活動性を捉えられる可能性があります。腎機能悪化や蛋白尿の増悪が見られるにもかかわらず抗dsDNA抗体が陰性な場合、この知識が役立ちます。
以下のような状況では抗ssDNA抗体の追加を検討する価値があります。
抗ssDNA IgG抗体はELISA法で測定され、基準値は25.0 AU/mL以下です。 抗dsDNA抗体とセットで依頼することで、腎炎の活動性をより精度高く評価できます。これは使えそうです。
関連)https://www.mrso.jp/inspection/245.html
SRL検査要項:抗ds-DNA IgG抗体・抗ss-DNA IgG抗体の臨床意義とループス腎炎における使い分けの解説