股関節だけ鍛えても、FAIリハビリの成果は半分以下になります。
関連)https://note.com/output_type_b/n/naf13df00b12c
FAIの治療において、保存療法は「とりあえず様子をみる」段階ではありません。明確な治療の第一選択肢です。
関連)femoroacetabular_impingement/">https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/femoroacetabular_impingement/
国内のデータでは、FAI患者96例のうち77例(80.2%)が保存療法で症状改善を達成しています。 アスリートに絞った群でも33例中27例(81.8%)が平均3.6カ月でスポーツ復帰を果たしました。 この数字を知っておくと、患者への説明がぐっと具体的になります。
関連)http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm180.pdf
保存療法の中心は2点です。
保存療法がうまく機能する目安は「開始後2か月前後で可動域の改善傾向が出ること」とされています。 2か月経過しても変化が乏しい場合は、手術への移行を患者と相談するタイミングになります。
関連)http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm180.pdf
保存療法でも骨の形態異常そのものは変えられない点は患者へ正確に伝える必要があります。 症状のコントロールと進行速度の抑制を治療のゴールとして設定することが、臨床上もっとも誠実な説明です。
関連)https://chigasaki-localtkt.com/daitaikotsuhirohoujoushindanchiryou/
「股関節の病気なのに、なぜ体幹を鍛えるのか?」という疑問は患者からもよく出ます。理由は骨盤の過剰な前傾運動にあります。
骨盤が過度に前傾すると、大腿骨頭と寛骨臼の接触角度が変化してインピンジメントが誘発されやすくなります。体幹機能が低下していると、この骨盤前傾を抑制できません。 つまり、体幹の安定化なしには股関節の安定化も達成できないという構造です。
研究では、通常の股関節リハビリに体幹安定化運動を追加した群では、追加しなかった対照群に比べ介入後4週という早い時期に股関節屈曲可動域の有意な改善が確認されています(p < 0.05)。 4週間というのは、スクワット姿勢で大腿が床と平行になる角度(目安:約90°)が達成しやすくなるタイミングとして臨床上の意義が大きいです。
体幹トレーニングとして有効なのは以下です。
これが基本です。
理学療法士向けの参考として、体幹安定化とFAI保存療法に関するエビデンスを確認できます。
FAI症例に対する体幹トレーニングの有効性(PT OT SKILLUPノート)
評価なしの治療は地図なしの手術と同じです。FAIの機能障害は大きく4つに分類されます。
| 機能障害カテゴリ | 主な問題点 | 評価の着目点 |
|---|---|---|
| ①股関節可動性低下 | 屈曲・内旋制限が主体 | 屈曲・内旋ROM測定 |
| ②股関節安定性低下 | 外転・外旋筋の筋力不足 | サイドライイングクラムテスト |
| ③骨盤帯可動性低下 | 腰椎骨盤リズムの破綻 | 前屈時の骨盤前傾角度 |
| ④骨盤帯安定性低下 | 体幹深部筋の活性低下 | トレンデレンブルグ徴候 |
この4つを漏れなく評価することが原則です。
特に見落とされやすいのが「③骨盤帯可動性低下」です。FAIのある患者は、股関節屈曲時に骨盤の前傾が過大になる(健常者12.5°に対しFAI群23.0°)ことが報告されています。 この代償動作を見逃すと、いくら股関節を鍛えても腰椎への負担が増えるだけになります。
関連)https://www.stroke-lab.com/biomechanics/8619
症例3例の術後データでも、術前から存在していた胸腰椎機能障害が術後も残存した症例では成績が不良という報告があります。 股関節だけを見ていては全体像が掴めません。評価は脊椎・骨盤帯を含めたチェーン全体に広げることが求められます。
関連)https://hospital.city.sendai.jp/wp-content/uploads/2022/02/bfbfcb2c76ba7f18701bce5e554f0e37.pdf
「痛い動作を避けなさい」だけでは、患者の生活は制限されるだけです。大切なのは代替の動かし方を提供することです。
関連)https://chigasaki-localtkt.com/daitaikotsuhirohoujoushindanchiryou/
具体的に避けるべき動作は次のとおりです。
これが条件です。
一方で、禁止するだけでは患者の運動意欲が落ち、筋力低下がさらに進みます。厳しいところですね。代わりとなる動作パターンを同時に指導することが再発予防に直結します。 例えば、しゃがみ込みの代替としては「ハーフスクワット(股関節屈曲60°程度)」や「ステップダウン動作」から段階的に開始する方法が有効です。
関連)https://chigasaki-localtkt.com/daitaikotsuhirohoujoushindanchiryou/
日常生活指導では、椅子の座面の高さを大腿骨の長さ(平均40〜45cm)に合わせて股関節の過屈曲を防ぐ工夫も効果的です。これは使えそうです。
患者が「この動作はしてもいいのか?」を自分で判断できるよう、「股関節の深屈曲+内旋が重なったとき」を危険サインとして認識させる説明の工夫が臨床では非常に有効です。
関連)https://samona.co.jp/contents/femoroacetabular-impingement-fai/
動作指導の考え方をまとめた参考記事はこちらです。
大腿骨寛骨臼インピンジメントの原因と関節唇損傷・変形性股関節症への進行(臨床目線の解説)
術後リハビリは「早く動かせばいい」ものではありません。段階を踏まない復帰は再損傷リスクを高めます。
関節鏡視下骨軟骨形成術後の研究では、術後5か月時点で股関節最大屈曲角度と腰椎前弯角が有意に増大したことが確認されています。 これはFAIによって制限されていた骨盤大腿リズムが手術で解放された結果です。 逆にいうと、術後にリズムが変わった身体に対して旧来の動作パターンをそのまま使い続けると、代償動作が温存されてしまいます。
関連)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390585017620877056
術後リハビリの段階的な目安は以下のとおりです。
アスリートの場合、平均3.6か月でスポーツ復帰が可能とする報告がある一方で、関節軟骨の摩耗が進んでいた症例では期間が延長します。 現場では「何か月で復帰できますか」と聞かれることが多いですが、摩耗の程度を考慮した上での回答が必要です。
関連)http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm180.pdf
術前からの胸腰椎機能障害の有無が術後成績を大きく左右するため、術前評価で見逃さないことが条件です。 術前から体幹トレーニングを開始しておくことで、術後回復を加速できる可能性があります。
関連)https://hospital.city.sendai.jp/wp-content/uploads/2022/02/bfbfcb2c76ba7f18701bce5e554f0e37.pdf
術後リハビリの評価指標(MHHS・NAHSなど)の詳細はこちらで確認できます。
FAIに対する股関節鏡視下手術後の腰椎骨盤アライメント変化(仙台市立病院 学術資料)
保存療法と手術療法の比較を含む国際的ガイドラインの整理はこちらが参考になります。