捻挫と診断した患者の関節内に、実は骨折由来の遊離体が存在することがあります。
関節内遊離体とは、外傷や疾患によって関節軟骨またはその下の骨(軟骨下骨)が剥離し、関節腔内を移動するようになった骨軟骨片のことです 。俗に「関節ねずみ」と呼ばれるのは、この遊離体が関節内をすばやく動き回る様子がネズミの動きに似ているためです 。
関連)https://medicalnote.jp/diseases/%E9%96%A2%E7%AF%80%E5%86%85%E9%81%8A%E9%9B%A2%E4%BD%93
遊離体のサイズはミリ単位の小さなものから、数センチに達するものまでさまざまです 。
関連)https://medicaldoc.jp/cyclopedia/disease/d_orthopedics/di1496/
重要なのは、遊離体は静的に存在するわけではないという点です。関節液から栄養を直接取り込むことができるため、放置すると体内で増大することがあります 。つまり、早期に発見するほど治療介入の負担が少ない疾患です。
関連)https://rineal.riso-clinic.com/nezumi/
発生部位としては膝関節が最も頻度が高く、特に大腿骨内側顆に好発します。次いで肘関節(野球肘に伴う外側型)、足関節(距骨滑車部)、股関節(骨壊死・変形性股関節症に伴う)の順で見られます 。
関連)https://ikeda-c.jp/byouki/joint_mouse.html
| 好発部位 | 主な原因 |
|---|---|
| 膝関節 | 離断性骨軟骨炎、変形性関節症、膝蓋骨脱臼 |
| 肘関節 | 野球肘(外側型OCD) |
| 足関節 | 捻挫・剥離骨折 |
| 股関節 | 骨壊死、変形性股関節症 |
離断性骨軟骨炎(Osteochondritis dissecans:OCD)は、関節内遊離体の原因疾患の中でも特に医療従事者が頻繁に遭遇する疾患です 。軟骨下骨に繰り返しストレスが加わることで限局性の血流障害が起こり、骨の一部が壊死・離断することで遊離体が形成されます。
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好発年齢は10代で、成長期の男性スポーツ選手に多く、男女比はおよそ2〜4対1とされています 。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/2017/d150816
少年野球選手における上腕骨小頭OCDの発生率は約1.7〜1.9%と報告されています 。3,651人を対象にした追跡調査では、71名(1.9%)に上腕骨小頭のOCDが確認されました 。これは「100人のチームに1〜2人」という計算になり、スポーツ現場では決して珍しい疾患ではありません。
関連)https://jsoa.or.jp/content/images/2024/07/Vol.31_No.1.pdf
膝OCDにおいては、成長終了前に診断された例でも追跡調査で32%が中等度以上の変形性関節症へ進行したという長期報告があります 。これが条件です。早期診断・適切介入が患者の将来の関節機能を左右するという認識が、特に10〜20代を診る医療従事者に求められます。
関連)https://kneewish.art.coocan.jp/newpage6.htm
また、OCDの先天性要因として、20%に両側発生が認められている点も臨床的に重要です 。片側の膝や肘にOCDを確認した場合、対側の評価も忘れないようにする必要があります。
関連)https://kneewish.art.coocan.jp/newpage6.htm
参考:日本整形外科スポーツ医学会による少年野球選手のOCDに関する最新報告(PDF)
日本整形外科スポーツ医学会誌 Vol.31 No.1 — 上腕骨小頭OCDの発生率データを含む
外傷性の骨軟骨骨折は、捻挫や接触プレーなど急性外力によって関節内の骨軟骨片が剥離することで遊離体が生じます 。臨床上の問題点は、通常のX線では捻挫と区別がつきにくく、見落とされるケースがあることです 。
関連)https://medical.itp.ne.jp/byouki/311137000/
「捻挫と診断されていたが、実は関節内に骨折があり、それが遊離体になった」というケースは現場では少なくありません 。意外ですね。
関連)http://iijima-seikei.jp/qa/090430_ans.html
このような症例では、遊離体が関節の狭い隙間に嵌頓して突然の激痛とロッキングを来すまで、長期間無症状で経過することがあります。手指MP関節の遊離体では、受傷から20〜40年間無症状で経過した後に突然の激痛として発症した症例報告も存在します 。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1408200338
外傷後の疼痛が通常の捻挫経過と異なる場合、MRIやCTによる詳細評価が重要です。「X線陰性=骨折なし」という判断が時に遊離体の見落としにつながるため、疑わしい症例では積極的に断層像を検討することが原則です。
滑膜骨軟骨腫症(Synovial chondromatosis)は、他の原因疾患と大きく異なる点があります。外傷や変性ではなく、滑膜組織そのものが軟骨化生(metaplasia)を起こし、多数の骨軟骨片を産生します 。近年は良性腫瘍が本態とも考えられています。
関連)https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15609
この病態では、遊離体が「1個~数個」ではなく、数十個以上にのぼることもあります。これが基本です。
病期はMilgram分類によって3期に区分されます 。I期は遊離体を伴わない滑膜内病変のみ、II期は滑膜病変と遊離体が混在、III期は多数の遊離体を認め滑膜の活動性病変は見られないとされます 。治療は滑膜切除術と遊離体摘出術が基本であり、再発することもあります 。
関連)http://www.jsomt.jp/journal/pdf/061040268.pdf
臨床的に重要なのは、I期では遊離体が画像に映らず無症状のケースもあるという点です 。関節腫脹や軽微な疼痛が続く患者で原因が特定されない場合、この疾患を鑑別リストに入れることが求められます。
関連)https://oogaki.or.jp/orthopedic-surgery/lower-limbs/synovial-chondromatosis/
参考:滑膜性骨軟骨腫症の画像所見・Milgram分類の詳細解説
整形外科画像所見まとめ — 滑膜性骨軟骨腫症のMilgram分類と画像所見のポイント
変形性関節症(OA)では、関節縁に形成された骨棘(osteophyte)の一部が折れて関節腔内に遊離体として散在することがあります 。中高年患者の膝OA管理において、遊離体の存在は症状悪化の一因となるため、定期的な画像評価が重要です。
関連)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/nj8-ht5fm
見落とされやすい原因として挙げられるのが、糖尿病や脊髄疾患に合併するシャルコー関節(神経病性関節症)です 。痛覚障害により関節への過大な負荷が繰り返されることで関節破壊が進み、大量の遊離体が形成されることがあります。糖尿病患者の関節症状を評価する際には、この病態も念頭に置く必要があります。
関連)https://medicalnote.jp/diseases/%E9%96%A2%E7%AF%80%E5%86%85%E9%81%8A%E9%9B%A2%E4%BD%93
また、骨壊死症(特に大腿骨頭壊死)でも壊死骨の剥離から遊離体が形成されます 。ステロイド投与やアルコール多飲歴のある患者に股関節痛が生じた場合、骨壊死由来の遊離体も考慮に入れる必要があります。
関連)https://medicaldoc.jp/cyclopedia/disease/d_orthopedics/di1496/
参考:医療従事者向けに疾患概要・原因疾患を整理した解説ページ
メディカルノート — 関節内遊離体の原因・診断・治療の概要