HLA-B27が陽性でも、強直性脊椎炎を発症する人は10人に1人以下です。
関連)http://www.hakatara.net/images/no22/22-6.pdf
HLA-B27(Human Leukocyte Antigen B27)は、白血球の表面にある「MHCクラスI分子」の一種で、免疫応答において重要な役割を担っています。 この遺伝子型を持つ人が脊椎関節炎(SpA)、特に強直性脊椎炎(AS)を発症しやすいことが1970年代から世界的に報告されてきました。
関連)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000610/
つまり「炎症性腰背部痛 + 若い男性 + HLA-B27陽性」という3点セットが揃うと、ASの強い疑いとなります。
関連)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/AS.html
強直性脊椎炎の患者では、欧米白人では約90〜95%がHLA-B27陽性とされていますが、日本人患者では調査地域によって0.4〜83%とかなりばらつきがあります。 この差は、日本人一般集団でのHLA-B27保有率がそもそも0.3〜0.5%と極めて低いことが背景にあります。
関連)https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease04.html
検査自体は採血によるHLAタイピングで行われます。 結果は通常7日程度で報告されます。
関連)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/AS.html
| 疾患名 | HLA-B27陽性率 |
|---|---|
| 強直性脊椎炎(AS) | 90〜95%(欧米白人) / 約75%(日本人) |
| ライター症候群(反応性関節炎) | 50〜80% |
| 乾癬性関節炎(PsA) | 比較的低い |
| 日本人一般集団 | 0.3〜0.5% |
関連)https://nagabiku-yotu.com/introduction/
参考:強直性脊椎炎の診断基準と臨床像について(難病情報センター)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4847
医療現場で見落とされがちなのが、保険適用の問題です。 HLA-B27検査は、強直性脊椎炎の診断目的では現在も保険適用外であり、患者は全額自費負担となります。
関連)jia_all.pdf">https://www.ryumachi-jp.com/jcr_wp/media/2023/11/jia_all.pdf
痛いですね。
HLA検査全体の費用は機関によって0円〜10万円程度と大きな差があり、同じ検査でも病院によって患者負担額が全く異なります。 骨髄移植などの適合確認を目的としたHLA検査は保険適用されますが、リウマチ性疾患のスクリーニング目的では適用されないのが現状です。
関連)https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=54
医療従事者としては、患者へのインフォームドコンセントの中で「この検査は保険が効かない」という点を必ず事前説明する必要があります。 説明なく自費請求が発生すると、患者からのクレームや信頼低下につながります。これは防げるトラブルです。
関連)https://skytree-clinic.jp/63/
なお、経済的な理由でHLA検査が困難な患者のために「淳彦基金」のような費用援助制度も存在します。 患者へ紹介できるよう情報を手元に持っておくと役立ちます。
関連)https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=54
参考:HLA検査の医療費について(造血幹細胞移植学会)
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=54
HLA-B27が陽性だからといって、強直性脊椎炎と確定診断できるわけではありません。 感度・特異度ともに高いとはいえないという見解もあり、診断への過信は危険です。
関連)https://skytree-clinic.jp/63/
どういうことでしょうか?
HLA-B27保有者のうち、実際にASを発症するのは10%未満と報告されています。 つまり、HLA-B27陽性者の9割以上はASを発症しません。陽性=病気という誤認が、患者への不要な不安や過剰診断につながるリスクがあります。
関連)http://www.hakatara.net/images/no22/22-6.pdf
一方で、HLA-B27が陰性であってもASと診断されるケースが日本人では少なくありません。 日本人AS患者でのHLA-B27陽性率は約75%とされており、残りの約25%はHLA-B27陰性にもかかわらず発症しています。
関連)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000610/
結論は「補助情報のひとつ」です。
関連)https://skytree-clinic.jp/63/
診断にはBerlin分類基準(感度70.3%、特異度81.2%)や、臨床症状・MRI・X線所見との組み合わせが推奨されています。 HLA-B27単独で診断を決定しようとするのは、現在の診断指針とも合致しません。
関連)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/AS.html
参考:脊椎関節炎の診断ポイントと治療(博多リウマチセミナー資料)
http://www.hakatara.net/images/no22/22-6.pdf
では、どのような場面でHLA-B27検査が実際に役立つのでしょうか?
最も有用なのは、炎症性腰背部痛(IBP)が疑われる若年患者の早期スクリーニングです。 IBPは以下の特徴を持ちます。
関連)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/AS.html
関連)http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu03-2.html
これらの条件を満たす患者にHLA-B27陽性が加わると、ASの可能性が一気に高まります。 早期診断ができれば、生物学的製剤(TNF阻害薬・IL-17阻害薬)による治療介入が早まり、脊椎の不可逆的な骨化・強直を予防できる可能性があります。
関連)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/AS.html
これは使えそうです。
また、10〜35歳の発症が多く45歳以上での新規発症は稀であることから、年齢によるリスク層別化も診断精度向上に有効です。 「若い男性の難治性腰痛=整形外科的問題」とすぐ判断せず、炎症性疾患の可能性を念頭に置くことが早期診断の鍵になります。
関連)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/AS.html
参考:順天堂大学附属病院 脊椎関節炎の解説ページ
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease04.html
HLA-B27と脊椎関節炎の関係を語るうえで、近年注目されているのが腸管免疫と腸内細菌叢の関与です。 強直性脊椎炎を引き起こす3型免疫担当細胞(Th17細胞・ILC3など)が腸管由来である可能性が高いと報告されており、腸管炎症がAS発症のトリガーになっている可能性が指摘されています。
関連)https://saito-seikei.jp/blog/post-5200/
意外ですね。
AS患者の約60%に無症候性の腸管炎症が認められるという報告もあります。 患者が消化器症状を訴えていなくても、腸管病変が背景に存在しているかもしれないのです。これはAS診療において消化器科との連携が重要であることを示しています。
関連)https://saito-seikei.jp/blog/post-5200/
HLA-B27分子がERストレスを誘発し、IL-23/IL-17経路を介した炎症を腸管から引き起こすというメカニズムも研究されています。 これが、IL-17阻害薬(セクキヌマブなど)がASに有効である理由の一つとされています。
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腸内環境への介入がAS予防・管理に寄与する可能性があるという研究も進みつつあります。 プロバイオティクス製品や食事指導が補助的な選択肢として話題になることもありますが、現時点では補助的な位置づけです。
HLA-B27検査の結果を読み解く際、単なる遺伝子マーカーとしてではなく、腸管免疫・環境因子との相互作用の窓口として捉えることが、より精密な臨床推論につながります。
関連)https://saito-seikei.jp/blog/post-5200/
参考:慶應義塾大学病院KOMPASによるASの解説(人種差・HLA-B27の陽性率の記載あり)
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000610/